12. 大乱勃発
~前話までのあらすじ~
中華風異世界に転移した主人公は、現地の皇帝と幼馴染と結婚。
帝位簒奪未遂を乗り越えると、今度は反乱が勃発。
これを何とか鎮圧した華帝国だったが……
韓世凱は考えていた。
英雄と褒められるのも今のうち。
失敗すれば、今度こそ処刑されるかもしれない。
国内では「衡山郡代の乱」以後、それに触発された反乱が相次いでいる。
鎮圧困難なもの、衡山郡代の乱に匹敵する反乱も既に何個か発生している。
韓世凱にとって、恐怖でしかなかった。
そんな折、一通の手紙が届いた。
「反旗を翻しませんか?」
仮にこの手紙の内容を拒絶しても、叛意ありと捉えられるだろう。
ならば。
彼は筆を取ってこう記した。
「参加します」
韓世凱が反乱に参加して2日。
この時既に反乱は各地に飛び火し、長江中下流域は反乱軍の制圧下に入ってしまった。
反乱諸勢力の中で特に有力だったのが、阿弥陀教徒軍と朱洛行率いる闇商人軍であった。
前者は熱烈な信仰と厳格な軍規を以て江南の殆どを制圧していた。
後者は華南地方から長江中流域に進出しつつあった。
またこれと同時に遼東に封じていた同姓、つまりは帝室一族の諸侯王が反旗を翻した。
燕王趙温の反乱に呼応して、代王趙世賢が反乱を起こしたのであった。
総括すると、帝国は南北両面からの攻撃を受ける事となった。
「韓世凱の反乱を最優先に鎮圧するのじゃ!!!」
皇帝陛下の大号令により、柏三桂率いる禁軍20万が長江中流域に迫った。
大散関を守る韓世凱軍分隊を打ち破った後の事。
柏三桂が号令を掛ける。
「今より武漢三鎮を奪還する!!!」
この時、伏兵が柏三桂に弩を放ち、見事彼の胸を貫いた。
同時に反乱軍が一斉に柏軍に攻撃し、壊滅的打撃を受けた。
この大敗北は瞬く間に拡散されてしまった。
そして韓世凱を枢軸として反乱軍がまとまりを見せ始めた。
華南地方を支配する闇商人・呉洛行は韓世凱に帰服した。
江南を掌握する阿弥陀教開祖・洪思明も韓世凱との提携を申し出た。
帝国南部は秣陵を除いて殆ど占領され、華北の反乱勢力との提携も模索していた。
「陛下、柏将軍が討死・鎮圧軍壊滅との報告が……」
「何じゃと!?」
「残る兵力は幾らじゃ!!!」
「禁軍兵力10万のみです」
「他は反乱軍に迎合するか、壊滅したかのどちらかです」
「帝国南部は全て反乱軍の手に落ちた、と……」
「どうすれば良いのじゃ……」
陛下はそのまま宮殿に引き籠ってしまった。
一方、秣陵では。
「我々阿弥陀教徒軍が遂に秣陵城を落としたぞ!!!」
秣陵は古き王国の都。今でいう所の南京に相当する。
こうして帝国南部を征服した反乱軍は、八関により防衛が固められた洛陽を避け、山東地方へと侵攻した。
山東地方。
「我々斉国は華帝国の正朔を奉ずる、則ち、反乱軍と戦う」
こう言い放ったのは斉王・趙興宗である。
これに対して燕・代・南方反乱軍といった反乱諸勢力の全てが斉に集った。
斉はそれらに対して焦土作戦を展開しつつ、臨淄城に籠城した。
反乱軍は臨淄城を幾重にも包囲し、8ヶ月に亘って包囲戦を繰り広げた。
しかし、堅城であった斉都臨淄は陥落しなかった。
次第に反乱軍の中でも厭戦感が出始めたのに対し、臨淄城内では士気が上がり続けた。
反乱軍は代国・燕国・呉軍(華南の闇商人)・韓軍(元々は華将軍)・洪軍(阿弥陀教徒軍)といった複数の部隊から編制されていた。
しかしながら華北の冬に江南や華南の兵は耐えられず、後の3つは撤退を余儀なくされた。
「南の叛徒が退いた今、北の叛徒が大戦功を挙げるのだ!!!」
こうして燕王が臨淄城へ大攻勢を仕掛けた。
「叛徒には油を、城壁には火を」
斉王が直々に城壁上で指揮を執る中、火攻めにより燕軍は大敗北を喫した。
代軍はこれを見て本国に帰還し、燕軍が心許ない兵力で包囲する陣を、斉軍は易々と破った。
こうして臨淄包囲戦は、華帝国側に付いた斉軍の勝利に終わった。
南北の反乱軍の合流という最悪の結果は免れたものの、南の反乱軍はほぼ健在。
彼等は北伐により自信と結束を深め、やがてこう宣言した。
「君側の奸を排さない華帝国に代わり、韓世凱を皇帝として周国を建国する」
更に洪軍(阿弥陀教軍)は楚国、呉軍(闇商人)は長沙国を周の冊封下に成立させた。
君側の奸として糾弾されたのは宰相の私。
往々にして中華では、君主を直接非難しない場合に婉曲的にこの口実が用いられる。
長安宮廷にて。
「君側の奸として言われている宰相殿を処刑すれば、反乱軍の大義名分はなくなります」
こう献言したのは宦官の魏進忠。
彼は張高の体制下で絶大な権力を振るうも、陛下のクーデターに協力したため処罰対象外となっていた悪徳宦官であった。
これには陛下も反論できず、私の処刑が決まりかけた。
中華風異世界で処刑されて人生を終えるとは。
「お待ち下さい」
こう言ったのは……雪子?
「私の居た『異なる世』にも呉楚七国の乱と呼ばれる反乱がありました」
「それが何だというのだ」
宦官・魏進忠が言い返す。
「その際、反乱事由に用いられていた者を処刑したのですが」
「だから何なのだ」
またしても魏進忠が口を挟む。クーデター時の貢献という大功故、誰も言い返せない。
「ちったぁ他人の話ばあ、黙って聞きなさいよ」
雪子が田舎言葉でキレる。
「分かった、今だけは黙ってやろう。感謝するんだな」
魏進忠はこう言った。
「処刑しても、結果は変わりませんでした」
「厳密には、中立諸侯の敵傾化阻止には役立ったのですが」
「陛下、現在中立の諸侯はおられますか?」
陛下を始め官僚団が納得する。
「処刑よりも宰相殿にこの国を立て直して頂く必要があるかと」
ナイス、我が妻・雪子。
アンタからも何か言いなさいよ、と目線が送られる。
「帝国が今相手にすべきは北の叛徒であります」
数の多い南の叛徒を相手にすべきとする官僚団は大いに驚いた。
「二正面作戦はこちらが圧倒的優勢にある時に行うもの、今、我々は優勢ですか?」
先に北を叩いて後顧の憂いを無くす事が最重要事項である。
この主張は概ね認められ、私は何とか処刑を免れた。
直後。長安宮廷にて。
「ねぇ雪子、どうして呉楚七国の例を出せたの?」
これが最大の疑問だった。
雪子は中国史なんて興味が無かった筈。
「それはね……」
「君が居なくなってから、色々と調べたのよ」
「そして?」
「実は私、自力で泰山の召喚を成し遂げたの」
は……?
驚いていると、更に彼女が一言。
「ここなら君とずっと一緒に居られるし、戻る必要なくない?」
Q. 面白いと思ったら……
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レビュー見た事ないので見てみたいですね。(強欲)