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俺の家が異世界と繋がった

 ——ある日、妹が消えた。


 特別仲が良かった訳ではない。

 だけど(メイ)は俺の唯一の理解者だった。


 そんな妹が消えたと母親の口から告げられた時の絶望は今でも忘れられない。


 あまりにも不可解すぎるこの出来事に、警察は事件性ありとして大々的に捜査を開始。


 一時期ニュースでも流れるほどの話題性で、ネットなんかじゃ『神隠し』って騒ぎ立てられた。


 しかし——努力の甲斐むなしく捜査は難航。手がかりすら掴めず一年が経ち......。


「......は?」


「何度も言わせるな......メイは死んだ」


 ——妹は死亡届を出された。

 当然捜査は打ち切り。世間も妹の事なんてすっかり忘れきってる。


 実の親でさえもう妹の事を気にする様子もない。

 きっと——もう過去のことして受け入れているんだろう。


「——お兄ちゃん!」


 今でも妹の声が俺の脳に響く。

 この一年あいつのことを忘れた事なんて一度もない。


 俺だけがまるで過去に置いていかれているようだった。


 分かってる。俺もそろそろ前に進むべきなんだ。

 どんなに祈っても妹は帰って来ないのだから。


 だけど......じゃあ俺が(メイ)のことを忘れたら、誰が彼女を憶えてあげれるんだろうか。誰がメイの事を待っててあげるんだ。


 俺だけは......絶対に妹の事を忘れちゃいけない。

 俺だけは妹の帰りを信じて待っててあげないといけないんだ。


 それが......あいつの為に俺ができる唯一のことだ。




 ————ピンポン。


 明け方のの静かな朝に家の呼び鈴が鳴る。

 こんな早くに誰だよ......とはならない。

 俺はこれが誰か知っている。


「——はい」


「——おはよう。(かえで)君」


「......ああ、おはよう」


 雛宮(ひなみや) (こころ)。近所に住む同じ高校の同級生。

 特別仲が良いわけではない。ただの幼馴染。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「ごめんね毎朝......今日もお線香上げさせてもらっていい?」


「......好きにしろよ」


 ただ芽衣(めい)とは親友だったらしい。

 歳は違うが近所に住む同性の幼馴染だ。自然と距離も近くなる。


「——めいちゃん、もし生きてたら今年高校受験だったんだよね」


「......そうだな」


「めいちゃん、私と楓くんの高校に行くって張り切ってたよね」


「......ああ」


「何で......居なくなちゃったのか」


 心の気持ちも理解できる。親友が突然居なくなったのだ。

 同情の一つもして欲しいだろう。


 だがそんな言葉を聞くたびに、俺は傷口をえぐられた気持ちになる。

 そんな事は俺が聞きたいのだ。


「......ごめん。一番辛いのは楓くんなのにね」


「いや......」


 判然としない気持ちで口ごもる。

 身の置き場のない雰囲気が流れだす。

 否定はできない。だが彼女に同情する事もできないのだ。


「——私さ髪切ろうと思うんだよね」


 ——髪......? 

 唐突な告白に面を食らう。

 そもそも何でそんな事を俺に?


「何でそれを?」


 すかさず聞いてみた。


「......何だろう。部活で邪魔だからってのもあるんだけど......ほら、めいちゃん私の髪の毛好きって言ってくれてたじゃん」


 その言葉を聞いて妙に納得した。


「......前に進みたいんだな」


「うん......どう思う?」


 どう思う——?

 そんな重い言葉を簡単に投げかけないでほしい。


 俺に許可を取る事で、彼女も自分の中で何か踏ん張りがつくと思ったのかもしれない。

 だけど.それを俺に聞くのは間違いだったと思う。


「俺は......切らないでほしい」


「なんで?」


「妹が好きだった物は残しておきたいし......何より俺も好きだぞ。心の髪」


「......あはは、そっか。じゃあ切るのは一旦保留にしなくちゃね」


 重く綺麗な黒髪を触りながら、彼女は少し悲しそうな目をした。

 その口元は微かに緩んでいるが——それ以上に彼女の立ち姿からは哀愁が漂っていた。

 

「私行くね」


「ああ、ありがとうな」


「......楓くん。こんな事言われるの嫌かもだけど私は楓くんにも前に進んで欲しいって思ってるの」


「俺も?」


「うん。勿論めいちゃんのことを忘れろって意味じゃないよ。でも、やっぱりこのままじゃダメだよ」


 ——今俺はどんな顔をしてるんだろうか。

 そんな事は自分でもよく分かってる。

 だからこそそんな事を言われると......——。


「私も前に進みたい......楓くんと一緒に進みたいの。だから——」


「——うるせえよ!」


「ひっ......っ」


 あぁ......やってしまった。

 心の驚く顔を見て、居た堪れない気持ちでいっぱいになる。

 だがもう歯止めは効かない。後戻りもできない。


「お前に何が分かるんだよ......俺の気持ちも分からないくせに‼︎」


「......ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの......本当にごめんなさい」


 心の怯える目を見て俺はハッと我に帰る。


「あ、いや......悪い。怒りすぎた」


「ううん......ごめん。私もう行くね。また学校でね」


「ああ、またな」


 何を怒鳴ってたんだ俺は......辛いのはお互い様なのに。

 いつからこうなってしまったのだろうか。

 考えても考えても答えが喉の奥で突っかかる。


「......クソッ」


 学校ではきっと気まずいだろうな。

 後悔は募るばかりで解消されない。


「......とりあえずやるか」


 この一年間、俺は毎朝毎晩やってることがある。

 

「行方不明、目撃情報......っと」


 ネットによる情報収集。それが俺の日課だ

 微力でしかないが、何もしないよりかはだいぶんマシだった。


「9月29日19時46分——歓楽街にて行方不明者らしき少女を発見......これはめいじゃないな」


 他にも記憶喪失の少女の記事など色々と目を通すが、それらしいものは当然見つからない。


「今日もダメか......ん?」


 ふと画面を見ると、一つの目のつく記事を見つける。


「危うく神隠しにあいそうになった件について......?」


 匿名性の某有名掲示板をまとめたやつか。

 興味もない変な記事だが、()()()という単語には強く惹かれた。


「神隠し......か」


————————————————————————————————————————


0001 以下8チャンネルがお送りします 20XX/10/4 (木) 2.13.33.672

 急に家の扉が変な所に繋がったんや


0002 以下8チャンネルがお送りします 20XX/10/4 (木) 2.13.56.849

 >>1 kwsk


0003 以下8チャンネルがお送りします 20XX/10/4 (木) 2.14.59.992

 尿意が来たから普通にトイレのドア開けたら目の前森やったんや

 訳分からんで入ったらドア消えかけて慌てて戻った

 ドアの向こう見たら普通にトイレやった


 もう怖くてトイレ行けん。普通に漏らした


0004 以下8チャンネルがお送りします 20XX/10/4 (木) 2.15.34.332

 >>3 わろたwww汚ねえww


0005 以下8チャンネルがお送りします 20XX/10/4 (木) 2.15.48.688

 >>3 釣りだろ。もう少しまともな嘘つけ

————————————————————————————————————————


「——つまらねえ記事だな——って、554スレ?」


 めっちゃ伸びてるじゃねえか。

 どこにそんな要素があんだよ......。


「同じ体験をした奴がチラホラいんのか......バカらしい」


 UMAの目撃情報じゃあるまいし、いい加減にしとけ。


「たく、今日も収穫はゼロか」


 調査結果をまとめたメモを見ながら、俺は今日も落胆する。


「一旦片付けるか」


 調査レポートは全部地下の物置にしまっている。

 最初は部屋で管理していたが、量が多くなって部屋の本棚に入りきらなくなったからだ。


「——あれ」


 妙だな。家が静かすぎる。

 いつもだったら母さんが起きてきて朝の支度をしてるはずなのに。


「母さん?」


 返事はない。本当に起きてないのか?


「寝坊かよ......後で起こしてやるか」


 にしても妙な胸騒ぎがする。気のせいか一歩が重い。

 それに何だか息苦しい。頭痛さえしてきた。目眩もだ。


「何だこれ......はぁ」


 ベットで一旦休むか。片付けはその後からでもいい。

 そう思いながらも、俺の身体は地下へと向かっていく。


「どうしちゃったんだ俺」


 そんなこんなで俺は地下の階段をおり、扉の前へ到着する。

 そして俺はここで異変に気付く。

  

 おかしいのだ。明らかに。

 全てがいつもの感じじゃない。


 家の雰囲気も、俺の状態も、この地下の扉も......全てが禍々しく感じる。


 引き返すべきだと——直感で感じる。

 だが、俺に手は何故かドアノブへとかけられた。


 ——神隠し——家の扉が——。


 断片的に嫌な情報が脳内を巡る。

 だが既にそんな事を考える暇はなく、俺の手はゆっくりと扉を開いた。


「————............っ」


 目の前には——ひとりの少女が座っていた。


「......っ」


 少女はポカーンとした様子で俺を見つめる。


 CGかと見間違うほどの美形。

 作り物かと思うほどの綺麗なブロンドの髪。

 人間とは思えないほどの美しい純白の肌。


「......は?」


 そんなこの世のもとは思えない麗人が、突然はだかで俺の前に現れる。

 俺の思考は完全に停止した。


「きゃ、きゃああああああ‼︎」


 彼女が悲鳴をあげる。


「待て、コレは——......っ」


 言い訳をする暇もなく、彼女の姿を最後に俺の意識が暗転する。


(クソっ......やばい、気絶す......——っ)


「ひい——っ!」


「......っ」


「え......気絶した?」


「——姫様‼︎ ご無事ですか!」


「じ、じいや⁉︎ だ、大丈夫です! 少し転けてビックリしただけ......とにかく入って来ないでください!」


「姫様、鍵をお開けください‼︎」


「もう......それより、どなたなのでしょうか......この方は」


 困り果てる少女。

 この出来事——そしてこの出会いが俺の人生を大きく変える事を、まだこの時は知るよしもなかった。

最後までご覧いただきありがとうございます^ ^

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