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【4】ハッピーエンドを超えてゆけ【完結】  作者: ホズミロザスケ
喜志芸祭とオムライス
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第七話 喜志芸祭とオムライス7

「真綾、急な話なのだが……」

「どうしたの」

「父と母が、予定では明日帰宅予定だったんだが、早い便に変更して今帰っている途中らしくてな。せっかくの機会だから真綾に会いたいそうだ」

「えっ……えー!」

 一気にパニック状態に陥る。

「なんの手土産も持ってないし、服だってカジュアルだし!」

「突然の話だ。なにも気にしなくていい」

「う、うん……」

 深呼吸して、とりあえず落ち着こう……。何からお話していけばいいんだろう。自己紹介をして、君彦くんとお付き合いさせていただいているということと……脳内で慌ててシュミレーションする。


「そういえば、君彦くんのお父様とお母様ってどんな方なの?」

「母はファッションデザイナー。俺が着ている服もすべて母が手掛けているブランドのものだ」

「え!?」

 いきなりすごい情報が出て来た。

「ちなみにお母様のブランド名って何て言うの?」

「『カグラ ミイコ』だ。ブランド名と同じ名前で活動している」

 カバンからスマホを取り出して、調べてみる。公式サイトやウェブ記事はもちろん、服の写真もたくさん表示される。その服の中には、君彦くんが実際大学で着てた見覚えのあるデザインのものもある。

 カグラ ミイコ。ファッションデザイナー。日本人女性であること以外、年齢などの情報はほぼ非公開で活動。メンズ向けファッションに特化しており、仕事場で着やすいシックスタイルも、派手にキメたいパーティースタイルも、どちらにも対応できるスーツシリーズ『dear T』は世界中で人気が高い、と書かれている。

「有名な方なんだね……!」

 そんな人と今から会うんだと思うと、粗相しないかと不安で汗が滲んでしまう。

「俺を出産後、母のブランドは徐々に人気が出たらしくてな。俺が小学校に行かず、引きこもるようになってから、母と、母のブランド会社社長兼マネージャーをしている父は世界中で仕事をこなして、何か月単位で家を空ける。この家に一年の内、合計一か月滞在しているかどううかだ。だから、父と母と一緒に過ごした記憶があまりない。どういう人かと説明するにも、俺もうまく説明出来ない。二人の子どもとして、失礼だとは思うが」


 君彦くんの瞳はどこか寂しそうだった。この大きなお家で一人だったんだ。芝田さんやメイドさんたちがいても。わたしも、弟がいたとはいえ、夜になるまで両親が帰宅しないのはとても怖かった。特に夜の暗さはどれだけ家の電気をつけていても不安になった。それが、何か月もいないなんて思うと……心が苦しくなる。

「そんな悲しい顔をするな、真綾。父と母には感謝している。俺が引きこもりでもなにも言わず、見守ってくれた。大学受験も勧めてくれたからこそ、新しい物語の世界観も発見出来た。なにより真綾と出会えたからな」

 そう言って君彦くんはわたしの手からバレッタを取ると、つけなおしてくれた。

「父と母が到着したら、すまないが、玄関で一緒に出迎えてくれないか?」

「もちろんだよ」

「ちゃんとお父様とお母様とお話できるかな」

「真綾なら大丈夫だ。何かあれば、俺がフォローする」

「ありがとう」


 十分もかからないうちにご帰宅されるということで、わたしたちは玄関へ向かい、お父様とお母様を出迎える。使用人の皆さんと一緒に待つ。この家の主が帰宅するということもあり、しんと静まり返っている。扉が開くと、

「おかえりなさいませ」

 さっきのように一斉に頭を下げたので、わたしも倣って下げる。

「ただいま」

 そう言いながら、サングラスを外す。

 お母様の鋭さのある目の形と、亜麻色の綺麗な長い巻き髪は、君彦くんとそっくりだ。艶のある赤いピンヒールを脱いでスリッパに履き替えても、わたしより頭一つ分背が高い。薄手の黒いニットドレスを着ていて、細く引き締まった身体のラインがしっかりとわかる。見惚れていると、

「君が佐野真綾さんだね」

 隣に立っていたお父様がやさしく微笑む。黒に近い濃い緑色の上下揃いのスーツ姿は、綺麗にセットされた白髪交じりのオールバックの髪にも合っている。ネクタイの代わりに首元にスカーフをつけていて、かしこまりすぎず、ラフさが漂う。

急に声をかけられてわたしはあたふたしながら、

「は、はい! はじめまして、佐野真綾です」

 と挨拶をする。お母様はわたしをじっと見て、何も言わない。表情も変わらない。なんだか、はじめて君彦くんと話した日を思い出す。

「皆様、お茶のご用意が出来ております」

 芝田さんが声をかけ、応接間に移動する。陶器で出来た花柄の白いティーカップに紅茶を注いでくださった。応接間、温かい紅茶……、君彦くんとお話しした日と同じだ。あの日もとても緊張したけど、君彦くんが今は隣にいる。大丈夫だ。


「初めに、僕たちの自己紹介をしなくちゃね。僕は父の貴彦(たかひこ)。隣が母の美子(よしこ)

「改めまして、佐野真綾と申します。よろしくお願いします」

「君のことは君彦から聞いているよ。お付き合いしているんだね」

「はい」

「あまり君彦から電話をかけてこないから、着信があった時は何事かと思った」

「大切な人が出来たんだ。両親に報告しないわけにも」

「君彦がこんなかわいい彼女を連れてきてくれる日が来るとは。聞いたときは妻ともども驚いたよ」

「えへへ」といつもの気の抜けた笑い方が出てしまった。照れてしまうとどうしてもこの笑い方が出てしまって恥ずかしい。

「美子ちゃんは――」

 とお父様が声をかけると、お母様は無言で睨みつけた。お父様は苦笑いしつつ、

「ええっと……美子は訊きたいことはないのかい?」

 と言い直す。

「それでいいわ。――真綾さん」

「は、はい」

 ピンと背筋を伸ばしお母様を見る。

「あなた、君彦と一生添い遂げる覚悟はある?」

 わたしも、君彦くんも、お父様も驚いて言葉がない。

「あなたはまだ大学生。この先、社会に出て、君彦以外の異性とたくさん出会うと思うわ。それでも君彦を愛し続けれるかしら?」

「母さん、俺たちはまだ付き合って一週間なのだが」

「わかっているわ。だから、訊くの。一時的な好意なのかどうか」

「わたしは」

 緊張で震える手をぐっと力を入れて抑える。

「わたしは、君彦くんを軽い気持ちで好きにはなってないです」

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