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勢いだけで書いたので、あまり深く考えず読んでいただけたら嬉しいです。


:補足:

誤字脱字報告にて、父親と母の職業というか、生活の説明について指摘を頂いたので補足です。

父親の、冒険という名の会社に出かけ・・・・

母親の、戦いの傷という名の仕事疲れの父を癒し・・・・

といった部分が、逆ではないかと指摘を頂いたのですが、父親と母親から見たというか、日頃の言動から、こうなりました。

つまり、父親が「俺、今日も冒険に行ってくる!」と言って、会社に行く感じです。

分かりにくくて申し訳ありませんが、そんな感じで、ふわぁっと感じてもらえれば嬉しいです。

それでも変だと思われた方・・・目を細め、脳内変換をしてお楽しみ下さい。


これから読まれる方が、『ん?』ってならない様に前書きに補足を書かせていただきました。

読む前から、面倒で申し訳ないです。




私の両親は、世に言うイタイ人だった。


父の口癖は、『俺の前世は、異世界の勇者なんだぞ。』だった。

父の前世が本当に勇者だったのか、単なる妄想癖のある人だったのかは分からない。

けれど、現代の父は、冒険という名の会社に出かけ、モンスター討伐という名の仕事をこなし、ドロップという名の給料を貰ってくる。

極々普通のサラリーマンだった。


そして、母の口癖は、『私の前世は、王女で聖女だったのよ。』だった。

母の前世が本当に王女で聖女だったのか、単なる妄想癖のある人だったのかは分からない。

けれど、現代の母は、戦いの傷という名の仕事疲れの父を癒し、国という名の家庭をまとめ、社交界と言う名の井戸端会議へと出かける。

極々普通の専業主婦だった。


つまり、すっごい普通の家庭でした。父と母の言動が少しアレなだけで、極々普通の家庭でした。

外ではその辺を上手く隠していた様なので、父と母は、そういう人達なのだと割り切っていました。


そして、そんな二人の間に産まれた私。

千条(せんじょう) 聖女(せいじょ)・・・・

何でしょうね、千条は苗字なので仕方がないにしても、聖女って何でしょうね。

母曰く、『苗字が聖女って言葉に似てるでしょ?だから、聖女感を前面に押し出した名前にしたの。』

父曰く、『母さんが元聖女で、お前も聖女だからな。聖女感を前面に押し出せる名前にしたんだ。』


・・・・・


前面に押し出すも何も、そのまんまなんですが。

全力で聖女って名前なんですけど、せめて少しくらい変えてほしかった。

静嬢とか、晴女とか・・・なんならもう洗浄とかで良いんで、千条聖女ってなんなんですか!


と、思ったところで、その事に気付いたのは、産まれて何年も経った頃。今更どうにもなりません。

産まれた瞬間に喋る事が出来たなら、泣いて叫んで、その名前だけはやめて下さいと言えたのに。


私は、その名前のおかげで、小学生の頃は散々からかわれ、中学生になると名前負けだと笑われ、高校生になると、両親の人格を疑われた。それでも、私は両親を愛していたし、失う事など考えた事などなかった。


しかし両親は、私が異世界へ行く前に、自分達が異世界という名の天国へと旅立ってしまった。

交通事故で、あっさりと・・・




そして、現在の私・・・・



「聖女の名を騙った詐欺師め、絞首刑にしてやる。」


王冠を被った、でっぷりとしたオッサンに怒鳴られています。

謁見の間と呼ばれる場所の一番高い場所から、私を見下ろすオッサン。

更に、私から5メートル程離れた場所から、私を見ている偉そうな顔をしたオッサンと、意地の悪そうなオッサンと、でっぷりしたオッサンと・・・オッサンばっかりに囲まれています。

この世界にも女性はいるのですが、この場に居るのは大勢のオッサンばかりです。


「あの・・・私、最初から聖女じゃないって言ってましたよね?」 


「ええい、嘘を言うな聖女だと名乗っただろう。」


面倒くさい。

面倒くさいけれど、このままだと本当に絞首刑にされる。

だって、ここは私の産まれた世界ではないのだから・・・


それは、私の両親が旅立ってから1年ほど経った頃の事でした。

両親を亡くし、天涯孤独となった私は、日々改名をしようと奮闘していました。

別に、両親が旅立った事で、これ幸いと思ったわけではありませんよ。名付けのセンスは皆無でしたが、それ以外は、良い両親でしたから。だから、追悼の意を込めて、1年間は聖女の名のままでした。

1年間です。短いと思われるかもしれませんが、17年間頑張ったんです。そこから更に1年頑張ったんです。もう良いですよね?

私は、亡き両親の写真に手を合わせ、全力で『もう無理!ごめんなさい!』と叫びました。

全力で叫んだおかげで、翌日赤い目をしたお隣のおばさんに、『辛い時はいつでも言ってちょうだい。私で良ければ、力になるから。』と言われてしまいましたが、私の心は晴れやかでした。


そうして私は、新しい自分の名前を考え、家庭裁判所へと書類を出し、改名後に必要な手続きを確認しながら、待ち始めて1ヶ月・・・・待ちに待った家庭裁判所からの通知が届きました。

千条聖女様の文字が書かれている真っ白な封筒。その封筒の中身をそっと取り出し、ドキドキしながら見ようとした瞬間・・・されましたよ、異世界転移。

神様・・・私で遊んで楽しいですか?

せめて、改名の申請が通ったかどうかだけでも知りたかった!!


そして、そんな状態の私が、機嫌が良いわけもありません。

気付くと、彫りの深い顔立ちをした、知らないおっさん達に囲まれていた私は・・・・

真っ先に目に入った、一番でっぷりしていて、一番偉そうで、キラキラした服を着たおっさんに狙いを定め。

『なにやらかしてくれとんじゃあああぁぁぁぁ』

と、怒鳴っていました。

・・・いや、仕方がないですって、私にとってあの通知は、人生が変わるかもしれない大事な手紙だったんですから。そりゃあ『なめてんじゃねえぞごらぁぁぁ』とか『元の場所に戻せやごらあああぁぁぁ』と、怒鳴りたくもなりますって。

あ、ちなみにこの時は、異世界に転移させられたって知りませんでしたよ。

てっきり、麻酔銃で撃たれて、気を失って、変な宗教のおっさん達に囲まれたと思っていました。


ともかく、暴れて怒鳴る私を、おっさん達はなんとか宥め・・・宥め・・・宥め・・・

この世界が異世界である事、私が聖女して召喚された事を説明されました。

それと同時に私も、私が聖女という名前の只の一般人である事も説明しました。それはもう、何度も何度もしっかりと・・・それなのにオッサン達は、信じていなかったようで・・・


その結果、召喚されてから1年経った現在、オッサンに絞首刑にされそうになっています。



「だから、聖女って名前の一般人だって散々言ったでしょう。勝手にこの世界に呼んでおいて、違うって言ってるのに、勝手に聖女に祭り上げて、何の力も無いと分かると、騙しただの詐欺師だの言って、絞首刑にするって、理不尽すぎませんか?」


「何を言うか、お前は聖女の名を騙り、城では贅沢三昧をし、城下町では人々に嘘を吹き込んだ悪女ではないか。」


ちなみに、この王様は、私がこの世界に来て最初に怒鳴った相手です。

でっぷり、偉そう、キラキラ服のおっさんです。


私は多分、頭に血が上りやすい人なのだと思います。

加えて、どうせ絞首刑、つまり死の宣告をされたのですから、今までの鬱憤を全て出させてもらいましょう。

けっして1年前、家庭裁判所からの通知を見られなかった事、()()()恨んでいるわけではありませんよ。

()()()


「はぁ?贅沢三昧って何の事ですか? 私、自分の服なんて4枚しか無くて、毎日自分で洗って着回ししてるのに、それが贅沢三昧だとでも言うのですか?それとも、毎日硬いパンとうっすいスープの食事が贅沢三昧だとでも?ああ、それともお城の敷地に住んだ事が贅沢三昧とでも?でも、雨漏りするし風通しも良すぎる部屋・・というか、掘っ建て小屋なのですが。てっきり、力が発現しない私への嫌がらせかと思っていたら、これが、この世界の贅沢三昧ですか?なんなら代わってほしいのですが!それに、私が嘘を吹き込んだと言いますが、聖女として召喚されたのにも関わらず、聖女の資格なしとされ、お披露目もされず、みすぼらしい服を着た女の言葉を、何処の誰が真剣に聞くと?」


はいはーい。

名前負けの私は、最初の数日間は聖女として扱われ、大切に大切に、転けたら死ぬくらいの勢いで大切にされましたよ。ですが、この国の神殿で行われた、聖女の審査式と呼ばれる儀式により、見事一般人と証明された私は、そこからの凄まじい落差を味わわせられました!!

本当に、目玉が飛び出るかと思いましたよ。王都から神殿に来た時には、キラキラの豪華な馬車だったのに、帰りは置いて行かれました。哀れんだ教会の人が馬車を出してくれましたが、それが今にも壊れそうな馬車・・・ではなく、ロバが引く荷馬車。ええ、教会にとっても要らない者となった私は、善意で馬車に乗せられた訳ではなく、単に教会に置いておかれるのも邪魔だから、適当に馬車に押し込めて、返してしまおうって事だったのだと思います。

そこから何とかお城に戻れば、『何で帰って来たの?』って目で見られ、部屋から追い出され、城の端の高い木に囲まれ、周りから全く見えない場所に建てられた、掘っ建て小屋へ押し込まれました。

この世界の事を何も知らない私は、彼等に従うしかありません。

聖女が呼ばれた理由も知りませんでしたから、もしかしたら外の世界が恐ろしい場所の可能性もありますし、なにより現金を持っていない。持っていたとしても価値が分からない。ドレスだけ豪華な世間知らずなんて、どんな目に合うか・・・

と、いうわけで、大人しく掘っ建て小屋で暮らしました。

その間の扱いは、先程おっさんに向かって嫌味ったらしく言った通りですよ。


「うっ、嘘を言うな。お前用の予算は毎月きっちり全額使われているんだぞ。」


「私が知るわけないでしょう。」


ああ・・・ダメだこのおっさん。

自分の部下の行動を全く把握してないとか、駄目でしょう。

そもそも、予算が毎月きっちり使われてるって、裏を返せば、予算内で済ませているって事ですよね?

私は、殆ど使ってないと思うけど、全部使ったとしても、贅沢三昧とは言えないと思うんですが。


「騙されんぞ。ならば、城下町で広がっている噂は何だと言うんだ。」


そんなの知りませんよ。


「何の事を言っているのか分かりません。」


「私の事を、操り人形の様な王だとか、豚に宝石を飾った方がましだとか、色狂いで目が合った女性を攫って行くとか。」


ん?

それ、全部事実ですよね?

完全に操られてますよね?私に充てられるべき予算を横流しされても、気付かないくらいだし。


それから、豚に宝石を飾った方がまし。でしたっけ?

それは普段、首に着けているネックレスが、首に食い込んでて殆ど見えないからですよ。着けている意味がないから、それならいっそ豚にでも着けてしまえって言われてるんです。


それから、色狂いで目が合った女性を攫っていくのは、完全に事実ですよね。

先日、街で見つけた女性に一目惚れし、連れ去ろうとして、全力で逃げられてましたよね?しかも、その人既婚者で、いくら王様でも既婚者は駄目だろうって、抗議の声が上がってましたよね。


「私は知りません。そもそも、お城の敷地内から出ていない私が、どうやってそんな噂を流すんですか?」


なんたって、警備が厳重なお城ですから、抜け出すなんて出来ませんよねぇ。

そんな事が出来たら、このお城の警備は穴だらけって事になりますからね。そんなわけないですよね?

って、気持ちを込めて言ったはずなんですが・・・


「こっそり抜け出して、広めたんだろう。」


ああ、私の言葉の意図は、全く理解されなかった様ですよ。

流石!王と書いて操り人形と読んでしまいたくなる、おっさんです。

あぁあぁ、城の警備の指揮をしている近衛騎士団の団長が、ピクピクと引き攣った表情をしていますね。

まあ、賊が城に侵入したら彼の責任になりますし、王自ら『この城は、何の訓練もしていない女性が出入り出来るくらい、警備がゆっるゆるなんだよ。』って言っている様なものですからね。


ま、私には、関係ないですけど。


「仮に私が抜け出したとしても、こんな身なりの者がそんな話をして、誰が信じると?」


「信じるか信じないかの問題ではない! 信じた者がいるから、噂になっているのだろう。」


「それでは、噂の出所が私だったと、きっちり調査したんですよね?」


「そんなものしなくても、我が国民がそんな事を言うはずがない。となると、お前以外いないだろう。」


なにそれ、なんなのその言い分。

ふざけんなぁぁぁぁ


「そもそも噂じゃなくて、全部事実でしょう。」


・・・


あ、言っちゃった。

イラッとして言っちゃった。

でも、誰も何も言わない。言われた王様は顔を真っ赤にして、プルプル震えているんだけど、側近の方々は、一瞬顎を上げ、そのまま頷きそうになって、慌てて視線を逸らしている。

いやいや、さっさとフォローしてあげなよ、そこの赤豚、今にも泡吹きそうになってるわよ。


「こっ・・・この・・・この・・・この無礼者おおおおぉぉぉぉぉ!!!絞首刑など、ナマムルイ今すぐジャンジャケイだああああぁぁぁぁ。」


大事な所で噛んだあああぁぁぁぁ!!!

ナマムルイ・・・ジャンジャケイ・・・ププププププ

笑っている場合ではない。私は今、多分プププッ斬首刑を言い渡されたのだから、ここは神妙に・・・


「ブフッ」


今、笑ったの誰よ!こっちは必死に我慢してるのに。


「クッ・・・フフフ・・・。」


ほらほら、釣られて他の人も我慢出来なくなって来たでしょうが。


「ダハアハハハハハハハハハハハ。」


あぁあぁ、全力で笑ってる人がいるよ。

誤魔化す気なんて微塵もない、大笑いですね。

あれ? でも・・・




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