第5話 2人ぼっちの……
第5話 2人ぼっちの……
森に入ったその日の夜、私達は暗闇に閉ざされてしまった森でジッと身を寄せ合っていた。
すると、沈黙に耐え切れなくなったのかアンナが声を潜めて話しかけて来た。
「ねえねえマリア」
「うん、なぁに?」
「大きな木の洞が見つかって良かったね?」
「うん」
私達は幸運にも日没前に森の中で一夜を超す事が出来るような洞を見つけた。
今日は朝から激動の日々だった。気が休まらず、未だに今朝のお爺ちゃんの表情が、あの憎たらしい騎士の声が、目に耳にこびりついて離れない。
ギリッ……。
いけない、体力を温存しないといけないのに変に力んでしまう。
「マリア、こっちにおいで?」
「アンナ……ごめん、心配させちゃったね」
私がいつも通りではないという事を察したアンナが私を抱きしめて赤子をあやすように背中をポンポンと叩く。
「はぁ……何だかこうやって一夜を過ごす事になって変に気を張っちゃって馬鹿みたいだよね」
愚痴をアンナにぶつけてしまった。
ハッと気付いた時には遅かった。
何をやっているんだ私は。
アンナの方がよっぽど辛いはずなのに。
「ご、ごめんアンナ。こんな事言うはずじゃなかったのに……」
正面からアンナと抱き合っているためアンナの表情が見えず思わずギュッと目を瞑る。
「マリア……」
「…………うん」
「大丈夫、大丈夫だよ。お爺ちゃんも言ってたじゃん、私達は家族なんだよ。だからマリアは私が支えるし、マリアは私の事を考えてくれてるのも分かってるんだよ」
嬉しかった。
私達は家族、そうアンナに言われて何だか心が温かくなった気がした感じた。
隣には大切な家族が居る、そう思うとドッと身体が重くなったように感じて私はすぐに眠りにいざなわれた。
翌朝、何やら身体をユサユサと揺すられる感覚と共に私は目を覚ました。
「おはようマリア」
「あ、おはようアンナ。ごめん、抱き着いたまま寝ちゃった……」
「ううん、良いんだよ? お姉ちゃんは嬉しかったからね!」
「む、私が姉でアンナは妹、だよね?」
「え?」
「む?」
「「私が姉でそっちが妹だ!」」
そうしてお互いがお互いを見つめ合う事、数舜。
「「ふ、ふふふ! アハハハハ!」」
早朝の澄んだ空気の木々の間をにぎやかな笑い声が谺する。
その後、魔物が近寄ってきていないか焦って周囲を警戒した私達の1日が始まった。
私達は1日お世話になった洞から這い出すと、一度街道の位置を確認するために森の浅瀬へと移動する……しようとするとアンナが街道とは異なる方角を指さしながら興奮したように口を開いた。
「あ、マリア見てみて! あれ、アプルの実じゃない!?」
一体なんだとアンナの指さす方向に視線を向けると、1本の木に赤い果実が山々と成っていた。あまりにアプルが実を付けすぎて枝がたわんでしまっている。この辺りにはアプルの実を主食にしている生物はいないのだろうか。
まあ何はともあれ森の中で食料を得る事が出来たのはかなり大きい。
昨日からお腹が空いて仕方が無かったのだ。まあスラムに住んでいた時も常にお腹を空かせていたからいつも通りといえばそれまでだけど……。
「かなり数があるしツルで籠を編んで持っていこうか」
「そうだね! いやぁ、お腹減ってたから助かったねぇ~」
今後の事も考えて、私とアンナは笑顔で顔を見合わせると早速アプルの実を採取し始めた。ある程度アプルの実を採り終えると木に絡みついているツルをブチブチと引きちぎりアプルの実が持ち運べるよう籠を作った。
「さ、少し時間も食ってしまったけど今日も南へ向かって歩こう」
「そういえば、どのくらいでマリアが目指してるハルツィアスってところに到着するの?」
「うーーーん……ハルツィアスは馬車で飛ばしても1か月くらい掛かるらしいんだけど、昨日と同じくらいの速度で毎日歩き続けるなら秋の8月までにはたどり着けるんじゃないかなぁ」
「えぇ!? 今が春の2月の終わりだから……秋の8月ってことは今から5か月くらい歩くって事!?」
アンナは驚きで目を丸くする。
でも、私達の足だと1日どれくらい歩きつ受けられるか分かんないしあんまり無理はしたくないんだよね。
5か月というのは日中休まずに歩き続ける、という大前提があるため実際は、どこかの村で冬を越して来年の春の月のどこかで到着出来れば上出来なんじゃないかなぁ。
王都から海まで続く運河を利用出来ればかなり楽にハルツィアスにたどり着けるんだけど、運河を定期的に運行している船に乗るには市民権か銀貨5枚程の乗車賃が必要になる、と聞いたことがある。
今の私達だと船に忍び込んで捕まってしまうのがオチだろう。
運河も無し、馬車も無しとなると私達に残されている移動手段は徒歩のみ。
アンナは私がした説明を、腕を組んでフンフンと頷いきながら聞いていた。
「なるほどねぇ、結局どうするにしてもひとまず最寄りの村までは歩くことになるってことね?」
「そういうこと。まあどこかの村で馬車に乗せてもらえば予定は大幅に短縮されるから、来年の~って話は話半分に聞いてくれてたら良いかな」
そう言うとアンナは少しホッとしたような表情になる。
しばらく他愛のない会話が続いていたけど、アンナが何を気にしていたのか、ピンと来た。
そういえば春の3月といえば洗礼式があった。
すっかり頭の中から向けていたけど、そういえば洗礼式を受ける事が出来ていないんだった。洗礼式は孤児でも受ける事が出来るからハルツィアスの教会で受ける事が出来ればグッと生活が楽になりそうだ。
うーーーん。先は長いけれど、頑張ろう。




