表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

第10話 初めての水!!!

 第10話 初めての水!!!


 暖かく穏やかだった春の3月も終わり毛玉……子犬達の毛が生え変わり始めた。

 そんな夏の足音が聞こえて来そうな日、私達は少し緊張しながらある一点を見つめていた。


「むむむむむ……」


 私達が見つめる先にはうなり声をあげながら両手を泉に向かってかざすアンナの姿があった。

 聖域で訓練を始めてから2か月が経過した。ルナの訓練を着実に熟して自分の物にしたアンナはまさに今、念願だった生活魔法を使おうとしている。


 生活魔法にせよ属性魔法にせよ魔法を使うためには、普段は血液のように身体を流れている魔力を圧縮して、魔法を行使するに見合った分の魔力を集めなければならない。私は魔力が多すぎて、ここで永遠に躓いていた。


 そうして集めた魔力を魔法という現象として発動させるためには、しっかりとしたイメージを持たなければいけない。この辺りファンタジーな世界だなぁ、という事を認識させられる。


 そうして集められた魔力は魔法の使用者のイメージの通りに火・土・風・水いずれかの質量を獲得する。これがこの世界の魔法の発動方法となる、らしい。


 らしい、というのは500年前から生きているルナの発動方法と、現在の私達以外の人間が魔法を使っているところを見たことがないし、教えてもらった事もないからだ。


 などと考察を進めていると、アンナの手の平に魔力が集まっていくのが分かる。

 そしてアンナの手の平に薄い水色をした光の玉が創り出されたかと思うと次の瞬間、泉に向かってぽたぽたと水滴が落ちていった。


 泉に広がる波紋はその数を増し、ドバドバと勢いよく注がれ始めた水の量に耐え切れず水面を激しく揺らし始めた。


 アンナは生活魔法の一つである水生成を見事習得したのだ。


 1分くらい魔法を維持していただろうか。アンナが魔力を空気中に霧散させると、緊張していた身体から力を抜くように大きく伸びをした。魔法が暴発した時に備えて遠くから見守っていた私達は、泉の傍に立つアンナに近寄って行った。


「おぉぉ!」

「おめでとうございますアンナ様」

『おめでとーアンナ!』


 最近、毎食食事が出来ているから全体的に肉付きが良くなってきたアンナに声を掛ける私達。アンナは魔法を使った時の感触を確かめるように手を握ったり開いたりしていた。


「ありがとう皆。でも、初歩の初歩の魔法を使っただけだからまだまだ頑張らなきゃ」


 そう言うアンナの顔に喜びの色は見られない。

 原因はアンナにじゃれついている毛玉から子犬へと成長したフェンリルにある。


「わふん」と子犬のうち1匹が泉に向かって軽く吠えると、ドバドバジャブジャブとアンナの生成した水の量とは比べ物にならない量の水が泉に降り注いでいた。アンナはその光景を見て苦笑いを浮かべる。


「未だに魔法を使えない私が言うのもおかしいかもしれないけど、アンナは十分頑張ってると思うよ」

「ありがとうマリア……でも、もっと頑張らなきゃ」


 ふと思い出すのは少し前に告げられた言葉。

 私の足手まといになっている、何でそう思っているのか分からないけどアンナが何かに駆り立てられているのは明らかだ。


 スラムから出ていく前までは笑顔をよく見せてくれていたのに、近頃はめっきり笑わなくなってしまった。私はアンナに笑顔で過ごして欲しいのに……。


 心なしか重たく感じる空気に、口を噤んだ私。私は未だにあの夜の話を切り出せないでいた。


「マリア、難しい顔してどうしたの?」

「んえっ!? な、何でもないよ……?」


 気が付けば私を覗き込むようにしたアンナが目の前に立っており、動揺した私は裏返った声で返事をしてしまった。しまった、これでは何かあると言っているような物じゃないか。


「うーーーん、前から似たような顔してたけど悩み事でもあるの?」


 アンナから向けられるじっとりとした視線に居心地の悪さを感じる私。

 人の悪意に晒されて育った私達は、表情や仕草から人の気持ちを読み取る事ができる。


 アンナに余計な心配をかけないように振舞えていた、と私は思っていたのだけどふとした瞬間の表情から見抜かれていたようだ。


 アンナの質問に対して、私が答えに窮しているのを見たルナも心配そうに話しかけてくる。


「ご主人様、アンナ様がおっしゃるように何か困り事があるのでしょうか? でしたらぜひ、私達を頼っていただきたいのです」


 アンナに聞いてしまった方が良いのだろうか。

 でも精神年齢が大人な私が年下の、しかも前世では小学生にも満たない年齢の子供に相談するなんて大人として許されるのだろうか。


「でもアンナは魔法の練習を頑張ってるし、あんまり心配かけたくない……」

「何言ってるのマリア、私達は家族でしょ? 家族の悩みのためを聞くのは何の負担にもならないよ!」


 それに、とアンナは言葉を続ける。


「もし私が何か困っていたらマリアは私のために動いてくれるでしょ。私もそれと同じ気持ちを感じているのよ? それとも、私だと頼りない……?」

「そんな事はない!」


 頼りないなんて事を言って欲しくない。

 そんな事を言うアンナに思わず大きな声が出てしまう。


「じゃあ頼ってよ。私達、家族じゃん」

「私達もおりますよ」


 ハッとして顔を上げる。

 そこには私をまっすぐ見つめてくるアンナとルナ、子犬達がいた。


「ごめんね、アンナ」

「気にしないでよ。マリアの悩みって大体私が関係してるんだから当事者抜きにしたって解決しないのよ」

「あのねアンナ―――」


 私はあの夜の事をアンナに尋ねることにした。

 アンナが眠る前にぽつりとこぼした「でも、これでマリアの足手まといにならずに済むねぇ」という言葉の真意について。


「んえ? そんな事言ったっけ私?」


 私の話を静かに聞き終えたアンナはきょとん、と可愛らしく首を傾げた。


「んなっ―――!?」

「まあまあ落ち着いてよマリア、ほんの冗談だよ」


 すっとぼけたセリフに憤慨する私。

 アンナはどうどうと私をなだめると、これから話す事は全部終わった事だから、と前置きをして口を開いた。


「その頃の私って焦ってたんだよね」

「焦ってた……?」


 アンナはルナにチラリと視線を向ける。


「ルナさんだよ」

「私、ですか?」


 アンナはコクリと頷く。

 なんでココデルナの名前が出てくるんだろうか。子犬達も不思議そうにアンナを見つめている。


「あ、もちろんルさんに悪いところはないんだよ? でもさ、無力な私達の前に現れた強力なルナさんに私の気持ちは分からないと思うんだよね」


 アンナは自嘲するように話す。


「マリアは頭が良いから、私がボーっとしてる時も私達のために色々と考えてくれる。ルナさんは強いから危険から私達を守ってくれる……じゃあ私は?」

「それは……」


 何となくアンナの考えていた事が分かった気がした。

 アンナは二の句が継げないでいる私達を見て「そう、私には何もなかったの」と頷く。


「そりゃスラムに居た頃だったら私がスラムの先輩として不慣れなマリアを色々手助けしてあげられてたけど、安全な場所にたどり着いた時思ったんだよね。私の役割って何だろうって」

「だから、あんなに必死だったの……?」


 コクリ、とアンナは首肯する。


「マリアが魔力の訓練に苦戦してる時、私の役割はこれだと思った。私がマリアより魔法を上手く使えたら、私にも出来る事がある。マリアの足手まといにならずに済むんだ……ってね」

「ご、ごめんなさい。私、アンナがそんな風に思ってたなんて――」


 当時のアンナは計り知れない不安を感じていた事だろう。

 自分の事にいっぱいいっぱいで家族の様子に気付けなかった私が謝罪を口にしようとすると、アンナが私の口に人差し指を当てて言った。


「マリア、最初に言ったでしょ。これは終わった事なんだよ。悪いけど私はマリアの姉としてこんな醜い心の内を暴露できる程、太々しい考えはしてないの」

「アンナ様……」

「ルナさんも気にすることは無いよ。私に魔法を教えてくれてる事に感謝してるんだ。ルナさんも……ルナも私達の家族だよ」

「アンナ様……ありがとうございます」


 そんなアンナの足元に近寄る影が3つ。


『あたしたちはー?』

「もちろん、アシュリー達も一緒だよ!」


 雨降って地固まる、だろうか。

 出会って2か月、私達が家族になった瞬間であった。




「いつの間に子犬に名前付けてたの……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ