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なんなの……この人たち。

『魔術師』、織部(おりべ)四季(しき)


関西の名門、徳実(とくさね)学園の女子バレーボール部において、一年の頃からレギュラーとして活躍する名セッター。抜け目のなさと意表をつくプレイ、それを支える卓越した技術を持って、一癖も二癖もあるスパイカー陣を自在に操る様はまさしく『魔術師』。織部の手にかかれば、相手すらも勝利のための舞台装置へと成り下がる。



『風雲急』、来海(くるみ)ロナ


小柄な体躯とそれに見合わぬ身体能力で、試合を掻き回す無法な少女。同じチームのセッター、湯浅との息のあったコンビネーションは多くのブロッカーを涙させた。小さな身体で思う存分翻弄し、いきなり現れては得点をかっさらう姿はまさしく『風雲急』。その姿に侮ることなかれ、その少女はその喉元に牙を突き立てる獣となる。



『有頂天』、新橋(しんばし)穂花(ほのか)


典型的なスロースターター。それでいて気分屋の面もある、めんどくさいプレイヤー。それだけに乗らせたら最後、試合が終わるまでその勢いが途切れることは決してない。得点を取れば取るほど、プレイ一つ一つのキレが良くなっていく様はまさしく『有頂天』。試合が終わるとき、それは才能の片鱗を見せるとき。



『無頼漢』、唐沢(からさわ)黄金(こがね)


『冷血漢』、『門外漢』に並ぶ、三漢の一人。究極の個であり、プレイヤーの完成度としてはプロプレイヤーにすら劣らない。ブロック、カット、スパイクと全ての要素において一部の隙もなく、チームメイトすら置き去りにする姿はまさしく『無頼漢』。彼女は群れず、馴染まず、頼らない。その仲間すら、足枷にすぎないのだから。



『麒麟児』、如月(きさらぎ)エイミー


黄金世代の先駆けとなった少女。一年生の身でありながら、選手権大会優勝に一役買った怪物。その恵まれた体躯もさることながら、身体能力、反射神経ともに規格外。10年に一人の才能と囁かれ、彗星のように現れ並いる強豪校を破っていく姿はまさしく『麒麟児』。その才能にあてられたものは数知れず、彼女もまた一時代を築いた英雄だった。


◇◇◇


「ま、自己紹介はこんなもんでええんちゃう?」


他の5人より(勿論私も含めて)、よほど社交的であったために、その場を回していた少女、織部四季はそう締めくくる。


健康的に焼けた肌にぴったりな、からっとした性格。カチューシャを使っておでこを丸見えにさせた髪型は妙に似合っており、隠すつもりもない両目が爛々と光っていた。


「さあ? あんまりにも無駄な時間だったから、半分くらい聞き飛ばしてたし、わかんないや」


自己紹介タイムにあまり肯定的じゃなかった少女、来海ロナは、それも踏まえて文字通り噛み付く。


チワワとも称されていた(これはさよちゃんの弁だけど)だけに、そのキリリと細められた目は野生の獣のように鋭い。だけど、無意識にか若干ウェーブのかかった髪の毛先をくりくりと弄る姿は、年相応に可愛らしかった。


「……いや、助かったわ。あんたらのことなんて、名前も何も知らんかったし」


来海さんとは逆に、自己紹介の時間を希望していた少女、唐沢黄金は頭をかきながら鬱陶しそうにそう呟く。


気怠げに下げられた目尻、タバコを咥えたまま退屈そうに頬杖をつく姿は、その髪型も相まって牙を抜かれた狼のように見えてくる。だけどこの人の怖さは私自身よく知っているし、正直ここにいて一番驚いた人物でもある。


「ちょ、ちょいちょい。喧嘩腰はやめなって。これから仲良くやっていこうってときにさー……」


そう言って、唐沢さんの態度を軽く嗜めるもあえなく無視される少女、新橋穂花はやっぱりちょっと可哀想で。


チークでほんのり赤くなったほっぺを膨らましながら、ピンクとパステルイエローのツートンカラーのツインテールをしょんぼりと垂らしている。ナチュラルメイクというやつだろうか、その泣きぼくろやぱっちりとしていた二重を引き立てるように、工夫が施されているように感じる。


「あ、お菓子無くなった……しょぼん」


そんな他の4人のやり取りは気にも留めず、ただただマイペースな少女、如月エイミーは至極残念そうにお菓子の空箱を眺めている。


イギリス人を母に持つ如月さんは、ハーフだけあって目鼻筋が整っていて、黙っているとそれだけで絵になってしまうほどに綺麗な顔立ちをしていた。

アイドルというより、女優の方がイメージが近いかもしれない。

その手入れされた綺麗な髪や、傷一つシミ一つない肌を見ても、バレーボールをしていたなんて話は嘘みたいに聞こえてくる。



そんな風に纏めてみたものの、要するにここにいる全員が、かつての私のライバルだった人たちで。

こうして顔を突き合わせていると、なんだな変な気分になってくるな……。


「それに加えるなら、嬉し恥ずかし二つ名を賜ってるってことやなー」

「あ、あんなの。どっかのバカが勝手に言ってるだけでしょ」

「そない言っても、知名度が知名度なだけに……なんなら、名前よりも二つ名の方が通りがええんやで?『能登の風雲急』はん」

「そんなダサくなかった! あと、私の出身は金沢市で、半島生まれなんかじゃない!」

「どこをキレとんねん」


テンポの良い会話のラリー。案外この2人は仲が良かったんだろうか。そう言えば、私が談話室に入って最初の絡みも、この2人だった気がする。


「えー、そう? わた……ウチは結構気に入ってるけど、なんかカッコいいし……ねー」

「…………」

「え、えっと……こがねっち?」

「…………」

「あ、あははー。案外シャイだったり……?」

「…………」


……こっちは大分悲惨みたいで。新橋さんがどうにか歩み寄ろうとするも、唐沢さんの徹底的なスルーの前にはどうすることもできず、泣きそうな顔になっている。


って、これは流石に私も口出しさせてもらうよ!


「ちょっと唐沢さん!」

「……なんなん、急に大声出して」

「急じゃないし。新橋さんを無視して」

「無視……? ちゃうって、ちょっと考えことしとっただけやし」

「考えごとって?」

「は? なんでそげんこと教えんといけんの? 誰だって、考えことの一つや二つするやろが」


見たまんま、あわあわとしている新橋さんの横で、視線を交錯させる私と唐沢さん。そこに割って入る声があった。


「自分……意外にも、方言きっついな。どこの生まれなん? 東京ちゃうやろ?」

「岡山」

「ああ、やっぱ関西圏か……桃太郎県やね」

「桃ってよりマスカットでしょ? サンシャインなんとかってのが有名な」

「誰も主要産業の話はしてへんねん。急に喋ったと思ったら、濃いな自分」


そこまで言うと、如月さんにビシッと人差し指を向ける織部さん。まあまあ失礼な行為だけど、如月さんに気にした様子はない。


「聞いてもええか? 如月はんと唐沢はん。自分ら2人、なんでこんなところにおるん? バレーボールを辞めてまで、わざわざこんなチャラチャラした道を選んだんや? 今日顔合わせてからずっと、それが不思議でたまらんねんけど」

「私も気になってた。なに考えてんの?」

「……それはお互い様じゃなかったんか」

「はん、それを私らに言わせるんか。そっちとこっちじゃレベルがちゃうやろがい。自分は、古田と城島を比べるんか?」


例えはよくわからないけど、織部さんの言っていることは凄くよくわかってしまう。

黄金世代と一括りにはされているものの、この2人は抜きん出てる。それは、直接その強さを肌で体感した私たちが、一番よく知っていた。


「そこんところも含めて、もう一回腹割って、話して行こうやないか。まさか、嫌とは言わせへんで……? まずは私から。『Starlight』はんにお世話になることを決めたのは……つつじーがおるって聞いたから」

「同じく」

「お、同じくです」

「まあ……同じく」

「アグリー、アグリー」

「よし。ほなら、問題ないな」


「そんなわけなくないっ!?」


理解し難い答えに、思わず大きな声を出してしまう。というかさっきの流れ、絶対に打ち合わせしてよね!?



「そりゃ、せやろ。自分が来るまで、何十分ここに拘束されてたと思うてん。そういう話は、粗方話終わっとったわ」

「……ということは。さっきのやり取りは、遅れてきた私に対する嫌がらせですか?」

「なんでそうなるねん。ネガティブが服着て歩いとるんか自分。如月はんも、なんか言ってやりーな」

「アグリー、アグリー」

「あー……誰か、バットかなんか持ってへん? この鳴き声を、黙らせるわ」



だ、駄目だ。

社交性が一番高いのは織部さんだけど、織部さんと話しているとそっちの空気に持っていかされる。これも関西の血が騒ぐからなんだろうか。


織部さんは諦め、一番話の通じやすそうな新橋さんの方へ目を向ける。大方、織部さんにノリを強要させられているんだろうと思ったんだけど……予想に反して、キラキラした目を向けられてしまった。


「あの、私……筒路さんに憧れているんです!」

「………はい?」

「さっき、私のために怒っていただいたときも、ほんともうカッコよくて! 危うく失禁するところでした!」

「そりゃ、前代未聞やな」


そう織部さんに茶々を入れられるも、気にした様子はなく。ただずいずいと彼我の距離を詰めてくる……え、何これ?


「この格好も筒路さんに見合う女性になろうと思って……どうです? 似合ってますか? 似合ってないなら戻します、迅速に!」


それが嘘じゃないと言うように、肩に下げたバッグの中から墨汁を取り出す新橋さん……墨汁。あまり中身は入っていないように見えるけど、その小さい容量の中に、敢えて墨汁……。



「いや、憧れって……なんで……?」

「私、バレーを始めたの、小学校のときの筒路さんの試合を見てからなんです! 姉に連れられて観戦に行ったんですけど、筒路さんのご7連続サービスエースには痺れました!」

「7連続ってなるとあれやな」

「5年ときの県大会の決勝」

「よー覚えとるな、唐沢はん。けどあの試合って、自分、負けたんちゃうかった?」


……なんか、異常に私の戦績が知られてる気が……。ちょっとだけ、怖くなってきた。


「あれは! 筒路さんが途中負傷したからです。それが無ければ勝ってたはずです!」

「確か交代とかはしてなかったけど……そうなん?」

「明らかに右肘を庇うよう動きをしてましたから。間違いないはずです」

「ふーん……全然ついていけないや」

「アグリー、アグリー」

「ま、そんなのはどうでもいいとして」


ぐっと新橋さんの肩に手をかけ、立ち上がりにじり寄っていた新橋さんを引っ剥がす来海ちゃん。

身長差があったとは言え、新橋さんは呆気なく倒されてしまった。



「こいつとは逆に、私はあんたを敵視してるから」

「えっ、……それは嘘だよ」


だって私、来海ちゃんと対戦したことなんてないし。そりゃ試合を観戦したことはあるけど、恨まれる覚えなんて微塵もなかった。


そんな思いから出た言葉だったけど、それが余計に癪に触ってしまったようで。ただでさえ鋭い目が、更に細められてしまう。


「器がちゃうなー。戦う前から完全敗北やん」

「うるさい!」

「この嬢ちゃんはなー? 似たような立ち位置で似たようなポジションの自分と比べられるうちに、ライバル意識を持ったってだけのアホやから、堪忍したってな」

「うるさい!」

「に、似てるってどこが……? 来海さんの機動力は唯一無二だと思うけど……?」

「背が低いってだけで、同族意識を持たれたんや。哀れやろー?」

「だから、うるさい!」


ガンガンと何度も床を足で蹴り付ける来海ちゃん。その行動には、本人の直情的な性格がよく現れていた。


「とにかく、あんたは私のライバルだから! プレイヤーとしても、アイドルとしても私が上を行ってやる! 吠え面をかく準備をしておくんだね!」


そう言いたいことだけを言うと、ぷんすこ、という効果音が似合いそうな足取りで自分の席へと戻る来海ちゃん。


それを見届けると、織部さんはさっきの来海ちゃんの行動の真意を教えてくれる。



「あの子、ああいう言い方しかできへんツンデレさんやけん。可愛いやろ? 虐めたくなるやろ?」

「いえ、別に……」

「なんや、素っ気ないなぁ。大親友やってのに」

「だ、誰がですか?」

「今ここに、私とあんた以外おらんやろ。ほんま、おもろいなー、自分」


そう言ってケラケラと笑う織部さん。はっきり言って、この瞬間が一番恐怖を感じた。


親友……親友って? 小中高を通して、何度か対戦したような記憶はあるけど、話したことはなかったはずだよね……。

そう言えば最初、鬼電とかなんとか言ってたけど、私の電話番号も知らないはずだよね……?


そんな困惑を他所に、織部さんはズカズカと距離を詰めてくる。


「勿論、さっきの言葉に偽りはないで。自分がアイドルになるってゆうから、飛び出た目玉を押し戻してアイドルになることを決めたんよ。……他の2人はよー、わからん。結局、核心的な理由は話さんかったしな。まあ、如月の思惑はなんとなく察せられるけど……。ほなそういうことで、これから宜しくお願いしますね」



全然よろしくしたくない……よろしくしたくないよ……。さよちゃん、助けて……。

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