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第壱話 えーあい短歌でおじゃる

 朝廷より三位の位を(たまわ)りし置餅(おきもち)表明(ひょうめい)殿はそれはそれは短歌の才に秀でたお方で、その日も昼過ぎに起きて歌を詠んでいたそうな。



 顔赤く 若人燃ゆる 青き鳥


    燃えて果つれば 垢消しにけり



「うーん、麿(まろ)の短歌はいつ聞いても美しいでおじゃる。朝廷に名のある歌人は枚挙に(いとま)がなくとも、麿を超える者は片手の指で数えるほどしかいないでおじゃる」

「三位殿、貴殿の名声もここまでかも知れませぬぞ。これは昨今江戸で流行るからくり人形『のべるあゐ』にてござる。このからくり人形は題材を伝えれば(おの)ずから歌を詠むのですよ」


 縁側に勝手に入ってきたのは朝廷に出入りしている幕府の役人、落川(おちがわ)終右衛門(しゅうえもん)じゃった。この男は名のある役人であるにも関わらず流行り物に目がなく、江戸で仕入れた小道具を上京の度に持ってきては表明殿に見せびらかしていたそうな。


「落川殿、そのようなからくりに何ができましょうか。さほど大層なことを仰るのであれば麿と短歌で勝負するでおじゃる」

「望む所でござる。のべるあゐよ、『山』『川』『(しのび)』で歌を詠むがよい」


 終右衛門がそう命じると、からくり人形「のべるあゐ」はぎしぎしと音を立てて動き始めたのじゃった。



 山を越え 川に潜りて いざ()かん


    忍びの先に (ほまれ)こそあれ



「こっ、このような短歌は認めないでおじゃる! 仮のものでこの出来であれば、いずれは麿のような歌人は世間に必要とされなくなるでおじゃる! 今すぐそのからくりを壊すでおじゃる!!」

「三位殿、そのようにお気持ちを表明されましても『のべるあゐ』は下々の者どもから普及していきますぞ。そもそもこのからくり人形は三位殿のような優れた歌人の歌を大量に覚えさせることで動きますゆえ、『のべるあゐ』のせいで歌人の方々が必要なくなるということはないのでござる」

「そうでおじゃるか。さらば麿もからくり人形に負けぬよう歌を詠み続けるでおじゃる」



 (あら)たしき 物の具どもに 追はれども


    我の言の葉 打出の小槌



「落川殿、参られていたのですね。今日は私も面白いものを持ってきましたよ」

「従一位殿! これはこれは」


 本殿の方からやって来たのは表明殿の上司に当たる新庄(しんじょう)従一位で、彼は後ろに成人男性ぐらいの大きさの人型を従えていたのじゃった。


「これはからくり人形『たみねた』と言いまして、刀で斬られても何ともせぬ鋼の身体を持ち紙玉火縄銃を連射することができるのです。このからくり人形を沢山作ればもはや侍も必要なくなるのですよ」

「そのようなからくり人形の存在は許せませぬ! お覚悟ーっ!!」

「落川殿、殿中でおじゃる! 殿中でおじゃる!!」


 怒りに身を震わせると刀を抜いてからくり人形「たみねた」に斬りかかった終右衛門を、表明殿は慌てて制止したそうな。



 えーあいの 現れし時 褒めそやし


    己追はれて 叩く世の常



 (続くでおじゃる)

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