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第11話 子犬達と家族

 第11話 子犬達と家族


 私は今、これまで生きて来た人生の中で一番幸せを実感している。

 なぜかって? それは私の足をよじよじと必死によじ登ろうとして群がる3匹の子犬達を見てもらえれば分かるだろう。


「アンナ様……ご主人様は一体?」

「あぁルナさん、マリアのコレは心配いらないわよ」


 この子達は抗議の意思を示すために私の身体を登ろうとしているのだけど、ズボンなんて高尚な服は持ち合わせていないため爪を引っ掛ける事が出来ない。肌をさらけ出している私に傷をつけないように爪を立てていないというこの子達の気遣いが分かるだろうか! なんて良い子達!!


「先ほどから彫像のように固まっていらっしゃいますけど……」

「大丈夫よ、表情が動かないから分かりづらいけどあれは喜んでるのよ」


 それに直接伝わってくる足裏のぷにぷにともふもふは至高の一言に尽きる。思わずしゃがみこんで3匹をわしゃわしゃとしてしまう。


「ほら、ね?」

「その……ようですね」


 耳の裏がええんか!!首の下がええんかふおおおおお幸せだあああ!!


 そうして子犬達を思う存分堪能し、子犬達も私のなでなでを堪能したところで当初の目的を思い出したようで気持ち良さげに細められていたつぶらな瞳をクワっと見開いた。


『あたしたちはけだまとかこいぬっていうなまえじゃないのよ!』

『そーだそーだ!』

『だー』


 私がうっかり漏らしてしまった「子犬」という名前にいち早く反応したのがアシュリー。3匹の中では一番気が強い性格だった子だね。


「ご、ごめんねアシュリー……下手に名付けちゃうと契約を結ぶことになっちゃいそうで名前で呼んで無かったんだよ」


 だって聖獣との契約ってかなり大事な物な気がするじゃん?ルナの子だし物の分別がしっかりつくようになるまではそういう契約とかしない方が良いと思ってたんだよね……。


 釈然としない気持ちでアシュリー達を見つめる。


『まりあはかほごすぎよ!!』


 ちくせう、つぶらな瞳で見つめて来やがって……文句の1つも言ってやろうかと思ってたのにそんな気持ちも無くなってしまった。


 今まで無駄な気遣いをしていたとがっくり肩を落とす私にルナがそっと声を掛けてくれる。まあ詳しく


「ご主人様。アシュリーはもう契約してますので名前で呼んでも問題ありませんよ」

「え……いつの間に誰と……って聞くまでもないか」


 私以外の聖域内で生活している人間と言ったらもう1人しかいない。チラッと視線を向けると、アンナは困ったように笑う。


「あ、あはは。なんか気に入られちゃって……」


 アシュリーはアンナと契約を結んでいたのだ。


『アンナのまりょくがおいしいのがいけないのよ!』


 どうやらアシュリーが訓練のためにアンナの魔力を吸い取っていたところ、アンナの魔力を気に入ってしまってそのまま契約を――といった経緯があったようだ。


「というかルナはこの事知ってた……のよね。どうして教えてくれなかったの!?」


 アンナに何も相談せずにルナと契約したお返しなんだろうか。


「ルナさんを怒らないでよ~、あとでちゃんと紹介しようと思ってたんだってぇ」


 色々誤魔化された気もしなくもないけど、以前私も同じような事をしてしまったのだしお相子と言う事でまあ良いとするか……。


 アンナはそう言うと、私に身体をもたれかけてくる。


「うわ、アンナいきなり抱きついてきてどうしたの?」

「いーやー。マリアが不機嫌だったからアシュリーを取られたから嫉妬しちゃったのかなー、なんて……あイタっ!」


 などとふざけた事を言ってきたので脇腹をチョン、と突いてあげる。

 アンナは大げさに痛がるリアクションをするとケラケラと笑顔で私を見つめる。


「他の2匹は名前あるの?」


 その問い掛けには2匹が自分で答えてくれた。


『わたしはミーナ』

『……ノヴァ』

「そっか……ちゃんと名前呼んであげられてなくてごめんね……次からはちゃんと呼ぶからね!」


 足元でこちらを見上げる2匹を撫でながら約束する。


『よろしくねー』

『……しく』


 アシュリーと比べると穏やかな性格をしているのがミーナで、口数が少ないのがノヴァという名前だそうだ。こちらはルナが名付けを行ったらしい。


 曰く「これという契約者が現れるまでは親から仮の名をもらうのが自然」なんだそう。ちなみにアシュリーの仮の名前はウィン、だったらしい。


 ルナの以前の名前も気になるけどなんと言うのかな。

 気になってルナに質問してみたんだけど、どうやら人間には発音が難しい名前のようで聞いても分からなかった。500年以上前に存在したという妖精の国の言葉なんだって。


「そういえば、ルナたちって性別でいうと女の子、で良いんだよね?」

「フェンリルを始めとした聖獣には性別はありません。番いとなる相手を見つけると、身体が自然と変化するのです」


 なんとびっくり、ルナたちに決まった性別は無いんだそう。

 相手によって自然と身体が変化するって、さすがは異世界。


「という事はルナの番いは男の子になった、という事?」


 何の気なしにルナに質問をしてしまった直後、ピシッと固まってしまったルナの身体から憎々しいオーラがあふれ出た。私は地雷を踏んでしまったのだと遅まきながら悟り、後悔の念に襲われた。


「あ、私は次の生活魔法の習得目指して練習行ってきまーす」

『あたしもアンナについていくわ!』

『わたしはおひるねに~』

『……どんまい』


 ソロリソロリと離れていく気配に、後ろを振り返ると私とルナを残して退散する1人と3匹の後ろ姿が。


「え、ちょっと待っ―――」


 後ろからニュっと伸びてきた色白の手が私の両肩をガシッと掴んで離さない。ハハハ、私に何の用かな?


「聞いてくれますかご主人様。ええ、私に聖域の管理を押し付けて一人気ままに旅に出ると言って出ていった番いも居りました。あれは何年前の事だったでしょう、元々自由奔放だったあの駄フェンリルは自分の守護する聖域の管理さえ怠っていたところを私がしょうがなく、ええしょうがなくですよ管理をしてあげていたわけですよ。管理したは良い物のたまに脱走して、行く先々で問題を起こし、私がその尻拭いをしていたのですよ! それが気付けば番になりましてそして今に至る訳です……子供も生まれたというのに一度も顔を見せず今はどこをほっつき歩いているのやら」


(す、凄い早口……よっぽど鬱憤が溜まってるんだろうなぁ)


「そ、そっかぁ……」


 突くとまだまだ出て来そうだな……と思いながらの生返事をすると、冷静さを取り戻したルナが平謝りしてくる。


「ハッ……申し訳ありませんご主人様。私とした事が我を忘れてしまいました……」

「い、良いんだよ、私達は家族じゃん。そうだ、それよりもルナの事がもっと知りたいな?」


 そう言うとルナのしっぽが嬉しそうにパタパタと揺れる。


「ご主人様……はいっ! 私の事でしたら何でもお聞きください!」


 そうして何とか話を逸らす事に成功した私は、ルナには絶対番いの話はしないようにしよう、と固く心に誓ったのであった。



 ちょうど良い機会だから色々気になっていた事を聞いてみたいと思う。


「前から気になってたんだけど、ルナはどこで人の言葉を覚えたの?」

「あぁ、私は以前人間の世界で数十年程冒険者をしていた事があったので生活しているうちに自然と、ですね」


 当時の冒険者はまさか伝説の聖獣が身近で冒険者をやっていたなんて夢にも思わないし気付かなかっただろうな。


「へぇー、それじゃあメイドの知識はどこで?」

「それも200年以上は前の話ですけどとある国の王族に仕えていた事があったんです」


 ……当時の王族はまさか伝説の聖獣が身近でメイドをやっていたなんて夢にも思わないし気付かなかっただろうな、ハハハ。


「ねえねえ、冒険者のランクはどのくらいだったの?」

「んー、正直かなり昔の事なのであまり覚えていないのですが、依頼でドラゴンを単独討伐した事もありましたね!」


 ん、今なんだって?

 ドラゴンを、討伐したって言った……しかも単独で?

 いやいや、まさかね。いくらルナがフェンリルだからってそんな簡単にドラゴンを倒せるなんて言わないよね?


「えっ……ドラゴン?」

「はい、ドラゴンですよ?」


 いやいやいや、何そのドラゴンの相手なんて造作もありませんよねみたいに言われても反応に困るんですけど!?


「翼があって硬い鱗に覆われていて、ブレスを吐くあのドラゴン?」

「えぇ、そのドラゴンで合っていますよ。ご主人様……あの、どうかされましたか?」


 一応私が思い浮かべていたドラゴンと違うかもしれないと一縷の望みをかけて特徴を尋ねてみたけど見事に合致。聞かなきゃよかったかも。


 これ絶対高ランク冒険者だったよね。しかも過去の記録に残っていそう。


「当時、時の王族から求婚されたり爵位を与えられそうになったりと大騒ぎだったみたいですよ」


 他にもルナのとんでもないやらかし話が出てくるかもしれないけど、さすがにもうお腹いっぱい。お陰で余計な心配事が1つ増えてしまった。


 どこの国での話かは聞いてないけど、どうか長命種族の国ではありませんように。エルフは200年以上平気で生きるし、エルフの王族であるハイエルフは1000年は生きると言われているからなぁ……。


 番いの一件もそうだけど、家族のためなら困り事は解決してあげたいと思っちゃうし、聞かなきゃ良かったかもな。


「ルナ、色々教えてくれてありがとう。ルナの事を知れて良かったよ」

「いいえ、とんでもありません。私の昔話で良ければまたいつでもお話いたします。昔仕えていた国の姫様にもよくお話していましたので」


 姫、ねぇ……。私はこの世界に生まれた貧民として、王族やら貴族やらに対してあまり良い印象を抱いていない。だけど、ルナがお姫様の事を話していた時の表情が凄く優しかったので少し気になってしまった。


「また今度、ルナが仕えてたお姫様の話とか聞いてみたいなぁ」

「分かりました。今度、姫にお仕えしていた頃のお話をさせていただきますね」


 また今度ルナが話してくれる時まで楽しみに待つことにしよう。

 その日はアンナの初魔法をお祝いして、少し豪華な夕飯が出た。


「そういえばあの時倒したドラゴンの肉が余っていましたね」とか聞こえたけど、私はそっと耳を閉じて何も聞かない事にした。


 この世界に生まれて初めて見るお皿いっぱいのお肉に私もアンナも大興奮だった。

 味は滅茶苦茶美味しかった。でも、ルナの独り言を聞いていなければもっと美味しく感じたと思うんだよね。


 ……はぁ。

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