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星と地球

「——......っ」


 身体が重い。どうやら寝てしまっていたらしい。

 ならば先程の麗人も夢の中の出来事だったのか?


 そんな事を気にする余裕を持ちながら、実は内心焦っていた。


「寝過ごしたか......?」

 

 遅刻は勘弁してくれよ......なんて思いながら、

 全身を走る倦怠感をよそに俺はそっと目を開ける。


「あ、あの——お目覚めですか?」


 開眼一番に視線を支配したのは目を見張るほどの豪華な家具や装飾。

 俺の家のとはかけ離れているそれらを見て、あれが夢ではなかった事を認識する。


「......はっ⁉︎」


「きゃっ」


 慌てて飛び上がる俺に彼女は身を窄める。


「どこだここ......誰だよあんた」


「ここは私の部屋です。何者かは私がお聞きしたいのですが......?」


「......ごめん、状況が飲み込めない」


「私もですよ?」


 当然だろ? と言わんばかりの返し。

 考えてみれば突然押しかけてきたのは俺の方だった。

 

「——......とりあえず説明する。嘘かもしれないと思うけど、一旦聞いてくれないか?」


「......はあ」


 俺は一から事情を説明する。俺が日本の高校生であること、

 物置のドアを開けたら急にここに出てきたこと、とにかく全てを丁寧に説明した。


「——ていう訳なんだ」


「その、事情は分かりましたけど......ニホン? というのは村の名前ですか?」


「......は?」

 

 この小娘は日本を知らないのか? 世界に誇る任◯堂やト◯タの日本だぞ?


「それにコウコウセイとは......学生でしょうか?」


「学生だけど......いやいや待て待て。今俺たちが喋ってる言葉が日本語じゃないか」


「ニホン語? 私たちが喋ってるのはグルティアラ語ですよ」


「ぐ、グルティアラ......?」


「各国の共通語です」


 か、各国の共通語?


 そんなものは俺の知識が正しければ存在しない。

 強いて言えばその役割を担うのは英語くらいなもんか。

 だが共通語と言うには些か心もとない。


「これってアレか......最近よく見る異世界転移ってやつか?」


「はい?」


「......なあ、俺の家とここが繋がったことに関しては何も思わないのか?」


「空間に作用する魔術を利用すれば不可能ではないので......最も、私にはそんな大魔術検討もございませんが」


 ()()————その単語に俺の疑念は確信へと変わる。


「......やっぱりそうだ」

 

「......あの、まさかなのですが貴方様は異界の方なのではないでしょうか?」


 突拍子もない質問に大抵は狼狽えることだろう。

 だが今の俺にはその質問こそが本質でもあった。


「た、多分......?」


「やはりそうでしたか」


 納得の表情で彼女は俺を見つめる。

 確かにこの非凡な状況も、その一言で多少は納得もできる。


「落ち着いて聞いてください——」


 そう一拍を置き彼女は続ける。


「——ここは()()()()。貴方がたの言葉で言うところの()()()です」


 ————ここまでは予想通りだ。

 いや、と言っても正直かなり気が動転してるが......今はそれより気になる事が一つ。


「お、俺って帰れるのかな?」


「......申し訳ありません。恐らく不可能です」


 え、マジで? 思わずそう言いかける。


「貴方の世界はあちらの扉と繋がっていました」


 彼女はそう言いながら、部屋の奥の扉へと向かう。


「本来ここは私の浴室です。それはご覧の通り——」


 彼女が扉を開ける。俺の目に飛び込んできたのは——本当に何の変哲もない風呂場だ。

 いや、めちゃくちゃ豪華な風呂ではあるんだけど......。


「恐らくですが、もう貴方の世界とこの扉は繋がっておりません。なので残念ながら......」


「——もう帰れないと?」


「......はい」


「あぁ......まずいな」


 自暴自棄にも似た感情で他人事のように呟く。


「こればっかしは私も力になれませんので......申し訳ございません」


「いや、あんたは悪くないよ......その......」


「——ソフィアです。ソフィア・アルテミス」


「ソフィアさん? 俺は楓だ。楠木(くすのき) (かえで)


 とりあえず——と自己紹介をする。


「異界の方らしい名前ですね。どっちがお名前ですか?」


「楓が名前だ」


「ではカエデ様と」


「分かった、よろしく......って言っても、ここに長居されても困るよな」


 というより、俺がこの場から今すぐ立ち去りたいというのが本音だった。


「いえ......準備と時間が必要ですが、私が事情を説明すればこの城で働くこともできます。まずはそうされては?」


「ああ、確かに......でもいいのか? こんな不審者を」


「困ってる方をこのまま見捨ててはおけません」


 立派だね......俺だったらこんな奴さっさと警察にでも何にでも突き出すけどな。


「ありがとう。じゃあ——」


「——姫様」


 二人のどちらでもない低く渋い声——俺たちは思わずビクッとする。


「じ、じいや⁉︎」


「お耳に入れたいお話がございます。入室を許可できますでしょうか?」


「えっと、俺はどうすれば......」


「か、隠れてください! 早く!」


「え、やっぱまずい?」


「一国の姫の部屋に侵入した者を野放しにはしておかないでしょうっ」


「ソフィアさん姫なの? でも事情を説明すれば......」


「そんな暇もなく殺されるかもしれませんよ?」


「......マジで?」


 何なんだこの国は⁉︎

 いきなり殺されるかもとかどこの独裁国家だよ!


「とにかく隠れて‼︎」


「わ、分かったけど、どこに?」


「とりあえず浴室に......急いで!」


「このドアの先だよな......おっけ!」


 急かされ、俺は慌ててドアに手をかける——その時だった。

 またあの違和感を感じる。


「どうしたのですか? 早く開けてください」


「......まさか」


 ゆっくりとドアを開く。するとそこには——。


「うそ......」

 

 いつもの廊下が眼前に広がる。

 扉の先は浴室ではない。間違いなく俺の家だ。


「俺の家だ......帰れる‼︎」


 半ば諦めかけていた。

 しかし神はまだ俺を見捨てていなかった。


「そんな事があるのですね......」


 意気揚々として俺は扉の境界線をまたぐ。 


「えっと......」


 思わず言葉が詰まる。

 こんな状況の場合、俺はどうするのが正解なのだろうか?


「......どうぞお帰りになってください」


「え、いいの?」


「当然の事です。貴方には貴方の世界がある。この世界に残る必要なんてありません」


 言われてみれば確かに。

 というかそれが普通のことなのだろう。


「じゃあ......行くよ。本当に短い間だったけど......色々ありがとう」


「はい。こちらこそ。本当は異界の話を聞いてみたかったのですが......お元気で」


 寂しいとはまた違う、曖昧な思いが込み上げてくる。

 この出来事は一生の思い出になるだろう——少しの未練を心に俺は扉を閉めた。


最後までご覧いただきありがとうございます^ ^

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