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アータマイタ冒険譚

作者: カフカ・ラパン/Ⅽafc rapn

私は冒険家である。――――――

私は嘘はつかない。――――――

私は嘘をついたこともない。――――――


それを承知の上でこの本を読んでいただこう。


私はスェードン王国に生まれた。

あそこはひどいところであった。いくら祖国とはいえ、二度と帰りたくはない。

私は王国ではそれなりの家に生まれた。それでも他国、

特に帝国に比べればスラム街の人間とそう変わらない。

皆飢えにあえいでおり、王都にすら道端に死体が転がっているのだ。

それはまるで、道端の石のような存在なのだ。


スラムに行けばそこはコロシアムと見間違うほど殺伐としている。

スラムに行く際は必ず武器を携帯していくとよい。

帝国人の場合は鎧なども着こんでいくとよいだろう。

帝国人の場合、殺害しても罪には問われない。

それは帝国人が差別の対象だからだ。

とにかくスラムは危険なのだ。

死体はそこら中に転がっている。そこかしこで殺し合いが起こっている。

財布をすられるのはまだいいほうだ。

命までは取られていないのだから。


私はこんな国はもう嫌だった。

こんな日々が嫌だった私は、あの日、あるものを見つけた。

空が灰色で埋め尽くされ、王都が地獄のように貧困にあえいでいたある日。

私は、「世界の伝説記」という本を見つけた。

私はその本に魅了された。こんな国には存在しないような伝説の世界に入りたかった。

その本を買い、私は読んだ。1日中読みふけった。

そして見つけた。アータマイタ空中都市という名を。

私はアータマイタ空中都市について書かれているページを擦り切れるほど読んだ。

そこにはこう書かれていた。


――――――人々の夢である――――――


私は、夢という言葉に惹かれた。

この時に、私は25であった。この世界ではいわゆる青年と呼ばれる年である。

この時、私の魂は冒険家になった。

朝から晩までアータマイタ空中都市の事が頭から離れなかった。

そして、本を買って数日たった後、私は家族の前から姿を消した。

わずか2万ベルグの金とともに私は旅に出たのだ。

私は帝国との国境に急いだ。私の目的は、そう、

――――――帝国への亡命である。――――――


帝国は裕福で、スェードン王国とは比べ物にならないほどの充実した生活が送れる。

私は国境に走った。その道中でも死体が転がっていた。

死体がそのまま転がっていることもあれば、

血痕だけが残っていることもあった。

服すらもはぎ取られていたこともあった。


私は、道端で気になる死体を見つけた。

腹が切り裂かれていたのだ。

私もはじめは、よくある刺殺された死体かと思った

しかし普通の死体とは違うのだ。

血痕が点々と続いているのだ。

そこで私は死体に近づいてみた。

その死体を詳しく見たとき、私は驚いた。

なんとその死体は、内臓すら奪われていたのだ。

ほかにもその死体は歯がなかった。

目もなかった。舌すらなかったのだ。

いくらスェードン王国とはいえ、こんな死体を見たのは後にも先にもこれ一回だけである。


そんなこんなの道中を越え、私は国境へ着いた。

そこで見たのだ。


――――――地獄を――――――


スェードン王国の中心部ではまだましだった。

いくら死体が多かったとはいえ腐るまでには埋葬されていたのだ。

だがここでは違う。死体は放置されていた。

腐っても放置だ。それどころか腐った死体を盾にしてデモ隊が軍隊と戦闘を繰り広げていた。

そのためデモ隊、軍隊双方で感染症患者が続出していた。

私は左手がない。それはここ国境部で地獄へ巻き込まれたのだ。

私は国境部へ足を踏み入れた瞬間、2度爆音が鳴り響いた。

その後、私の左手へ2度の衝撃が来た。

私は一体何があったのかと思って左手を目前へ持ってきた。

持ってきたはずなのだ。しかし、無いのだ。


――――――私の左手が、無いのだ。――――――


それを認識した直後、私の左腕に激痛が走った。

この世のものとは思えない激痛だった。

奴らはそれでも戦闘を続けた。

もう一度言う。此処は地獄だ。

こんな地獄がこの世にあるとは思わなかった。

私は走った。必死で走った。

この騒動に乗じて軍隊の検問も潜り抜けた。

そうして私は帝国へ亡命した。


帝国は王国に比べれば天国だった。

王国とは違って町中に死体はなかった。

飯はあった。働けば少なくはない金がもらえた。

私は少ない仕事をどうにかしてもらえた。

必死で働いた。アータマイタ空中都市は、空中都市と言うだけあって、

空中にあるようだ。空に行くには飛行機しかあるまい。


アータマイタ空中都市は伝説上のものと言われている。

そんなところに路線のある空港は存在しない。

ならば自分で飛行機を買うしかない。そう思った私は10年必死で働いた。

そうして働いてどうにか5千万ベルグ稼ぐことができた。

これならどうにか飛行機は買える。私は飛行機を買った。

燃料が満タンで、そこそこ新しめの飛行機である。

これを使って私は休日に空中都市を目指した。


アータマイタ空中都市は非常に高いところにあるらしく、帝都上空約30㎞のところにあるらしい。

私は軽食のサンドイッチを2つほど持って空中都市に向かって飛び続けた。

ひたすらに飛び続けた。空腹を忘れて飛び続けた。

そうして飛び続ける中、とあるものを見つけた。

それは、島のようなものだった。

私は直感で、あれが空中都市だと思った。

そうして私は空中都市へ着陸した。

そこで私が見たものは、スェードン王国とは違う、いわゆる、


――――――天国、桃源郷であった。――――――


家々はプラチナで出来ており、宮殿は世界中の富を集めたとしても

建築できないような豪華な宝石をちりばめており、

川はワインが流れており、多くの宝石を埋め込んだ金の盃を手に取れば、

望んだ液体が湧き出てくる。

私が付いたのは夜だったのだがとても夜とは思えないほど明るく、非常に驚いた。


私はここで数日滞在させてもらった。ここにはホテルはないようで、民家に泊めてもらった。

さらに、多くの知識を教えてもらった。

例えば、ここでは空中都市の外から来たものを外圏人と呼ぶらしい。

このような人たちは非常に珍しいようで、一般人は我々外圏人を軽蔑しているらしい。

外圏人は殺害されることも少なくないらしく、最近あった手足が降ってくる事件は、

どうやら空中都市の人間が死体を捨てていたようだ。


私が最も驚いたのはこの民家での出来事だ。なんと住民がテーブルに手を触れると、

テーブルから食事が出てきたのだ。

私は驚いて住民にこう聞いた。

「この都市では食事がテーブルから出てくるんですか?」

住民はこう答えた。

「…貴方の都市では出てこないのですか?」

どうやら出てくるのが当然のようだ。こんな都市があったとは。私は驚いた。

出てきた食事をいただいたが、非常に美味だった。


肉の煮込みは口に入れた瞬間ホロホロと崩れ、噛むと肉汁があふれ出した。

スープを飲むと、野菜の優しい甘みと、魚介のさっぱりとしたコクのあるうまみが感じられた。

サラダはシャキシャキとして、ドレッシングのゴマの香ばしさと、

酢のさっぱりとした風味が非常にうまかった。


自然保護区という場所もあるらしく、連れて行ってもらった。

そこは青々と茂った木々の隙間から、太陽の光が差し込んでおり、

非常に美しい光景であった。


そこに落ちていたリンゴを眺めてみた。

非常に真っ赤で、そこに茶色いおがくずが水玉のようについており、

周囲に甘く、すっぱい空気が漂っていた。

虫食いなどもなく、色艶の美しい、旨そうなリンゴであった。

こっそりと拾って、あとで食してみた。

噛んだ瞬間、果汁があふれ出し、素晴らしい風味であった。

さわやかな甘みと酸味。みずみずしい果汁が非常に美味で、

これをジャムにすれば非常に人気であろう。

噛んだところを見れば、蜜がぎっしりと詰まっていて、

ジャムにするとき、砂糖を入れずとも甘くなるだろう。


私はこれをサラダにかけてみた。

レタスのシャキシャキとしたみずみずしさ、

トマトの酸味の中に隠れている甘み、

チーズのなめらかで、コクがあり、クリーミーで癖のない味。

その中にリンゴを刻んで入れたのだ。

そうすると、チーズを主軸になっていた味ががらりと変わり、

リンゴの甘酸っぱさを主軸としたサラダになった。


これほど衣食住が充実しているのが空中都市である。

だが、やはり外圏人は疎まれているようで、軽蔑の目で見られるのに、

私は耐えることが出来なかったのだ。

私は天国から地獄へと、自ら落ちることにした。

その後の生活は非常につらいものだった。

スェードン王国に比べれば、まだましであったが、

人は一度上を知ってしまうと、もう耐えられないのだ。

私は空中都市に住みたい。私の望みは、空中都市で平穏に暮らすことだ。


題「アータマイタ冒険譚」

著:カフカ・ラパン/Ⅽafc rapn

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