2 嘘だろ、河童がいるじゃん
よろしくお願いします。
ぼくはスペシャルハイパーな釣り竿が折れないように注意しながら、さりげなく竿を地面のほうへ移動させていった。まずは会話できるキョリに連れてこないといけないから。
ほら、釣るのが目的じゃないからね、友達になるのが目的だから。
そしたら、見事に河童と目が合った。
「ぎょえやぁ! やっぱり人間の子どもじゃあないか。こんにちは」
「こんにちは」
河童は変な話し方をした。
ユウちゃんが呆然とつぶやく。
「見た目は、さながら全身緑タイツの変質者ね。しかも皿が黄ばんでるじゃない」
「ちょっとユウちゃん!」
その通りだけど、さすがに失礼だって。
ぼくは、怒りのあまり河童の皿が割れるんじゃないかと心配した。
「そっちのお嬢さんは、初対面の人に対する礼儀っちゅうのをあの世に置いてきたんじゃあねえかあ?」
口でこそ文句は言っているが、河童は大して気にした様子もなく、皿が割れることもなかった。ホッとした。河童の命を奪いたくなんかないからね。
河童は右手にキュウリ持って、のそのそと陸にあがってきた。
「んでえ、そっちの少年はワシと友達になりたいと」
「はい。ぼくたちの会話、聞いていたんですか?」
「おう、おう。聞こえていたから出てきたっちゅうわけよ」
河童は言いながら、キュウリをぼりぼりと食べた。
「大体、へなちょこな木の棒で河童が釣れるわけないだろうよ」
「木の棒じゃなくて、スペシャルハイパーな釣り竿ですって」
河童は目を丸くした。
「……それは、いささか無理があるんじゃあないか?」
「河童の言う通りよ。それは、ただの木の棒よ」
「ふたりとも、あの世かどっかにレイギってものを置いてきたんじゃないの?」
ぼくは真顔で言った。
「発言をテッカイしてほしてくれませんか。マヨネーズあげるし」
「どうして、マヨネーズ?」
「じゃあ、撤回するしかあないな。キュウリにはマヨネーズと相場が決まっているのよ」
河童は「すまなかった」とちょっとだけ頭を下げた。皿の水がこぼれないように、慎重に、細心の注意を払って。
皿の水を気にしながらも頭を下げてあやまる河童を見て、ぼくは「やっぱり河童は変質者じゃないんだ」と思った。きちんとしている。
「別に良いですよ。はい、マヨネーズ」
「ありがとうよ」
河童はマヨネーズを受け取ると、上機嫌でキュウリを貪り食った。育ちが悪そうね、とユウちゃんが小さくつぶやいている。
「やっぱり、キュウリにゃあマヨネーズよ」
「マヨネーズもおいしいですけど、ミソもおいしいですよ」
「むしろ味噌のほうが美味しいわよね」
ユウちゃんが大きくうなずいた。
「モロキュウ知らないなんて、河童、あなた人生損しているわよ」
「人生じゃないよ、河童生だよ」
「そんなに美味しいのかあ、モロキュウってのは」
河童はじゅるりと口をならした。汚いけど、それが河童っていうものなのだろう。
「食べてみたいんだけどなあ、お金がないものだからよ」
「それはかわいそう」
「だから、この前アルバイトしようと思ったんだけど。……あ、ちょっと失礼」
「え?」
河童はキュウリをぼくに預けると、さっと水の中に消えた。
すると、すぐに誰かの足音が聞こえてきた。