1. 泰山封禅
違う学校に進学した幼馴染と、偶然出会った。
私の、初恋の人。
今日を逃せば、二度と会えないかもしれない。
さあ、今度こそ。告白するんだ。
「あの……付き会っ……」
「ねぇ、足下のそれ、何?」
地面には星型の光が。
こんな事に邪魔されてきたから、告白できなかったんだ。
今度こそ。
「貴女のことが……」
その瞬間、視界が真っ白になった。
「……好きです」
「は?」
目の前に居るのは彼女……ではない。
告白相手を間違えた? そんな訳はない。
「わらわの旦那様♡」
旦那様? 周りには誰もいない。
「私?」
「そうじゃ」
目の前にいるのは彼女ではなくて、少女。
「わらわはその申し出、受け入れるぞよ」
待って、状況整理が追い付かない。
「ここは……どこ?」
建物に囲まれた、中庭のような場所。さっきまでは道路にいたのに。
「ここは泰山じゃよ」
泰山。中国山東省泰安市の名山、封禅の儀式が執り行われる事で知られる。
「その封禅なる儀式をしたら、お主が現れたのじゃよ」
推論が正しければ、ここは中国。それも歴史上の。
「つかぬ事でありますが、国姓をお教え頂けませんか?」
封禅の儀。これは功績と徳を兼ね備えた皇帝のみが行う資格のある儀式。
となると、目の前にいるのは皇帝である。
「国姓? 趙であるが」
趙姓の王朝で封禅を行った君主。これは1人しかいない。
北宋の真宗趙恒。
女性化しているのはさておき、北宋ならば都は東京開封府。
「都は、開封府でありますか?」
「察しが良いと思っていたが、そうでもないようじゃな」
違うだと……。違う訳がない。趙姓の統一王朝は北宋のみ。そんな訳が。
いや、秦か? 秦は嬴姓趙氏であるが。
「混乱するのも仕方ないかの」
「わらわは華帝国の第5代皇帝・趙梅丹であるぞ☆」
語尾の☆に年季を感じる。
というか、帝国なんていう語は日本由来だし、そもそも「華」なんて王朝、聞いた事がない。
「詳しくご説明頂けますか」
「やっと話を聞く気になったかの」
「私に話を聞く気がなかったと?」
「独り言をさっきから言っておったではないか」
どうやら、全て漏れ聞こえていたらしい。
「この世界は平たくいうと、異世界なのじゃ」
「は?」
「やっぱり。こうなると思ったのじゃ」
そんな落胆を見せられても困るんですけど。
「華の帝室は今、わらわしかおらぬのじゃよ」
「そこに、妙ちきりんな道士が現れた」
「その者が言うには、封禅の儀をすれば然るべき夫が見つかると」
「まさか、だから喚び出されたんですか?」
「その通りなのじゃ!☆」
「ちょっと帰してくれますか」
「は? またとない結婚相手じゃろ、世界に名だたる大帝国の皇帝じゃぞ」
「私には想い人がいますんで。じゃ、さっさと帰してもろて」
「絶対に嫌なのじゃーーーー!!!」
「嫌じゃねーだろこのクソ皇帝、こっちは告白する直前に喚び出されたっていうのに!」
「せめて、側室でもいいから……」
「皇帝が側室とか言ってんじゃねーよ、てかお前と結婚する気はさらさらないっ!!!」
「それほどまでに、その想い人が好きなのか?」
涙を浮かべて言ってきても無駄だぞ。泣き落としなんて遭うものか。
「実は……帰し方が分からぬのじゃ」
「ふざけた事言ってんじゃねーよ、一国の皇帝だろ、どうにかしろ!!!」
「皇帝にも無理な事はあるのじゃ……ごめんなのじゃ……」
これ、傍から見れば、まだ年端もいかぬ少女を苛めているように見えないか?
誰もいないのが幸いではあるが。
「という訳で、わらわと結婚せぬか?」
どういう訳だよ。どこからそう飛躍するんだよ。
「そもそもはわらわの夫として喚び出したのじゃよ」
「それに、皇帝の力を使えば、元に戻る方法も見つかるかもしれん」
そう言われると、理屈の上では納得してしまう。
でも、私には想い人がいる。
「想い人の事が忘れられんのか」
「そりゃそうですよ、12年間も好きだったんですから」
「それは……すまぬ事をしたな」
「ならば、幾らでもわらわが似た者を探してやろう」
「違うんです!!!!!」
「何が違うのじゃ?」
「あの人じゃなきゃ、駄目なんです」
「もう貴女の夫になってもいい、だからどうか、そんな事は……」
「遠く異郷の地でも、彼女を絶対に忘れたくはないと申すか」
「左様にございます」
「ならばその願い、皇帝として必ず叶えてやろう」
皇帝は威張って言うが、やっと皇帝らしい事を、と私は思った。
「やっととは何じゃ! やっととは」
「心をお読みに?」
「読まずとも分かるわ、そのくらい!!!」
「どーもどーも、不敬ですみませんねぇ」
「それ、外でやったらブチ殺すからの」
皇帝とは君臨する存在。外聞が悪ければ話にならない。
ここが閉鎖空間だから許される冗談なのだと、ひしひしと感じる。
「さて、山を下りるかの」
その時、中庭に星型の文様が現れた。
帰れるかもしれない。
駆け出して星文様を踏むと、そこには彼女が現れた。
「きゃっ」
「えっ」
……どうして?
目の前に、さっき言った想い人がいる。
「もしや、それがさっき言っておった想い人かの?」
「来ちゃった☆」
あの…皇帝陛下と同じ語尾を使わないで下さいな。
「わらわを差し置いた正室の顔、見てみたいものよ、どれどれ」
「ちょっと、正室って何よ、あの女の子と結婚したの?」
勝手に結婚した事になってる事じゃなくて、突っ込むのそっちなんですかね……。
えっと……。
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