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第13話 属性魔法の適性

 第13話 属性魔法の適性


 生活魔法がある程度形になってきた私達は、とうとう属性魔法の訓練を始める事になった。


 その前段階として、ルナが適性を調べてくれたのだが……。


 日差しが強くなってきたので、泉の傍には行かず木陰で涼んでいたらアンナが笑顔で近寄って来た。


 足取りも軽いアンナは木陰で涼んでいる私を見つけると一目散に近寄って来た。適性の結果について質問して欲しくて仕方がないみたいだけど、嬉しそうな表情の裏には陰りが見える。


「ねえねえ、アンナの適性って何だったの? さっきルナに調べて貰ったんでしょう?」

「っ、よくぞ聞いてくれました! なんとなんと~~、水と光の2つでした~~!」


 属性魔法の適性を尋ねるとほんの僅かな逡巡の後、アンナは嬉しそうに報告してくれた。

 アンナには魔法の才能があるとは思っていたけど適性属性が2つもあるというのはかなり珍しいのではないだろうか。まあ洗礼式の結果などは知らないからよく分からないけど。


「おぉぉ、すごいじゃん。私は1属性だけだったよ」


 私はひそかに全属性に適性があったらどうしよう……なんて小説みたいな事を考えていたけどチートというものとは無縁であったようだ。


「ルナさんは2属性持ちは人間の中だとそれなりに珍しい方だって言ってたよね」

「うん、私も2属性は珍しいと思うよ」


 そう言うと、アンナの表情がわずかに歪む。


 ルナは今は2属性持ちが珍しいかどうか分からない、とは言っていたけど200年程度ではそこまで人間の持つ魔法の素養が進化するとは思えない。


 光属性に加えて2属性持ちである事が判明したアンナはかなり珍しい存在だという事だ。この事実が貴族や教会に知られたらと思うと、今から頭が痛くなる。


「えっ? マリアどうし――」


 私はアンナを抱きしめた。

 戸惑うアンナの言葉を遮って言う。


「アンナ、無理しなくて良い。私が一緒にいるから」

「―――っっ!!」


 バレていないとでも思っていたのだろうか。そういうと、アンナが息を吞む。

 私の肩に顔をうずめると、次第に身体が震えて嗚咽が抑えきれなくなる。


「で、でも……私のせいでっ……!!」


 アンナは自分の適性の事が原因でスラムを追われたのだ、などと思っていたのだろう。


 アンナの心の内側では自分に適性が無ければ、自分がスラムにいなければこんな事にはならなかった、とか想像して責任を感じているのだろう。


 属性魔法の適性を確認すると言われた時、私が思い出したようにアンナもジェイお爺ちゃんがしてくれた話を思い出したのだろう。


『洗礼式で属性魔法の適性が判明する事は知っておるな? 教会は火・土・風・水・光・闇・時空の7属性の内希少な光・闇・時空の適性を持つ子を強引に手中に収めているらしいのじゃ』



 もちろんアンナが心の奥底で何を考えているかなんて分からないし、アンナもよく分かっていないのではないだろうけど。


 ただ、間違いなくジェイお爺ちゃんのこの話を意識しているはずだ。

 だって―――


「大丈夫よアンナ。私にもあったの、時空の適性が」

「っ!!」


 私の適性を知ったアンナが再度息を吞む。まさか2人とも希少な適性持ちだとは思っていなかったみたい。


「マリア……それじゃあ……」


 アンナが言わんとする事は想像がつく。

 私は、いや私達は、ずっと疑問に思っていた事があった。


 それは、なぜ洗礼式の直前のタイミングで貧民狩りが行われたのか、という事。

 それに教会の関係者と思われるクラエルという男、コイツの噂が流れた時期と貧民狩りの時期があまりにも近すぎる。


 そして自分の適性を知った事で予想は確信に変わる。


「恐らく教会は何かの方法で私達が希少な属性魔法の適性があると知った。」


「うぅっ……まりあぁぁ……!!」

「大丈夫よアンナ。貴女のせいじゃない、悪いのは私達の力を私利私欲のために欲した汚い大人」


 悪いのは大人、悪いのは教会だ。

 今の私達にはそれを跳ね返すだけの力はない。


「私達は弱い……でももし、私達に力があればあの時騎士団に抵抗できたかもしれない」

「マリ、ア……?」

「アンナ、私達は強くならなきゃいけない」


 涙に濡れたアンナの眼を見ながら続ける。


「大人に対抗しようとしたら足りない物が多すぎる」


 私達は人、金、物、全てにおいて劣っている。。


「お爺ちゃんの願いは私達が幸せになる、そうでしょう?」

「……うん」


 アンナはコクリと頷く。

 幸いにも一番難しいと思っていた生き延びる事、これはルナのお陰で出来ると思う。


 正直、生き延びようと思ったら多少の不便を感じても聖域からでなければ良い。ここは聖域の管理者であるルナの許可が無ければ悪意を持つ人間を始め、私達の命を脅かす魔物も入ってこれないから。


「だけど私はルナに全部守ってもらって生きるつもりはない。だから力を得るために村に行くし街に入ろうとしてる。あの時は何も聞かずに勝手に行先を決めちゃったけど、アンナはどうしたい?」

「私は……幸せはよく、分かんないや」


 生まれてからずっとスラムで過ごしてきたアンナは、いまいち幸せが何か分かっていないようで瞳には不安の色が濃い。


「大丈夫だよアンナ。アンナが幸せを見つけるまで、私もルナも一緒にいる」

『あたしもいっしょよ!!』

「わっ! アシュリー!?」


 いつから話を聞いていたのか分からないけど、アシュリーの言葉でアンナの表情が柔らかくなった。私には出来ない慰め方に、ちょっと悔しい気もする。


 先ほどまでアシュリー達は泉で水遊びをしていたと思ったんだけど、どうやら飽きてしまったようで他の2匹もプルプルと身体を揺らして水気を払いながらこちらに駆け寄ってきていた。


「そうだね、アシュリーは私と契約してるんだもんね」

『さすがあんな、わかってるじゃない!!』

「えへ……」


「それに、アンナはビッグな魔法使いになる、んでしょ?」

「そう、そうだね……私はビッグな魔法使いになるの!」


 私の言葉に、アンナはハッと目を見開いた。


「マリア、アシュリー。励ましてくれてありがとう! 私決めたよ。今はとにかく魔法の訓練を頑張る事にする!」


 良かった。いつものアンナだ。


「うんうん、アンナは適性が2つもあるから魔法の訓練も大変そうだけど、応援してるね!」

「あ、そっか……マリアは適性は1つだったんだ。よぉーし! マリア、アシュリー、私は今からルナさんの所に行ってくる!!」

「いってらっしゃーい!」

『あんな、あたしもいっしょにいくわ!!』


 1人と1匹を見送った私は、自分の課題を熟すべく自身の魔力を身体中にコーティングするように広げていく。



 属性魔法の訓練をしながら私は一人思う。


 聖域で暮らし始めてずっと目を背け続けていた事実は、知らない間に私達の心をじわりじわりと心を蝕んでいた。


 私達はスラムで生きて来たけど決して馬鹿な訳ではない。

 あの時、あの場にいたお爺ちゃんは騎士団に殺された可能性は高いだろう。矛盾しているけど、お爺ちゃんなら生きていてくれるんじゃないか、とも思っている自分もいる。


「今回、貧民狩りをやった黒幕の目的は恐らく私達の身柄だったはず。であれば、その情報を一番持っていたはずのお爺ちゃんをわざわざ殺すかな?」


 私だったら殺さない。


 私が黒幕なら、情報を握っていると思われるお爺ちゃんは情報源にした後は私達をおびき寄せるための餌にすると思う。アンナには言わなかったけど――


「だからこそお爺ちゃんは生きている可能性がある」

『もしいきていたら、まりあはどうするの? たいせつなひとなんでしょう?』


 アンナとアシュリーが走り去ってからも、傍で静かに伏せていたミーナがピクリと耳を揺らして興味深そうに話しかけて来た。

 うーん、どうするだろう。さっき黒幕は、お爺ちゃんを情報源にするとは言ったけど、よくよく考えたらお爺ちゃんが私達の事を話すとは思えないしなぁ……。


「どうだろう、その時の状況によるかなぁ」

『たすけようとしてわたしたちにきけんがおよんでもたすける?』

「いいや、少しでも危険だったら王都には近寄らないだろうし。私が考えないといけないのは今の家族の安全と幸せだから」

『ふーん、おとななのね』

『……』


 前世の記憶がなければ、自分の感情を優先してお爺ちゃんを助けようとするかもしれないけど、今の私は違う。少し冷たい物の見方をするようになってしまったかもしれない。


 これがバレたらアンナには家族を助けるのは当然、と怒られるかもしれない。目をまん丸にして怒る姿が想像出来てしまい、私はフッと自嘲するように鼻を鳴らして笑った。


 ミーナは興味を失ってしまったのか、鼻をスピスピと鳴らしながら目を瞑ってしまった。


 一緒に木陰で涼んでいるノヴァはというと、目を瞑り終始我関せずとばかりの態度を貫いていた。


 ただ、フサフサな耳は正直だったようで私達の会話を聞き取れるよう、ピンと立っていた。




 アンナは大切な家族だ。

 アンナはお爺ちゃんよりも大切な家族だ。


 誤解しないで欲しいのだけど、お爺ちゃんの事はもちろん好きだし、尊敬も感謝もしてる。お爺ちゃんが生きていて私に力があれば間違いなく助けにいくだろう。


 だけど、それで私やアンナ、ルナ達に危険が及ぶようであれば私は、お爺ちゃんを見捨てる。


(そんな事を言ったらアンナには嫌われるだろうなぁ……)




 そんな時が来ない事を祈っている。

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