第8話 ルナの魔法講座
第8話 ルナの魔法講座
「じーーーーーーー」
「ご、ごめんって……」
うぅ、アンナの視線が痛い。
目覚めたアンナは目の前に立っていたルナの恰好に驚き、フェンリルが消えたと騒ぎ、一体どういう状況だと私に説明を求めて来た。
「実は……」
とアンナが寝ていた時の話をすると、だんだんアンナの機嫌が悪くなってきた。
どうやらアンナに相談もせず勝手に話を進めていた事が気に入らなかったらしく説明が終わってからというもの、頬を膨らませてジト目を向けてくる。
「ルナが言うには、私達って洗礼式を受けてなくても使えるらしいんだよね、魔法」
「え、それって本当!? やったあああああっ!!」
私の叫び声でたたき起こしてしまったアンナだったが、ルナから聞いた話を教えてあげると一瞬でご機嫌になってルナの腰にしがみついて「魔法魔法!!」と嬉しそうに飛び跳ねている。
そうすると私の足を使って優雅にお昼寝していた白い毛玉達も目覚めて、何やら楽しそうに泉の傍を走り始めた。いいなぁ、モフモフがじゃれ合ってるのを見ているだけで癒される……。
前世の私はペット不可のマンションに住んでいたからこうして手の平サイズのふわふわもふもふの動物がじゃれあっているのを見たり触ったりするのが何よりのご褒美だったらしい。
「ご主人様、いかがしましょうか?」
「ぅえっ!?」
そんな光景を嬉しそうに眺めていると、ルナが私に決定権をぶん投げてきた。するとどうだろう、それまでルナに縋り付いていたアンナのキラキラとした目が私の方を向く。私は『目は口程に物を言う』とはこのことなんだなぁと深く実感する事になった。
「ねえマリア、魔法使いたいよね! ね!?」
「うぅーん……」
「移動を再開しよう」だなんてアンナのお願いを断るほど私は鬼ではない。
それにいざという時、私達が少しでも魔法を使えた方が良い。食料もある程度であればルナが持っているという事だったので、安全が保障されている聖域でしばらくの間生活することを決めた。
「ねえねえルナ! 私、早く魔法使ってみたい!!」
アンナは凄まじい勢いでルナの差し出した焼き魚を胃に詰め込むと、早速ルナの魔法講座を催促しだした。
ルナは人間がどのように魔法を行使しているのかは分かりませんが、と前置きしたうえで私達の手を取った。
「私達フェンリルが行っている方法になりますが、まずは体内にある魔力を意識するところから始めましょう」
ルナの指示に従ってそれぞれルナの手を掴む。
太陽が沈み、夜の帳が私達を覆い隠してしまう前に何らかの手ごたえが欲しいところではある。
「目を閉じた方が魔力を感じやすいかもしれませんね。それでは、始めます」
私達は素直に目を閉じて、その瞬間を待つ。
私の手を握っている温かなルナの手に意識を集中させる、と不意にその手を伝って温かい何かが流れ込んでくるような感覚を覚えた。
「…………うひゃぁ! なんかぞわぞわした!!」
「アンナ様は良さそうですね。ご主人様、身体の中に魔力が流れたのですが、分かりましたか?」
素っ頓狂な声を上げたアンナの様子を見るに、ルナの手から魔力の流れを感じたと思うのだけど、そんなに変な声が出るだろうか。
「うん、ルナからあったかい魔力が送られてきた、と思う」
「えぇ!? 私、なんだか身体がむずがゆいっていうか、ほんとぞわぞわって感覚だったんだけど」
「ルナ、何が理由か分かる?」
どうやら私とアンナでは魔力を受け取った時の感覚に違いがあるみたいだ。
その差が気になったのでルナに理由を尋ねてみる。
「これは魔力の波長が原因かと思います。生き物はそれぞれ独自の波長を持っています。今みたいに異なる波長を持つ者の魔力がぶつかると、自分の中の波長が乱されアンナ様のように違和感を感じる事があります。これがひ酷くなると『魔力酔い』という状態になるので、アンナ様は気を付けてくださいね」
不安な表情をしていたアンナに気付いたのか、ルナは「アンナ様に問題はありませんよ」と頭を撫でながら優しく諭す。
「そうしたら私はどうなの? ルナの魔力を受け取っても全然ぞわぞわーってしなかったんだよね」
「それはですね、ご主人様が愛し子であるからだと思います。」
ルナ曰く、愛し子の魔力の波長はほぼどんな生き物にも拒絶されないらしく魔力を受け取っても魔力酔いする事はないんじゃないか、との事。
「えぇーーー、マリアうらやましいなぁ……うぅ、さっきの感覚忘れられそうにないや」
腕をさすりながらアンナが恨めしそうに私を見つめてくる。ごめんねアンナ、私はどうやら一生味わわなくて済むようだ。
そうこうしているうちに陽が沈み切り、森が真っ暗になったのでルナが魔法で火を点けてくれた。
「それでは次は、自分の体内に流れる魔力について意識してみましょう」
パチパチと燃える焚火を囲んだ私達は、リラックスした姿勢でウンウンうなり自分の身体を流れる魔力を意識しようと頑張った。
そうしてパチパチと焚火が燃える音を聞きながらかなり長い時間集中していたのではないだろうか。
不意に隣に座っていたアンナが立ち上がったかと思うと
「難しいーーー!!」
とかなりの声量で叫んだ。安全が保障されているとはいえ、雲を掴むような行為を延々と行っていたのだ。こうして叫びたいくらいにはストレスは溜まっている。
私達を見守ってくれていたルナは大きな耳をペタンと倒していたものの、うとうとしていた毛玉達はびっくりしてしまったようで何事かと辺りをキョロキョロしている。
やがてプスプスと鼻を鳴らしながら不満を主張した毛玉達がアンナに群がった。そこでようやく毛玉達を起こしてしまった事に気付いたアンナは慌てて毛玉達に謝っていた。
「もう遅いですし、練習はまた明日行いましょうか」
とルナが終了を宣言したところで今日の魔法講座は終了となった。
アンナは疲れてしまったのか、そのまま寝るようで群がる毛玉をそのままに「おやすみ」と挨拶を交わすと、毛玉達と一緒に寝入ってしまった。
……私も今度、大声出してみようかな?




