第3話 アマリツィア教と第2騎士団
本日4話目です!
よろしくお願いします。
第3話 アマリツィア教と第2騎士団
「何はともあれ、クラエルという男がスラムから去るまで2人だけで外に出てはいかんぞ、我慢できるな?」
「「はい!」」
そうして1か月が過ぎ、私達が無事5歳を迎える頃にはクラエルという男の噂はパタリと無くなり、先行きに不安を感じながらも春の3月に行われる洗礼式を待つのみとなっていた。
「お前たちも5歳になったことだしあと1か月もすれば教会で『洗礼式』を受ける事になるであろう」
「うん、待ち遠しかった」
「これで私も魔法が使えるようになるんだよね!?」
アルマニア王国を始め、大陸の各地に教会を持つアマリツィア教会にはいくつかの役割がある。その1つが5歳を迎えた子供を対象に行う『洗礼式』だ。
「洗礼式を経る事によって己の中に眠る魔力を目覚めさせ、生活魔法と属性魔法の素養が生まれる事は以前話した事があったと思うのぉ」
「うん、早く魔法使いたい」
「私はビッグな魔法使いになってお金を稼ぐんだぁ!」
「アンナ、最近それしか言ってないじゃん」
私がツッコムと頬を膨らませて私の脇腹を突いてくるアンナ。
「2人とも以前教会について教えた事は覚えておるな?」
「「はい」」
「アマリツィア教会はこの世界を創ったとされる女神アマリツィア様を信仰し、女神様の名の下に信者に救済を与える役割を持っておる。じゃがここ最近教会はかなり後ろ暗い悪事に手を染めておる可能性が高い」
「えっ!?」
「炊き出しとかしてくれてるのに!?」
アンナは驚いてジェイさんを見る。
ジェイさんは重々しいため息を吐き、首を縦に振る。
どうやら神父を始めとした教会関係者は、私達の事を何とも思っていないみたいだ。本当にロクでもないよね、教会って。
「洗礼式で属性魔法の適性が判明する事は知っておるな? 教会は火・土・風・水・光・闇・時空の7属性の内希少な光・闇・時空の適性を持つ子を強引に手中に収めているらしいのじゃ」
ジェイさんはハッキリとは教えてくれないけど、確信するに足り得る証拠を手に入れたのだろう。
曖昧な状態でそんな事を言う人ではないし何より、私とアンナはスラムに流れ着いてから度々面倒を見てくれたジェイさんに信頼を寄せている。
「ってことはつまり……私達のどちらかがその希少な属性魔法に適性があるかもしれない、って事?」
「お、おぉ!? おおおおおおおお!! ビッグな魔法使いになる夢に近付いたって事!?!?」
私の呟きにアンナのテンションが一気に上がる。だけどジェイさんと私の顔色は優れない。
「うーむ、しかしアンナや。そうなると2人は離れ離れになる可能性が高いという事じゃぞ?」
魔力量が多かったり、珍しい属性に適性を示した子供は、有力貴族に取り込まれてしまう事が多いのだとか。
ジェイさんの一言にアンナのテンションが急激に萎んでいくのが分かる。
「マリアと離れ離れ……嫌だなぁ……でもなぁ……」
アンナの心の中では私という存在と、ビッグな魔法使いになるという夢の間で揺れ動いている事だろう。
「アンナ、たとえ離れ離れになったとしても私達は絆で結ばれた家族。もしアンナがビッグな魔法使いになったらお金持ちになって、私を召使いにしたら良い」
「おぉぉ! じゃあマリアが魔法使いになったら私がマリアのお世話してあげるよ!!」
私が示した将来の光景を思い浮かべたのかアンナは目をキラキラさせながら私の手を握ってブンブンと振り回している。
いつかスラムから抜け出す将来を夢見ながら、私達は身を寄せ合って暖を取る。
そうして1日また1日と時間は流れていく。
貧民の間でも病が流行り体力の無い人からどんどん冷たくなっていく中、市場の人通りも少ないから盗みも出来ない状況が続いた。
ボロ布をいくら巻き付けてもそれを貫通してくる冷たい風に体温を奪われながらも、だんだんと寒さがやわらぎ春の2月を迎えようとしていた。
私達はというと、スラムのボスであるゲイルの手下3人と冒険者ギルドのドブ掃除の依頼を受けたり、そうでない時は家に籠ってジッと身を寄せ合って寒さを凌いでいた。
無情にも私達の平穏が崩れたのは、春の2月を迎えた直後の事だった。
ようやく春の暖かさが訪れた、まだ陽も昇っていない薄暗い朝の事だった。
「お前たち、何も聞かずにワシに付いてこい!!」
突然テントに飛び込んできたジェイさんの声で、私とアンナは飛び起きた。
ジェイさんはかなり焦った表情をしており、何があったのかは分からないけど一刻の猶予もないように感じさせる。
何事か、といちいち尋ねるような真似はしない。
私とアンナは顔を見合わせると、急いでボロ布を身体に巻き付けテントもそのままに外に飛び出した。
それを確認したジェイさんはかなりの早足でスラムの奥へと進んでいく。私達も遅れまいと必死に足を動かす。
そうして何かに追い立てられているような、じっとりとした嫌な予感を背中に感じながら足を進める事少々。辿りついたのは今にも崩れ落ちそうな廃墟だった。
「さ、行くぞ」
ジェイさんが物怖じせず廃墟に入っていったため、私達は顔を見合わせて頷くと急いでジェイさんの後を追って行った。
そうして廃墟の奥、恐らく物置だっただろう埃だらけの部屋に入るとジェイさんは私達に言い聞かせるように言った。
「落ち着いて聞くのじゃ、どうやら今からスラムで貧民狩りが行われるらしい。この地下を道なりに進むと王都の外に繋がっているから、先に脱出するのじゃ」
「ジェイさんは……?」
「ワシか……ワシは――」
『スラムに住み着く薄汚い下民共に告げる! 我らが王のおひざ元であるにも関わらず違法にも街の一角を占拠し、王都ひいては王国の品位を下げるお前達に我ら第2騎士団が裁きの鉄槌を下してやる!! 膝を付いて慈悲を請い、死を以てその罪を償え!!!』
恐らく何かしらの魔法を使ったのだろう、スラムに聞いたこともない男の声が響き渡る。
「ジェイさん……ジェイさんも一緒に逃げようよ!!」
「ジェイさん、今ならまだ誰にも悟られずに脱出できる! 一緒に逃げよう!」
アンナに続いて私もジェイさんに脱出を促す。
しかしジェイさんは先ほどから目を瞑り、口を閉ざしたまま返事を返してくれない。
「ねえ! ジェイさん!!」
「この道が続く先は道が険しい山となる。ワシを連れて行けば、必ず途中でお前達の足を引っ張る事になるであろう。マリア、アンナ、可愛い孫のようなお前たちにワシからの最後の頼みじゃ……どうかワシを置いて、ワシの分まで生き延びておくれ」
アンナの悲痛な叫び声が廃墟に響き渡る。
「そん、な……嫌……嫌だよジェイさん!!」
「私……ジェイさんにまた会える……よね?」
私達の悲鳴にも似た懇願にもジェイさんは首を縦には振ってくれない。
あぁ……ジェイさんのこの表情、見たことがある。これは覚悟を決めた者の眼だ。迫りくる死の中に何かを見つけた、お母さんと同じ眼をしてるんだ……。
ジェイさんは身体から搾りだしたような声で、私達に告げた。
「ワシは……元々はお前達を差別している教会に所属しておった。訳あってスラムに流れ着いてから、こんな爺を多くの者が慕ってくれたのじゃ、ワシの生きる希望になってくれたのじゃ。お前達の先生の一生で一度の我儘を聞いて欲しいのじゃ……ダメかのぅ?」
アンナはジェイさんの説得は無理だと察したのか、顔をくしゃくしゃにしながら大粒の涙を流し、途切れ途切れに言葉を絞り出した。気付けば、私の視界も涙で滲んでいた。
そっか、この1年色んな人に見下されて差別されてきた。
両親を失い住んでいた村も無くなくなった私だけど、ただ不幸なだけじゃなかった。地獄みたいな日々の中でも、私は『大切』を見つけてたんだ。お爺ちゃんは、私の『大切』だったんだ。
「そんなの……ダメって、言えない、じゃん……」
「ジェイさん……ううん、お爺ちゃん。今まで私達を、育ててくれてっ……ありが、とう、ありがとう!!」
「ワシの我儘を聞いてくれてありがとうのぅ。ワシの可愛い孫たちよ、お前達と過ごしたこの1年は罪に塗れたワシにとって心安らぐ素晴らしい日々じゃった……苦難もあるじゃろう、時には生きる事を諦めたくなる事もあるじゃろう。じゃが、生き延びのじゃ。どんなに泥に塗れても、他人から疎まれても生き延びるのじゃ……そして幸せになるのじゃ」
生きてさえおれば何とでもなる、ジェイさん……お爺ちゃんはそう言うと私達に早く脱出するように促した。
「お爺ちゃん、私達、生きるよ」
「生きて、生きて幸せになってみせる」
だから、これまで――
「「ありがとう」」
私達は決して後ろを振り返る事なく、止まる事のない涙を流しながら王都から逃げ出した。
私達を大事に育ててくれたお爺ちゃんの一生に一度の我儘を叶えるため、私達は必ず生きて幸せを掴むのだと決意した。




