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你好異世界  作者: 曽我二十六
帝都奪還編
4/12

4. 悪役宰相

~前回までのあらすじ~

中華風異世界に転移し、そこの皇帝と結婚した主人公。

妻皇帝の暗殺未遂後、帝都長安奪還のため、はるばる旅を始める。

洛陽では盗賊に遭うも、その盗賊を引き入れ、着いた先は国門・函谷関。

 函谷関。2つの巨大楼閣が聳え立つ大城壁。

 そこに吸い込まれた先発隊が難なく通過すると共に、中間隊も関に近付く。


 「珍しいな、一気にこれほど商人が来るとは」


 ここであらぬ事をでっち上げるのも良いが、殿隊が違う答えを言えばおじゃんだ。


 「我らは西域の方へ行く行商です」


 「西域に行くにしては砂対策がなってないような……」


 「それらの物品は長安でひと商売してから用意しようと思いまして、良き店を知っておられたら是非お教え頂きたい」


 我ながら最高の方便だ。


 「ならば、斗城の南の方の『陳氏商店』が良いぞ」


 「ご紹介ありがとうございます」


 殿隊も怪しまれる事なく、函谷関を無事に通過した。


 ところが。70kmほど進んだ桃林塞にて、こんな噂を耳にした。


 「宰相様に逆らう者が逃げ回っているらしい」

 「見つけ次第、首を打って差し出せば、邑千戸を約束してもらえるらしい」


 「このままではまずいのじゃ、一刻も早く辿り着かねば」


 洛陽からは馬での移動のため、もうすぐ長安に辿り着く。

 長安の城門は開いている。


 「興楽宮へ急ぐのじゃ」


 興楽宮というのは帝国の全ての政治を司る宮殿にして、皇帝の住居。

 ここを奪還すれば我々の勝利であり、奪還しなければ何も始まらない。


 しかし流石は皇帝の住居、警備が厳重である。


 「隠し通路はあるの?」


 「それが……無いのじゃ」


 「えぇ……無いの」


 「作っておけば良かったのじゃ」

 「夜に塀を越えるしか無さそうなのじゃ」


 「夜まで待ちますか」

 護衛隊長の李林児がこう言うと、各自夜まで自由時間となった。



 長安市街。

 今私は、2人の妻と一緒に真っ昼間から食べ歩いている。

 ロングスカートの美少女2人を連れている姿は、傍から見れば兄妹だろうか。


 通行人の衆目を浴びていた事は間違いなかった。

 皇帝陛下は、顔を知る者も多いためヴェールで顔を隠している筈なのだが、それでも雰囲気が伝わるのか、視線を集めないようには出来なかった。


 「ねぇ、ゆきちゃん、あの食べ物美味しそうね」


 「うめちゃんが美味しそうな食べ物屋見つけたんだけど、どう?」


 やはり可愛い。これは可愛いが過ぎる。


 「良いんじゃない? 行こうか」


 そこで売っていたのは炮羊という、羊を丸焼きにして米粉を塗って更にじっくり揚げた料理。

 こんなに肉食系だったとは。

 食べてみると案外美味しい。羊肉は初めてだったのだが。


 こんな調子で散策していると、夕方になっていた。


 「もうすぐ日が沈むのじゃ」


 作戦決行は戌の刻、つまり夜7時から夜9時あたりと聞いているから、もうすぐである。


 「先刻の食事を最後の晩餐とするか否かは、お主らにかかっておるのじゃぞ」


 塀を越えて興楽宮に侵入し、宮殿に朝早く出仕する役人が来るまで耐えきればこちらのもの。



 興楽宮東塀。

 見張りの兵が通り過ぎるとすぐ、梯子を掛けて塀を越える。

 この塀を越えるのは、皇帝陛下とその夫の私、その妻・雪子の3人である。


 「大丈夫?」


 「わらわは皇帝じゃぞ、こんな事に苦労する訳が」


 「でも塀から飛び降りる時、よろめいてましたよね?」


 「それは……たまたまなのじゃ!」

 「臣民の置かれた状況を思えば、こんな事っ」


 興楽宮には侵入できた。

 しかしここから更に、寝殿に侵入せねばならない。見張りの衛士から隠れつつ。


 「寝殿はあの塀の向こうじゃ」


 この塀を越えるには。どうやら誰かが支えねばならないようだ。

 後は雪子に任せよう。その方が2人は安全だ。


 「じゃ、後は頼みましたよ、ちゃんと帝位を奪還して下さいね」


 塀を越えていく2人を見届けて、私には庭に隠れる。

 成功しますように。



 翌朝。

 鶏の鳴き声が響き渡ると共に、政務は始まる。ちなみに元世界では、これが「朝廷」の語源である。


 「陛下!? 今までどちらに?」

 「御前であるぞ、静かにせよ」


 中下級の官僚が大騒ぎする中で、宰相が謁見の間にやってくる。


 「陛下、お久しぶりでございます。今日は」


 「黙れ」


 宰相の言を遮って、一呼吸置いた後、皇帝は勅命を下す。

 「宰相張高を罷免し、即刻車裂き刑とする」


 「車裂き刑だと!? 俺に受けた恩を忘れたか皇帝よ!!」


 「先々代の帝が廃止したあの刑罰を!?」

 「暗殺未遂であるからこの重刑も仕方があるまい」


 臣下に動揺が広がる中で、更に新たな発表を執り行った。


 「わらわは結婚した」


 「!?」


 またもや衝撃が走る。臣下の何人かは既に情報過多で放心状態に陥っている。


 「そして、我が夫・趙建をこの度の宰相の空席に充てる事とする」


 臣下はてんやわんやの状況に至ってしまった。


 こんな事が起こっているとも知らず、私は庭の中に隠れて日が高く上るのを待っていた。

 もし成功していれば今頃、決着が着いた頃合いだろう。正門から堂々と入る事が出来る筈だ。

 成功してなければ、仲良く3人で牢獄行き。その時は3人で脱獄するまで。


 「私は皇帝の夫であるぞ」


 現場の衛兵が今朝の宮廷闘争なぞ知る訳もなく、捕まってしまった。


 「陛下、皇帝の夫と名乗る人物が正門に現れたのでひっ捕らえました!」


 「馬鹿もん、そいつが我が夫だ!」


 「ひえっ、急ぎ衛兵に伝えます」


 こうして私は解放された。

 解放されるや否や、今度は巨大な宮殿に連れていかれた。


 「我が夫・趙建よ。そなたを宰相に任ず」


 こんな事をいきなり言われても困るのだが。


 「その任、しかと受け賜りました」


 周囲がザワザワしているのも仕方のない事。

 女帝というだけでも神話伝説の存在でしかないのに、その夫だというのだから前代未聞の話だ。

 しかし意外と理解は早く、翌日には私の呼び名は侵入者から宰相殿に変化した。


 宰相になって最初の仕事。

 それは、この大帝国の財政再建であった。

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