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第1話 貧民

本日2話目です。

 第1話 貧民


「マリア、ぼーっとしてたら炊き出し無くなっちゃうよ。おーーーい!」


 目の前で私をガクガクと揺さぶってくる茶髪をポニーテールにした同い年の少女に指摘されて、ハッと意識を取り戻した私は王都にある教会前で行われている炊き出しの列に少女と並んだ。


「マリア、大丈夫?」

「あ、ごめんねアンナ。ちょっとぼーっとしてたみたい」


 このボロ布を纏った茶髪の少女は私と同じ4歳のアンナと言う。

 何故私がアンナと行動を共にしているのかと言うと、私が所謂『孤児』という身寄りのない子供として、気付いたらスラム街に捨てられていたからだ。


 あの時、行商人に連れられて王都に来たは良いものの何故か王都の孤児院には入れてもらえず、かと言って行商人も幼い私を連れて行商の旅を続ける訳にもいかなかった。結果として無情にも身寄りの無い者や食い詰めた者がたどり着くスラム街へと放り出すしかなかったのだろう。


 でも私は行商人を恨んでいない。悪意のある行商人であれば私を奴隷商に売ってお金に換えていただろうし、私という足手まといを無視する事もできたのに、村から連れ出して王都へ運んでくれた事に感謝している。


 聞いたところによると、王都の孤児院に住んでいる子供は悲惨な人生が確定しているらしくてそれよりは、自由な貧民街で暮らしていた方がよっぽど幸せそう。


 行商人がここまで連れてきてくれなければ、私はあのまま村で自分の命が尽きるかあの得体の知れぬ恐ろしい獣によって村人と同じ目に遭っていただろうから。


「もー、月に1回の美味しいご飯なんだからしっかり味わおう?」

「……うん、そうだねアンナ」


 そうこうしていると炊き出しを待つ人の列が進み私達の順番がやってきた。私とアンナが持ってきたお皿を差し出すと、神父様と思われる教会関係者は印を切る。


「「日々のお恵みと慈悲を頂ける女神アマリツィア様に感謝を」」


 私達が食前の祈りをささげると、神父は優しい顔で「貴女方にアマリツィア様のご加護があらん事を」と返してくるのでお皿を受け取ると素早く広場の脇に避ける。


「うわぁ~、温かいスープだぁ!」

「さ、食べよ」


 キャッキャッとはしゃぐアンナを落ち着かせながらご飯にありつく私達。

 立ち食いなんて下品だ、なんて周囲の人の視線を感じるけどこれは致し方ないのだ。なぜなら――


「おいガキども! なに勝手に食ってやがるんだ」

「そりゃ俺らのメシだろうが、アァン!?」


 と、私達のご飯を狙ってこういう輩がやってくるからだ。

 コイツらはスラムを仕切ってるゲイルの手下達だ。だけど忘れてはならないのが、私達は4歳の欠食女児であるのに対して手下達は15、6歳前後の男だということ。


「んむんむんむ!」

「はーっ! 美味しかったねぇマリア!」


 そんな男共に目もくれず幸せそうな表情で私の顔を見つめてくるアンナ。いつも思うけど胆のの据わり方が極まってるよね。まあ私も無視を決め込んでいるんだから似たようなものか。


 この程度でビビっていたらスラムではやっていけない。


「おい! 俺たちを無視すんじゃねえ!」

「「はい、どーぞ!」」


 と詰め寄ってくる手下達の目の前で私達は揃ってお皿をひっくり返してやる。


「うわっ!! お前らメシをっっ……ってもう食ってんじゃねーか!!」

「ふざけんじゃねえぞ!」

「もう一回並んでこいや!!」


 口々に罵声を浴びせてくる彼らだがそれはそう長く続かない。

 少年達の背後から1人の老人がやってくる。


「おや、お前たち自分より弱い者達に向かってそんな事をするなんてゲイルのヤツに教育してもらった方が良いんじゃないかの?」

「……ちっ! ジェイさんに泣きつくなんてふざけんなよ!」


 こうして老人の迫力に怯んだ手下達が何やら言い残して走り去っていくまでが炊き出しではよく見られる光景。そして教会の人間は目の前で行われる蛮行を仲裁する事はない。


 金の匂いがする権力者のご機嫌を取る事に忙しい教会は『女神の名の下にすべての人は平等である』という教会法典を知っているはずなのだけど、国が定めた『貧民は人に非ず』という法律を抜け道として利用しているのが現状。


 貴族に従順な彼らからすれば私達は人間ではないから。


 彼ら彼女らは一見すると、炊き出しを受け取る人達を優しそうな顔で見つめているけど、その眼に浮かぶ侮蔑の色を隠しきれていない。教会の人間は与えたエサを巡って醜い動物が争っている、くらいにしか思っていないのだ。


「何もされてはおらぬな?」

「うん、ありがと」

「うん! ありがとうジェイさん!」


 この老人の名はジェイ、という。普段はどこで何をしているのか分からないんだけど、私達のような立場の弱い子供が理不尽な目に遭わないように炊き出しの日は見回りをしてくれる。正体不明ではあるけど、ありがたーーーいおじいちゃんなのである。


「ねえねえジェイさん――」

「ほっほっほ、分かっとる分かっとる。今日はワシのあそこの家で続きをやろうかのぉ」

「いつも、ありがとうジェイさん」

「ほんと!? 嬉しい!!」


 もう1つありがたーーーい点があるのだが、ジェイさんは炊き出しの日に決まって私達に勉強を教えてくれるのだ。

 さっきの手下達にも同じように勉強を教えていたそうで、文字の読み書きと簡単な計算が出来れば将来の選択肢が広がるのだとか。スラムに住み着いている人からはジェイさんジェイ爺さんと慕われている。


「さて、今日はこのアルマニア王国で使われておるお金の事を教えるぞ」


 私達もジェイさんの恩恵、というかおこぼれにあずかってる訳なんだけど本当にこのおじいちゃん何者なんだろうか。


 纏っているオーラというか何というか、例えばさっきの手下からはいかにも下品で粗暴なオーラが伝わってくるのだが、ジェイさんからはこう……なんていうか、そう、気品のあるオーラというかまるで貴族様みたいな感じがするのだ。


 まあジェイさんは「ワシは馬の糞とも知れぬヨボヨボの老いぼれじゃよ」と言っているんだけど、私達はその言葉を馬鹿正直に信用する程心が綺麗な訳では……っと話に集中しなくては。

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