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第7話 旅のお供と愛し子

 第7話 旅のお供と愛し子



『ご主人様、聞こえますか? 私です、私。貴女の目の前にいる銀の毛並みが美しいフェンリルが貴女の脳内に直接語り掛けています』


 そんなふざけてるのかふざけてないのか分からない声が頭の中に響く。

 これはどういう状況なんだろう、あまりにも情報量が多すぎて脳が処理落ちしてしまった私は、かなり間抜けな表情をしていた事だろう。


『あのーーー……ご主人様?』

「んあっ!? アンナ……狼が、しゃべった……」


 真っ赤に泣きはらした瞳のアンナに目の前の狼の事について尋ねてみると、しゃくりあげながらも私が意識を失った後の事を話してくれた。


「あの後、マリアが倒れてからこの狼さんが私達をここまで連れて来たの。狼さんが少し寝てれば目を覚ますって言ってたんだよ……本当に、本当にマリアが無事でよかったぁぁぁ……」


 そうして再びグスグスと泣き出してしまったアンナの頭をポンポンと撫でていると、アンナはかなり疲れていたのだろう。私にもたれかかるようにして眠ってしまった。


 ひしひしと視線を感じたので仕方なく狼に視線を向けると、また頭の中に声が響いて来た。


『ここは私たちフェンリルが守護している聖域、と呼ばれる力ある領域でございますご主人様』


 未だに信じられないけどどうやら目の前の狼は、狼ではなくフェンリル、という種族らしい。そういえばお爺ちゃんがいつかの授業で話していた事があった気がした。


 フェンリル、女神アマリツィア様の創り出した神聖な獣。

 人の前に姿を見せる事はなく、この世界が生まれた頃から世界の秩序を保っている、とかだった気がする。目の前で伏せをした状態の狼が神話に登場するフェンリルだと未だに半信半疑の私が居るけど、ところで……。


「さっきからご主人様、って言ってるけどそれって私の事?」


 恐る恐るフェンリルに話しかけると、フェンリルの尻尾がブルンブルンと激しく動き、うれしそうな声が頭に響いて来た。


『もちろんです! イビルボアとあわや相打ちかと諦めかけていた所を、この世界の愛し子であるご主人様の魔力を頂いた事によって契約は結ばれ、私はこの命を繋ぐ事が出来たのです』


 フェンリルの話を聞くと、1週間ほど前からあの辺りで禍々しい気配を纏った猪、魔物であるイビルボアが暴れていたんだとか。聖域内に侵入しようとしたイビルボアを深手を負いながら滅ぼしたものの、聖域から離れていたためフェンリルの傷を癒せるほどの魔力は存在しなかった。


「そこに偶然私が来た、と」

『はい、ご主人様の持つ魔力は実に美味でお陰で私の力も以前より増しております!』


 まあそれは私には関係ない。それよりも気になるのはイビルボアはフェンリルがあそこまで深手を負うほど強力な魔物だったのかという事。


『お恥ずかしい話、この子達を守りながら戦っていたのでイビルボアの攻撃を避ける事が出来なかったのです』

「ん? この子達?」


 フェンリルの視線は私の足元に向かっている。

 その視線を追って行くと、眠ってしまったアンナと……真っ白ふわふわな毛玉が居た。しかも複数の毛玉がスヤスヤと気持ちよさそうに丸くなって眠っている。


 何だか下半身が重たいと思ったらこの毛玉が乗っかっていたのか。


「……この子達って、フェンリルの子なの?」

『ご主人様の魔力が魅力的だったためこの子達も離れようとしないのです。申し訳ありません……』

「そういえば私のことを愛し子だ、とか言ってたのもその魔力が関係してるの?」

『はい。愛し子の魔力は私達聖獣にとって非常に魅力的な物であるとともに、愛し子と契約を結ぶと聖獣としての格が上がるので皆、こぞって愛し子に気に入られようとします』


 ふむふむ、これまでの話で私が愛し子であるのは確定。

 その私が瀕死の状態だったフェンリルに触れた事によって契約とやらが結ばれて、フェンリルは回復。その代償に急激に魔力を吸われた私は意識を失って今に至る、と。


 私が脳内で考えを纏めていると、目の前でフェンリルがソワソワとしだした。尻尾の揺れる速度も心なしか速くなっているように感じる。


『ご主人様、あのぉ……』

「どうしたの?」

『私に名前を頂けませんか?』

「名前」

『はい。愛し子との契約は聖獣に名付けを行う事によって完了します。なので私としてはぜひご主人様に名付けをしていただきたいのです!!』


 ただの5歳であったマリアならそのまま名付けを行っていたところだろう、だがしかし今の私はアルマニア王国よりも文明が発展した日本で生きていた記憶を持つ幼女なのである。


 契約と名の付くものを結ぶ時は慎重にしなければいけない。

 契約、という単語には非常に敏感な私へと進化しているのだ。


「私が契約する事で得られるメリットを説明してくれる?」

『え……メリット?』



 キリっとした表情でフェンリルを見つめると、何やらフェンリルから慌てたような声が返って来た。


「私は貴女に魔力を提供するでしょ、その対価に貴女は何を提供してくれるのかという事よ」

『なるほど……生まれて長い間生きており、契約は初めてですが、命の恩人であるご主人様のため精一杯お仕えさせていただきます!』

「それじゃあ私達の旅に護衛としてついて来てくれる?」

『当然です、それと……こうして姿を変えられますので、ご主人様の身の回りのお世話もさせていただきます』


 そう言ってフェンリルの身体が淡く光ったかと思うと、目の前には銀の耳に尻尾を持った美少女が立っていた。何故かメイド服に身を包んでいる。なんでメイド……?フェンリル、だよね?


 外見は15歳くらいだろうか、腰に届きそうな銀の長髪をなびかせ大きな金の瞳に涙が滲んでくる。私よりも身体は大きい彼女はそわそわ、と効果音が聞こえてきそうな雰囲気を漂わせて私を見つめてくる。


「いやいやなんでやねん!」とツッコミたい気持ちを、理性を総動員する事で抑え込んだ私の口からは、当たり障りのない誉め言葉しか出てこなかった。


「うわぉ……フェンリルって凄いんだねぇ」

「ご主人様、ぜひ私と契約を結んでいただきたいのです!」


 そんな言葉でもフェンリルの尻尾が嬉しそうにブルンブルンと動く事で何だか罪悪感を感じてしまった……私は悪くない。

 私がフェンリルと契約するだけでこの旅における危険度はグッと下がる。


「……貴女の名前だけどルナ、で良い? 銀の毛並みが月みたいに美しかったから遠い国の言葉で月を意味するんだけど」

「ルナ、素晴らしい名前をありがとうございます! 今日から私はフェンリルのルナです!!」


 ルナが名前を受け入れた事で、私とルナの間に目に見えない繋がりが生まれた事が分かった。


「これで契約は完了です。ご主人様、子供共々末永くよろしくお願いいたします」

「えぇっ!? この子達もついてくるの? 聖域の守護は大丈夫なの……?」

「んんぅ……まりあ……」


 ルナの発言にびっくりして思わず大きな声が出てしまった。

 私の声でアンナが身じろぎしてしまったため、声をのトーンを落としてルナに話しかける。


「ルナ、申し訳ないんだけど今の私達じゃあ貴女たちがお腹いっぱいになるほどの食料とか温かい寝床とか含めて養う事が出来ないんだよね……」


 情けない契約者でごめんね、とつぶやくとルナは何やらウンウンと頷くと笑顔で言い放つ。


「ご主人様、そのような事は気にされずとも問題ありません。私達は魔力さえあれば死ぬことはありませんから。聖域についてもご主人様と契約を結んだ事でより強力な結界を展開できましたからたとえ魔王の攻撃を受けてもご迷惑をお掛けする事はありません」


 ご主人様の魔力のおかげです、とルナが締めくくった。魔王とか不穏な単語も出て来たけど心配はしなくて良い、と言うことが良く分かった。


 妙な安心感が芽生えた事で、私のお腹がぐぅ、と鳴った。

 静かな空間に情けない音が響いた事で、じわじわ頬が熱くなるけどルナはどこから取り出したのか焼いた魚を差し出して来た。


「えぇ!? 今どこから出したのコレ!!」

「はい、これは人が生活魔法と呼んでいる魔法の1つ【インベントリ】というモノになります。ご覧になった事はありませんでしたか?」

「えぇ……そんな生活魔法見たことなかったや……まあ私達はまだ魔法が使えないし何かあったらルナに頼る事が多いと思うから、その時はよろしくね?」


 とまるで焼きたてのようなアツアツの焼き魚を頬張っていると、ルナは不思議な表情で首を傾げている。


「ご主人様、魔法使えないんですか?」

「うん、私とアンナはまだ洗礼式を終えてないから魔力が使えないんだよね」

「え? ご主人様もアンナ様も魔法使えますよ?」


 衝撃的な発言をしたルナと見つめ合う事少し。

 アツアツの焼き魚をモグモグ、ごっくんと胃の中に収めたところで


「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

「んにゅぅ……?」


 アンナが寝ている事も忘れ、私の叫び声はオレンジ色に染まった泉を揺らした。

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