6. 都市計画
~前回までのあらすじ~
転移先の中華異世界で皇帝と結婚し、暗殺未遂事件の真犯人を処断した主人公。
財政改革に手を付けると、何と多額の資金流出が判明。
流出先の豪商を財務大臣(民部卿)に任命し、ようやく新体制が始まる!!!
「改革にあたって、宰相殿と陛下に1つお伺いしたい事が」
「気兼ねなく言うてみよ」
「ここ100年の帝都周辺の小麦収穫量を知っていますか」
そんなデータがどこにあるというのか。
「こちらが先々帝のそのまた前の御代で、そちらが今の収穫量でございます」
「耕地は増えたにも関わらず、収穫量が減っているのであります」
「恐らくは過剰灌漑による土壌の悪化が原因かと思われます」
ところどころ飢饉でガタ落ちになっている所を除けば、ずっと下降傾向にある。
話が読めたぞ。表形式でまとめてプレゼンという訳か。
しかし、何を?
「そこで帝都改造を進言致します」
「帝都を今よりも違う位置に再構築するのです」
「それは遷都と何が違うのじゃ?」
陛下がこう思うのも当然である。普通、位置を変えるならそれは遷都である。
「新たに都を造営する訳ではないのです」
話を聞いていると、どうやら元の世界でいう所の都市計画というやつのようだ。
「そんな事をして、我が国の財政は大丈夫なのか?」
宰相として訊かずにはいられない。
「それは予算が大量に余りましたので」
都市1つ分の予算が余ったという事か。
元世界価値に直せばウン千億は下るまい。
「ならば、取り敢えずそれについて報告書を出すのじゃ」
「ははっ」
いつの間にか企業のようになっているこの国の政府。
何だか元世界を彷彿させるものがあって面白い。
5日後。
「例の報告書にございます」
「ふむふむ……この帝都は『斗城』と呼ばれておるのか?」
「それは帝都の形の乱雑さ故、市民の間ではそう呼ばれているのでございます」
「民部卿呂直よ。報告書を読み終わる前に聞いておきたい」
「帝都には何が必要なのじゃ?」
「商業空間にございます」
「商業空間?」
陛下と私は同時に訊き返した。
「今の帝都は区画ごとに門があり、また市も東市と西市のみに規制されており、商業の自由がございませぬ」
「我が国の根幹は農業ではないのかの?」
皇帝陛下は傍に控えた別の人物に訊く。
「代々言われておるのは『重農抑商』でありますが」
「何が良いかは我々には分かりませぬ故、宰相殿を頼られては如何でしょう」
ここではその話を切り上げて、別に業務に移った。
興楽宮・寝殿。
「……こうして私の仕事が増えた、という訳ですね?」
傍仕えの官僚よ、勝手に仕事を振ってくるんじゃない。
「お主の仕事はわらわを支える事なのじゃ」
幸いにして経済ネタについてはよく知っている。
「結論だけ言うと、あの献言はかなり革新的です」
「是非実行を検討されては」
「そうなのか?」
「大路に商店を出させ、商業を活性化させるのです」
というのもこれまでは、区画ごとの土壁が商業を阻んできた。
このような障壁を徹底的に排除するらしいと聞いている。
「取り敢えず立地を調べてみるだけでもやってみるのじゃ」
新たに商業都市・長安を作り上げるという計画。
呂直にはある個人的理由があったのだが、それは少し後に。
翌日、謁見の間。
「宰相と民部卿は新帝都の立地を探すのじゃ」
「渭水を挟んで北岸はどうだろうか」
そこはかつて前の王朝の都があった所らしい。
「国破れて山河在り、城春にして草木深し」
かの杜甫の詩のあてはまる様子であった。
「かつての市街は洪水で埋もれているようですね」
洪水で沈む所は適していない。西も南も山がちであるため、残りは東しかない。
こうして都市の立地が決まった。
立地が決まるや否や、呂直はこう言った。
「いよいよ我が家が『関中』になります」
関中とは函谷関以西の事。都会と他を隔てる境界線でもある。
「そこまで嬉しい事?」
私がこう訊くと、呂直が語り始めた。
「今は昔、まだ故郷の村に住んでいた頃の事です」
「洛陽の民が頻繁にやって来て、こう言うのです」
「やーいやーい田舎者」
何その初歩的というか幼稚な煽りは。
というか洛陽も関中ではない筈なのだが。
「洛陽でこれが大流行しまして、毎日のように沢山の洛陽市民が小馬鹿にしたのです」
「それに怒った1人の村人が洛陽市民を斬り付けました」
「そして?」
「その者は家族共々処刑されました」
聞く限り、家族共々にまでは及ばない筈の罪だが。
「斬り付けられた者が嘘をついたのでした」
そんな事があったとは……。
「その者の親友は誓いました」
「全ての発端は函谷関にある、函谷関を動かして見せる、と」
「まさか?」
「その『まさか』です。その親友が私・呂直です」
「という事は、帝都改革はおまけで、目的は函谷関の移転?」
「否定はできませんね」
私利私欲のためにこの計画を推し進めているという訳か。
まあ、この方が信用できるのは確かだ。
「ご心配なく」
「何が?」
「函谷関の移設費については私の自費で行うので国庫には影響を与えません」
こいつ、自費で要塞移設できるほどの蓄財をしてたのか。
帝都改造の第一弾として始まったのは、帝都ではなく函谷関の移設。
しかも、その改造は殆ど中身のないものと判明。
単に、大量の労働力を調達したかっただけだという事らしい。
とはいえこの『帝都改造』は商業奨励という点で非常に面白い。
「帝都改造は続けるぞ」
こうして、帝都改造が始まる事となった。




