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第17話 第1村人発見

 第17話 第1村人発見?


 太陽が傾き始めた頃、遠目に見えていた村がだんだんと近付いて来た。

 それに合わせて遠目からでは分からなかった村の様子が、ハッキリと分かるようになってきた。


 外から見た限り木製ではあるものの、村全体を円型で囲むように2メートル程度の壁を設け、四方を監視するための物見櫓が立っているのが見える。櫓には

 それぞれ1人が登り壁の外に広がる畑や森の方を監視している。

 壁には門が設けられており、傍には門番らしき人影があることから自警団の人数に余裕がある事が分かる。


 それを見たアンナがぽつりと感想を漏らした。


「王都と比べるとショボいねー、ねえマリア?」


 私は耳を疑った。この都会っ子は何を言っているのか、と。

 もちろん、21世紀の日本人であった記憶は大いにそれを肯定しているけど3歳まで辺境の村に暮らしていた私からすれば、むしろ良くやっていると思う。


「いやいやアンナ、村のレベルでここまで発展してるのは凄いと思うよ?」

「え? そうなの?」


 驚いたように私の方を振り向いたアンナだったけど、私が神妙な顔をしているから嘘ではないと思ったのだろう。アンナの顔に困惑の色が浮かび上がる。


(うーん、村に到着するまでもう少し時間はありそうだね)


 そんなアンナに私は自分が住んでいた村がどんなものかを話して聞かせる事にした。


「アンナ、私が住んでいた村の話をしてあげるからよーく聞きなさい」

「え、マリア。大丈夫なの……?」

「何の心配をしているのか分からないけど、ちゃんと聞きなさい」


 心配そうな表情をしつつも聞く姿勢を取るアンナ。


「アンナは見たことがないから分からないだろうけど、村のレベルで壁がある事、門を守る門番が居る事がそもそもあり得ないの。普通の村ではまずありえない光景だと思って。普通の村には壁の代わりに柵があるの。それが魔物から村を守っているんだけど、まあ魔物は軽々柵を飛び越えてくるわ」

「え、それじゃあ魔物が襲ってきた時はどうするの?」


 やはり驚いたように目をまん丸にするアンナ。


「そうさせないために村には自警団が置かれる事が多かったわね。夜間は見張りを1人か2人くらい出しておくの。昼間は村の周りで狩りと一緒に魔物の討伐も行う事が多かったから滅多に村の近くに魔物が現れる事はないはず」


 いても角ウサギ程度の魔物だと思う。

 魔物の中でも最弱の角ウサギは人の生存領域の端で生きる事で魔物からも人間からも身を守っている。


「そもそもゴブリンみたいに知能があって群れで行動する魔物とか、人よりも明らかに強い魔物でもないと柵を越えようとはしないみたいだけどね」


 人が集団生活をしている領域に踏み入って来ようとする魔物なんて聞いたことがない。それに村を破壊できるくらい強力な魔物は滅多に現れないし、もし現れたとしても冒険者や国から派遣された騎士によって討伐される。


 だからといって私の村のように辺境の小さな村だと、冒険者や騎士は常駐していないから村の自警団では魔物に対抗できずに蹂躙されてしまう事がしばしば見られる。


 そう、私の住んでいた村があの恐ろしい魔物に蹂躙されてしまったように。

 あのレベルの魔物はそうそう現れないとは思うけど、魔物の被害が無くなることはない。


 あの時の事を思い出してブルリ、と身体が震えた。


「マリア、思い出すのが辛いなら話さなくてもいいんだよ?」

「ありがとうアンナ。さっき心配してくれてたのはコレがあるからって事ね?」


 私はプルプルと震える手をアンナに見せる。

 どうやら私の顔色も良くないみたいだ。


「そうだよ。マリアがスラムに来る前の事を話す時は決まって辛そうだったじゃない。3年経って少しはマシになったかと思ってたんだけど、その様子だとまだ大丈夫じゃあなさそうね」


 うぅっ……アンナの察しが良すぎて辛い。

 昔の事を思い出してももう大丈夫だと思っていたのだけど、やはり抗う事の出来ない恐怖という物はなかなか拭い去れるものでは無いみたい。


「ご主人様、ご安心ください。今の私であればどのような魔物にも後れを取る事はありません」

「ルナ……」


 ルナが私の背中からギュッと抱きしめてくれた。

 抱き締められると、何故か安心するルナの体温とともにフワッと良い花の香りが私を包んでくれる。


「私もいるからねマリアっ!」


 アンナが開いている前側に抱き着いて来た。

 この3年で体格にも差が出て、私の顔はアンナの胸元にサンドイッチされる形になってしまった。


「ぷはっ! ルナもアンナもありがとう!」


 何とかサンドイッチから抜け出して2人にお礼をいうと、私の話はここまでという事になった。農民がすでに引き上げた畑の間を通りながら思い出すのは王都での事。


 王都のスラムに住んでいても「この辺りにこんな魔物がいるらしい」とか「あの村が魔物の被害に遭った」とか時折街の人が噂している話が聞こえて来た。


 商人たちの行商ルートと魔物の出没地域が被っていたら、万が一の事態もあり得るため噂話には神経をとがらせていたと思う。中には泣く泣く行商ルートを変更した商人も居たはずだ。


 こういう光景をみていると思う事がある。


(むしろ辺境の村は強力な魔物に対して警戒するための撒餌の役目があったりして、ね)


 騎士や冒険者は魔物を討伐してくれる。

 だけどそんな人達だって自分の命が惜しい。


 積極的に辺境の村を守ろう、なんて気概は持ち合わせていなかった。

 魔物に村が襲われる場所に居合わせでもしない限り彼らは動かない。


 だから私みたいに魔物に襲われて壊滅した村に王都からの救援が来る事は無く、数日後か数か月後かは分からないけど村の異変を察知した地方領主から依頼された騎士が村の状況を見にやってくる。


 そうして村が崩壊していればそれを領主である貴族に報告する。報告を受けた貴族は魔物の存在有として国王に騎士派遣の要請を行い、長々とした会議を経た後ようやく魔物の討伐に動き出すという流れなのだ。


 その時、いくつの村が崩壊しているかは分からない。

 人権なんて概念がない世界だとこれが当たり前、なんだよね。


 だから人がいつやってくるかもわからなかった村から、私を連れて行ってくれたあの商人には感謝している。


「ご主人様アンナ様、村に入ってからの話なのですが――」


 私達は村に入ってからの打ち合わせをした。


 ◇◇◇


 とうとう門の前までたどり着いた。


「止まれっ!! この村に何の用があって来た!」



 門番が継ぎ接ぎだらけの服を着た私達をみて眉をひそめ、次にフェンリルであるアシュリー達をみて槍を握る手に力が籠った。


「門番さん、お久しぶりです。この子達は問題ありませんよ」


 ルナがそんな門番の視線を遮るように前にでると門番の対応は一気に変わった。


「おぉ、久しぶりですねルーナさん……っとそちらの狼の魔物は従魔でしょうか?」

「はい、シルバーウルフの従魔です」


 どうやらルナはルーナという偽名を使用しているようだ。

 ルナが以前冒険者として活躍していた事もあるから、うっかりルナと呼ばないように気を付けないといけないね。


「シルバーウルフですか……さすがルーナさんです。ところで従魔登録はされていますか?」

「いいえ、こちらの支部で登録させていただこうと思います」


 何やら冒険者ギルドでアシュリー達を登録するようだ。

 私はシルバーウルフという魔物を見たことはないけど、門番の反応からしてみればかなり珍しい魔物なのではないかと思う。


「珍しい従魔を連れているとトラブルに巻き込まれる可能性が上がりますので注意してください」

「ええ、門番さん。ご心配いただきありがとうございます」


 ルナがにこやかに返事をすると門番は満足そうにうなずいて門の脇に移動した。


「分かりました。ようこそアーバロの村へ、村人一同歓迎します」


 こうしたやり取りをした後、私達はアーバロの村に入る事が出来た。


 村の中に入ると馬車がすれ違える広さの道が村を縦に横断している様子がうかがえる。村の中央には広場や共用の井戸、村長の家、冒険者ギルドらしき建物が立ち並んでいる。


 やはり思った通りここの村は、私が住んでいた辺境の名もなき村よりも規模が大きいようで、家の数から村の雰囲気まで何もかもが違う。


「さあ、ひとまずアシュリー達の登録のためにギルド支部に行きましょう」

「はーい」

「ギルドかぁー、楽しみだね」


 どうやらアシュリーは魔物扱いにご立腹のようでアンナに文句を言っていた。


『シルバーウルフのフリをしないといけないとか屈辱よ!』

「でも登録しないと聖域に戻らないといけないと思うよ?」

「アンナ様のおっしゃる通りですよ。アシュリー、余計なトラブルを避けるために従魔登録は必要なのです。それが嫌ならば人化の魔法を習得する事ですよ」


 なおも不満げなアシュリーにルナが解決策を告げる。確かに人化してしまえば従魔としては扱われなくなる。

 旗色が悪いと判断したアシュリーは姉妹たちが何も言っていないのを見てガックリとうなだれた。


『うぅぅ、お母様まで……いいわよ分かったわよ』


 ミーナもノヴァも魔物扱いに何も思っていないのか先ほどからアシュリーのやり取りを無言で眺めている。


「さ、冒険者ギルドに行きましょう。ついて来てください」


 私達は村の広場にある2階建ての建物に向かって歩き出した。



(冒険者ギルドかぁ、するテンプレとかあるのかな……?)


 女しかいない私達が絡まれたりするのか、少しワクワクしながら冒険者ギルドの両開きの扉を開いた。

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