3 ねえ、失礼な大人ってどうなのよ?
大人になった皆さん。
子どもに対しての礼儀、忘れてませんか?
やって来たのは、大人の男の人だった。スーパーの制服を着ていて、河童と比べると、だいぶまともな人に見える。河童はこの人に見つかりたくなかったんだろう。
ぼくはにっこりと笑ってあいさつをした。
「えっと、こんにちは」
「ここらで、河童を見なかったか?」
何だ、この人。あいさつには、あいさつを返すのが礼儀ってものじゃないか。
ぼくはムッとした。まともなのは見た目だけじゃないか。河童のことは、絶対に話してなんかやらない。
「こんにちは、おじさん。何の話をしているんですか?」
「河童のことだよ、河童。ほら、ここは河童淵だろ」
「こんにちは、おじさん。ぼくは河童なんて言葉、はじめて聞きました」
「でも、キュウリを手に持っているじゃないか」
あ、この失礼な大人もムッとしたみたい。ムキになっている。大の大人なのにね。
「こんにちは、おじさん。キュウリはおいしいですよね」
「だから、キュウリを持ってここに来ているってことは」
「こんにちは、おじさん。ぼくは河童なんて知りません。ところでおじさん。どうしてあいさつを返してくれないんですか?」
ぼくはにっこりと笑って尋ねた。
「ぼく、先生に言われましたよ。きちんとあいさつをしましょうって。おじさんは大人なのに、小学校で習ったようなこともできないんですか? それとも、学校で習ったことなんか忘れちゃったんですか?」
「ちっ」
「あ、舌打ちした。悪い大人ですね」
ぼくが言うと、失礼な大人はぼくをじっとりとした目で見た。
「……うるせえガキだな。おまえ、友達いないだろ。一人で河童淵でキュウリ食べるしかない夏休みとか、さみしくねえの?」
ずいぶん、まっすぐに問いかける大人だ。オブラートに包むっていう文化は、彼の中にはないんだろうな。
「そりゃあ、さみしいですよ。だけど、引っ越してきたばかりなんで友達がいないのは仕方がないなあって思っているんです」
「そういう意味じゃねえよ」
「じゃあ、どういう意味ですか?」
失礼な大人は舌打ちをした。
「自分で考えろよ、このくそガキが」
「わからないから聞いているのに、教えてくれないんですか? 何かぼくが悪いことしているなら、説明をしてくれませんか? それも、説明できないんですか? ぼく、悪いことしているならきちんとあやまります」
ぼくはセイシンセイイ言った。煽っている自覚はある。
彼はもう一度舌打ちをして、すたすたと河童淵を去っていった。
答えは、ちっともくれなかったな。それに、最後まであいさつも返してくれなかった。
すっかり彼が立ち去ると、ぼくの背中からそろそろとユウちゃんが出てきた。
「ね、大丈夫? あの人、感じ悪かったね。呪ってやろうか」
「ユウちゃん。ぼくは大丈夫だから落ち着いてね」
ぼくはユウちゃんをなだめるように言った。ユウちゃんはたまに過激なんだよね。
「にしても、どうして河童を探しているんだろうね。
「変質者だからじゃない?」
ユウちゃんはシンラツすぎるよね。
ざぶん、と水が盛り上がった。
「ああ、それはちゃんと心当たりがありゃあ」
河童が頭の皿を磨きながら、水中から顔を出した。ふたたび陸にのそのそとあがってくる。