Legacy Zero:失われた仕様書
5000万行のCOBOLシステムが、某国でJavaにリプレースされた。僅か数ヶ月で。
それは“成功”として報道され、エンジニアたちは誇らしげに胸を張った。
だが彼らは、まだ知らない──
そこが地獄への入り口であることを。
仕様書なきレガシーをAI任せで再構築した、その一手が、すべてを狂わせる扉だったことを──
そのシステムは実際に稼働した、稼働してしまった。
そして、翌日から役所に殺到する苦情。
エンジニア達は「仕様通りに作ったはずだ」と、COBOLコードをAIに投げかけながら検証をしようとする。
エンジニア達は困惑する、確かにあの時AIはこう返答したはずなのに、それを記録にすら残しているのに…
今のAIの返答は、当時と全く異なった。
エンジニアは混乱しながらも、Javaリプレースコードに手を加える。
そうすると一部の問題は解決するが、別の問題が発生する。
モグラ叩きのような状況だ。
国の中枢を担うシステムであるがゆえに、時間は潤沢に与えられるはずもなく。
やむなくCOBOLシステムに切り戻すが、時既に遅し。
既にJavaリプレースで生成されたデータが、COBOLシステムに悲鳴を上げさせる。
国の中枢システムが危機的状況に陥った。
急遽COBOLのベテランエンジニアを何十人も雇うが、5000万行ものコードを前に愕然とする。
「こんな量のコード、COBOLで書き直すにしても10年は掛かりますよ!しかも仕様書とコードの整合性も全く取れてない!」
それでも、時間は待ってくれない。
COBOLエンジニア達は、わかる範囲でデータに緊急パッチを当てることで、なんとかCOBOLシステムへの切り戻しは成功した。
そうなると、責任を追及されるのはJavaエンジニア達だ。
「きちんとAIの解析に従って、システムを完全に構築したんです!」
そんな言葉も虚しく、信頼に値しないシステムとして、Javaリプレースコードは完全破棄された。
Javaエンジニアとして雇われた若者達は「悪夢の三日間の元凶」として懲戒解雇のみならず、損害賠償請求までされる。
当然、その若者達の未来は、明るいものではなかった…
この作品は、著者の意思により CC0(Creative Commons Zero) ライセンスで提供されます。
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