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第9話 マリアの罪と昔話

 第9話 マリアの罪と昔話


 森に入って初めての休養日。

 ルナとの出会いを経た結果、私の想定していた計画は大幅に軌道修正を求められる事になった。


 朝、毛玉達にアトラクションにされた事で目が覚めた私達はルナの取り出した焼き魚に齧り付きながら魔力を見つける練習を再開した。


 ながら食べは行儀が悪いと言うなかれ、日本の記憶があるとは言え、何を隠そうスラム出身だぞ。マナーも何もあったものではない。


 そんなお上品な習慣は、王都のドブと一緒に捨てて来ました。毎日生きるか死ぬかギリギリの綱渡りをしていた私達にそんな物を期待されても困ってしまう。それでも人間の矜持が、とか王国民の品位がとか言う輩にはスラムで1か月生活してもらった上で、お上品でいたらお腹が膨れるのかと問いただしてみたい。


 少し、そこまで昔ではないけれどスラムに居ついた時の話をしようと思う。


 お上品とは関係ないけど、スラムで過ごすにおいて感謝の気持ちだけは忘れてはならない。スラムでは盗みもやったしボスの指示で非合法であろう怪しい仕事をした事もある。


 そういった仕事は必ず命の危険がつき纏う。


 私達と同じくらいの子供が盗みに失敗して店主に袋叩きにされて殺された瞬間も見たことあるし、仕事をミスして衛兵に切り捨てられる瞬間を見た事もあった。


 王国法と教会の権力によって私達は、都合のいいサンドバッグ扱いをされている。特に今年は流行り病で、市民の不満が溜まっていたから暴力や差別が激しかった。


 私達はそういった雰囲気を察したのもあってなるべく引きこもってたんだけど、比較的平民街に近いスラムには毎日のように貧民の死体が転がっていた。


 こうして改めてこの世界の現状を目の当たりにすると、力が無いという事は罪であるのだと身に染みて実感する。


 だけどそんな厳しい環境の中でも私達は命を繋いできた。前世の私では考えられなかったけど、私は平気で同年代の子供を身代わりにした。


 中にはジェイお爺ちゃんの教え子だった子もいた。ふとした瞬間彼らの死の間際の目を思い出す。そして私は心の中で思うのだ。


 死んだら私は地獄行きだな、と。


 弱さが罪であるならば私は私のために、そしてアンナのために強くなってやる。今はジェイお爺ちゃんとルナにおんぶに抱っこの状態だけど、1人立ちしても生きていけるように困難を乗り越えて努力する。


 願わくば、1人立ちした私の隣にアンナが立っていてくれたら良いな。


 ルナ曰く私達の持つ魔力量は多く、自分の中に流れるを知覚し、思い通りに操れるようになればフェンリルであるルナとも対等に戦うことが出来るだろうと言っていた。



 朝起きたら差し出されるご飯を食べ、ウンウン唸りながら魔力を掴もうと右往左往。ルナに魔力を吸い取られているはずなのに、一向に魔力を知覚することが出来ず、気持ちが落ち込む日々を繰り返した。


 そうして自分の中に眠る目に見えない魔力を掴もうと追い求めて2週間が経過した。


「ご主人様、おめでとうございます。魔力を無事知覚されたのですね!」

「マリア、おめでとう!!」


 比較的早い段階で魔力を掴み、次の訓練に移行していたアンナに遅れる事1週間。聖域で暮らし始めて2週目の半ばで、ようやく私の身体を流れる魔力を捉える事に成功した。


「2人ともありがとう……これでようやく私も前に進めるよ。毛玉達もありがとね」


 アンナやルナと笑顔を交わしていると、脳内に響く声が3つ、私に近付いてくる白い毛玉も3つ。


『まりあ、おめでと』

『ふんっ! まだまだ先は長いのよ!』

『まりあのまりょくおいし~』


 実は私がルナと契約した事でルナの子である毛玉達にも影響があったらしくて、翌日にはハッキリとした自我が芽生えていた。


 何気なしにルナが魔法を教えてみたところ恐ろしい速度でルナの教えをモノにしてしまった。


 その結果、何と私より先に魔力を掴み【念話】という魔法を使えるようになっていた。


『まりあ~、まりょくちょうだーい』

『あたしにもちょうだーい』

『ど、どうしてもっていうならもらってあげないこともないわ!?』


 などと言いながら私のお漏らしした魔力を体内に取り込んでいるからか、手の平サイズだった毛玉は小型犬くらいの大きさに成長している。


「ちょ、毛玉たち勢いはげしっ……ってちょっと! 魔力吸いすぎでしょ!?」


 このペースで1か月も成長すれば私よりも身体が大きくなりそうで、そうなれば色々悔しい……。


 閑話休題。


 自分の中にある魔力を知覚したら、次はそれを思うままに操るための訓練が待っていた。


 ルナがやってくれたように、手先や足先などの身体の末端部分に魔力を集めていく。この時集めた魔力が身体から漏れないように気を付けなければいけない。


 今日も手の平に集めた魔力を空中に散らした時、ルナにも注意された。


「魔力をお漏らしするようではいくらご主人様の魔力が膨大であろうとも、底を付いてしまうでしょう」


 本来であれば魔力を知覚した後に、ひたすら魔力を抜き取られて意図的に魔力量を増やす作業があるらしいんだけど、私は魔力が多いので、その訓練は一旦後回しとなった。


 その訓練って要は私がルナを回復させて倒れた時と同じような状況を何度も繰り返すって事でしょ?


「急に移動をしないといけなくなるかもしれないし、魔力を増やす訓練は私達が市民権を得てからでも遅くないと思うんだよね」


 アンナのじっとりとした視線を感じながら何とかルナを説得した私は、1週間の遅れを取り戻すべく魔力を手の平に集めようと奮闘していた。


 ちなみに、アンナは嬉々としてルナを始めとした毛玉達に、限界まで魔力を抜き取られてはぶっ倒れ、抜き取られてはぶっ倒れ……を繰り返していた事に触れておこうかと思う。


 というか毛玉達って私からも遠慮なく魔力を吸い取ってるよね……あれ? これって結局魔力を増やす訓練をさせられているのでは?


 思わずそんな考えが頭をよぎったけど、それを口に出してしまえば藪蛇になりそうだったからお口チャック。


「アンナはよくあの苦行を繰り返せたよねぇ……」


 ある日の晩、魔力を抜かれて疲労困憊のアンナに尋ねてみると、彼女は頬を染めながら嬉しそうにこう言った。


「なんて言うか、魔力が増えてる実感もあるし、繰り返していくうちに魔力を抜き取られた時の感覚が忘れられなくなっちゃって……」

「えぇぇ、大丈夫なんだよねソレ……?」


 アンナの魔力ジャンキーっぷりは私には絶対真似出来ない。


 気付いたら私の家族が歪んでしまった気がしないでもないけど、こうして私達は魔法を使うための訓練を着実に進めていた。


「でも、これでマリアの足手まといにならずに済むねぇ」

「……え?」

「ぐぅ…………」


 足手まといではない、そう言おうとした私はパチパチと焚火に照らされて、満足そうな顔で眠るアンナの横顔を見て口を噤んだ。


 アンナがそんな風に感じていたとは思わなかった。


 何故アンナにそう思わせてしまったのか、焚火が消えて辺りが真っ暗になってからもその言葉が頭から離れてくれなかった。案の定翌日は寝不足で魔力をお漏らししまくった結果、毛玉達が少し大きくなった。


 そうして私達が聖域でルナに魔法を教わり始めて気付けば1か月が過ぎていた。

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