2. 泰山下山
~前回のあらすじ~
泰山で行われた封禅の儀により異世界召喚されてしまった主人公。
幼馴染への告白直前に召喚されてしまったため、間違えてのじゃロリ皇帝に告白してしまう。
どういう状況かを理解したかと思えば、そこに当の幼馴染が。
「ねぇ、どういう事よ?」
「そこの女の子と結婚したの?」
幼馴染・雪子は私を問い詰める。
「政略結婚というか何というか」
「わらわはお主の事好きじゃぞ」
変な補足情報付け足さないで下さい。
「つまり私とそこの女の子と、浮気しようって訳ね?」
「だから、それは違うくて」
説明しても分かってくれなさそう。
「何か面倒そうじゃの、わらわが説明するから2人とも座っておれ」
ここは皇帝陛下に説明してもらおう。
「まず今いるここは泰山といってじゃな」
「封禅の儀をしていると喚び出されちゃったと?」
「なんと。そこの男と比べて物分かりが良いようじゃの」
「えへへ」
照れてる場合じゃないって。早く話を進めないと日が沈んでしまう。
だいたい同じような話をして、彼女もこの状況を理解した。
「2人とも、この世での名前を付けぬといかんの」
「わらわの夫、お主には趙建という名を、その正室には趙雪花という名を与える」
「つまり、婿入りという訳じゃ」
「さて、今度こそ山を下りるかの」
皇帝が封禅殿の扉を開けると、矢が飛んできた。
「何奴っ!」
「しまった、撃ち損じた! 宰相様に怒られるぞ!」
「こうなったら燃やしてしまえ!」
「皆の衆、火矢を放て!」
「まずいの、このままでは皆焼け死ぬの」
「逃げ道はあるんですか?」
「先帝が遺した隠し通路があるのじゃよ」
「助かった……」
「宰相の野郎、シメるしかなくなったの。覚えておけよ」
皇帝陛下を本気で怒らせるとヤバいというのは、2人とも感じた事らしい。
隠し通路を抜けると、そこは洞窟の中。
「あとどれくらい歩かなきゃいけないんですか?」
「ざっと20刻」
こんな事を言われても「刻」という単位は時代によっても違う。後で知ったけれども、5時間くらいだった。
「もうすぐ洞窟の出口じゃの」
「敵兵がいないといいのじゃが」
「いませんね……」
「歩き疲れたんだけどー」
「ねぇ、皇帝陛下と結婚したんなら正室の私をどーにかして下さいな、旦那様~」
「って訳でちょっと休憩しませんか?」
「馬鹿か、わらわは今死んだ事になっておるのじゃぞ!」
「宮廷では今頃、裏切り者の宰相が次の皇帝に即位しておるわ」
「今の宰相は帝室一族なんですか?」
「言ってなかったか。話せば長くなる話じゃが」
今から5年前。
まだ先帝の御代の事じゃった。
宮殿で火の手が上がってな、わらわ以外、皆殺しに遭ったのじゃ。
唯一生き残ったわらわが、皇帝として擁立された。
そこで支えとしておったのが、今の宰相だったのじゃ。
「そんな……」
「だから、一刻も早く都へ辿り着かねばならんのじゃ」
「そこでじゃ」
「何ですか?」
「夫なら馬の1頭や2頭、借りてくるのじゃ!」
「他に出来る人いないんだから、お願いね」
2人共、他人に押し付けて……。本当にこの2人は妻なのだろうか。
「あの……馬に乗れないんだけど」
「じゃあ馬車を借りてくるのじゃ」
「はいはい、借りてきますよ、皇帝陛下」
「『はい』は1回でいいのじゃ」
「すみません、馬車ありますか?」
「牛ならいるけど……」
「ちょっと長い間、貸してくれませんか?」
「対価は?」
こういう時、伝記では出世払いが王道だ。
「邑千戸で」
邑千戸、つまり1000世帯分の税収である。
「兄ちゃん、面白いねぇ。でもこれから耕すのに使うから、無理かなぁ」
「ありがとうございます。他に貸して貰えそうな所はありますか?」
「東の集落の人なら貸して貰えるかもしれないなぁ」
こうして探して4時間。やっと見つかったのは3km南の集落の牛であった。
一方この頃。
「さて、雪花ちゃん。同じ夫を持つ者として、女子トークといこうか」
「えっ?」
「急で驚いたのじゃ?」
「ま、まあ」
「あやつ、ああ見えてずっとお主の事を好いておったようじゃの」
「知ってます、どうせ最初に会った時からでしょ」
「じゃあ、知ってたのに何故付き合わなかったのじゃ?」
「それは……」
「相手の事を想うあまり、何も出来なかった、と」
「心を読まないで下さい!!!」
(似たような事をあやつも突っ込んでおったな)
「ならば、この戦いの後、お主から告白するのじゃ」
「ええええええええええええええええええっ!?」
「む、無理ですよ、私からだなんて……」
「あやつはお主の事を好きなのじゃろ?」
「ならば、失敗する訳があるまい」
「恥ずか死します……」
「しかし、告白せぬといつまでもあやつはお主の気持ちを知らぬまま、死んでしまうぞ?」
「そうなれば、お主も悔いが残るのであろう?」
「で、でも……」
「『でも』じゃない、この戦いが終われば、わらわはあやつを新宰相にする」
「その時に告白するのじゃ、これは勅命じゃ」
「牛車を借りてきましたよー」
「さて、帝都長安へ向かうのじゃ」
「どのくらいの日数が掛かるんです?」
「ざっと3ヶ月。その間の牛の食べ物も用意せねばならぬのじゃ」
借りてくる時に長くても2週間と言ってしまった。
それに、牛の食べ物って何?
「牛は基本的に草を食んでおればよい」
「たまに塩塊を舐めさせればよいだけの話じゃ」
「その塩塊ってどうやって入手するんです?」
「働く」
「えっ?」
「だって、それしかないじゃろ。カネもない、権威もない、権力もない、働く他あるまい」
「……でも、誰が?」
「お主ら2人が働くのじゃ。わらわは牛車の見張りをしておるわい」
「あっ、一番ラクな役職を!」
「……やっぱり交代制にしません?」
「嫌じゃ」
「交代制に賛成の人は手を高く上げて下さい」
って、幼馴染なんだから普通味方だろ。手を挙げろよ……
「えー、私、うめちゃんのお友達なのよ」
彼氏よりお友達なんですね……
って、ウメチャンって何よ、そんなに親しかったっけ!?
「ってな訳でよろしくなのじゃ」
「雪子、お前にはそこの皇帝の分まで働いてもらう事に……」
その瞬間、口に何かが触れた。
彼女の唇だ。
(こんな手段で黙らせようたってそうは……)
「これで、私の分まで働いてくれる?」
もう精神が保たない。情報量が多すぎる。
結局、帝都長安までの食費は全て、私が稼ぐ羽目になった。
「我が夫よ、頑張るのじゃ」
この皇帝に天罰の1つや2つ、下らないだろうか。




