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你好異世界  作者: 曽我二十六
帝都奪還編
5/12

5. 悪徳商人

~前回までのあらすじ~

転移後、結婚した皇帝を暗殺しようとした宰相を遂に処断。

まずは財政改革から……と意気込んだ改革であったが。

 帝国の財政基盤は非常に脆いものであった。

 先々帝の改革も空しく、今はある商人に借金漬けになっている状況だという。


 「その商人とは誰だ」


 訊いた相手は宰相付き補佐官となった陳準である。

 函谷関で紹介を受けた『陳氏商店』の息子らしい。


 「呂直という豪商で、複数の郡にまたがって商業を行い、莫大な利益を上げています」


 使われた金の使途を見ていると、何だか引っ掛かる所がある。


 「今年の予算に何が使われたか、一覧にしてくれるか」


 「明日までにやっておきます」



 朝廷は朝に始まるから、昼頃には終わってしまう。


 さて、どうしようか。

 取り敢えず宮殿に向かおう。


 そこには、皇帝こと趙梅丹が寝転がっていた。


 「何してるのっ!?」


 「疲れたのじゃ……甘えて良い?」


 突然こんな事を言われても、全く心の準備は出来ていない。


 「甘えるだけなら……良いよね?」


 彼女はそう言うと背後から抱き締めてくる。


 「ちょっと、困りますよ……」


 「何が困るのじゃ?」

 「あと、お主とわらわは夫婦なのじゃから、2人きりの時は敬語無しで良いぞ」


 「もし誰かに見られたら……」


 「そういう事も考えて、人払いは済ませてあるのじゃよ」

 「何があっても、他に露見する事はないのじゃよ」


 「ねぇ、ちょっと」


 人払いを済ませたんじゃないんかい。

 それに、聞き覚えのある声。

 振り返ってみるとそこには雪子が。


 「私に内緒で、2人でコソコソと、何やってんのよ」


 目つきが怖い。2人して謝ろうとしたその瞬間。


 「どうして私を混ぜてくれなかったの?」


 「混ぜてくれて宜しいんでございましょうか?」


 突然の事に理解できず、変な日本語になってしまった。


 「私とだって夫婦なんだから、幸せにしなかったら許さないんだからねっ!」


 まだプロポーズなんてしてませんが。


 「じゃなくて……」

 「私も貴方の事が好きですっ、末永く宜しくお願いしますっ!」


 まだ受け入れてませんが。


 陛下と雪子がアイコンタンクトをしたような気がした。



 これ以降、私は2人の間を交互に訪れる事となった。


 こんな結婚生活が始まった次の日の事。

 陳準が報告書を持ってきた。


 「予算の使途を一覧にしてみましたが、使途不明金が多いですね……」


 「それは君が調べきれなかったんじゃないのか?」


 「そう言われればそれまでですが……流出先は分かっているのです」

 「何と、呂直の懐でした」


 今の帝国政府は、呂直から金を借りて、その金で呂直に支払っているようなもの。

 あるあるな話ではあるが、あまりに看過できない規模のものであった。


 帝国の予算の4分の3が呂直の懐に入っていたのだ。

 どうやら前宰相張高と贈収賄で深く繋がっていたらしく、その時代には露見せぬよう包み隠されてきたようだ。


 「陳準、今から呂直の所へ行くぞ」


 「武器も持たずにですか?」


 「商人相手だから、武器は……いや、持って行こう。非常に不安だ」



 呂直邸。

 「宮殿よりも豪華じゃないか」


 「はい、豪華絢爛の限りを尽くした邸宅ですね」


 「全く、私は宰相なのに家はないぞ」


 「えっ、どこで寝てるんですか?」


 「2人の妻の家に交互に泊まってる」


 「じゃあ、家って興楽宮の中ですか? 羨ましい限りです」


 「でも、私的空間がないんだぞ」


 「美人妻じゃないですか」


 2人とも中々の曲者なのだが、これを言うとまた面倒事になりそうだからやめておこう。


 「呂直殿はおられるかー?」


 「御主人様は中におられます、どうぞ」



 「ほぉ……これはまた豪勢な」


 商店の息子である陳準がこう言うのも仕方がない。

 1つ1つの部屋部屋が、ヴェルサイユ宮殿鏡の間のような豪華さであるからだ。


 宝石や剥製が壁に埋め込まれているのだが、それを1つ取って呂直は、「どうぞ」と差し出してくる。


 それほどの富があると顕示したいのか。これは威圧なのか。


 「そなたらが来られたのは……朝廷の借金の件ですかな?」

 「いつ返せとも催促はしておらぬ筈ですが、一体?」


 「単刀直入に訊こう、朝廷に貸しを作ってどうしたいんだ?」


 「貸し? それは一商売相手として金を貸しているだけですよ」


 という事は、政権奪取が目的ではないのか。

 確かに、政府に金を貸し続けられれば、永遠に金を得られる。それに、破産しても利権回収に動けば良い訳であるから、政府は超優良物件といえる。


 「金と国、どちらが欲しい?」


 呂直は迷わずこう言った。


 「カネだ。国なんぞ要らん」


 「分かった。それなら話が合いそうだ」


 「貴殿には民部卿になって貰おうと思う」

 こう言い出すと、やはりとても驚いた顔をしている。

 民部卿というのは、今でいう所の大蔵大臣のようなものである。


 「国政に影響が出ない程度の賄賂はお目こぼしという条件で、だ」


 「その口約束を信じろと?」


 賄賂の許容という形に不信感があるのなら、どうすれば。


 「代わりとして1つ提案なのだが」

 「帝国の一部で良いから、徴税権が欲しい」


 徴税権。少し悩んだが、世襲のものではなく官職として、それも皇帝に服属する官僚に与えられる職として、徴税権を認めるという形にした。

 というのも、過去の歴史を紐解くと、徴税権を認めるとやがて世襲化し、貴族層が形成されてしまう事が分かるからである。


 「提案を受け入れて頂きありがとうございます」

 (こやつとはいずれ干戈を交える事になるだろう……厄介だな)


 (呂直という男、帝国のためにはいずれは排除せねばならない存在……侮れない)


 こうして、帝国最大の豪商・呂直が民部卿として朝廷に加わった。



 謁見の間。

 「呂直よ、よくぞこの任を引き受けてくれたのじゃ」

 「早速じゃが、何から手を付けるべきじゃ?」


 「まずは帝都の改革からですな」


 こうして帝都改造が始まった。

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