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第14話 ビリーの後釜

「ビリーも焼きが回ったとか思ってるんじゃない?」

「うおっ。なんだ? お前」

 木の枝に座っていた男の子の横に座って話しかけると、ビクッとなって訊いてきた。

 とても貴族の奥方が使う言葉じゃ無いけど、すまし顔で話しても仕方がないと思うのよね。

 

 余所行(よそゆ)きのドレスで木登りをしたのはさすがに初めてだけど、何とかなるものよねぇ。

 でも、良かったわ。2人位座ってもビクともしないような立派な枝ぶりだもの。

「マリーよ。つい最近、マクファーレンになったのだけど、マリーで良いわ。あなたは?」

「……ドム」

 私の問いかけに、しぶしぶという感じでも答えてくれる。

「ドム。ドムね。覚えたわ」

「お前……マリー。変わってんな。木登りする貴族令嬢なんて聞いたことが無い」

 目線は、建物を向いているけど。

「あら、今は奥方よ。貴族を知っているの?」

「あ~。ろくでもない奴らだって事はな。ここの領主に散々な目に遭わされて、殺された奴も多かったから……」

「ふ~ん」

 トム・エフィンジャーの事? それともその前の領地を没収された貴族?


「せっかく、領主がいなくなったと思ったのによ」

 ああ、後者の方ね。

 トム・エフィンジャーは、ここに潜伏していた事を殆どの領民が知らないはずだから。

「それは、悪かったわね。だけど、マクファーレン辺境伯はちゃんと領地を治めてくれるわよ」

「どうだか」

 ケッて感じで言われた。

 まぁ、そうか。まだ、領主になってから1年経つか経たないかだものね。

「そうねぇ。分からないわよね。確かに」

 今ここで、エドは大丈夫だと言っても信じてもらえないだろうし。

 私たちもいつでも領民にとって、良い領主でいられるかどうかも分からない。

 王室に忠誠を誓って領地を賜っている以上、悲しいけれどもそれが現実だわ。


「ねぇ、ドム。子どもたち止めてくれないかな」

「はぁ? 何で」

「だって、今のストリートキッズのボスってドムだよね。私たちはともかく、ビリーが困っているのを見過ごすの?」

「あいつは裏切り者だ。あれだけ毛嫌いしていた貴族に取り入りやがって」

 その言葉を聞いた途端、私は思わず、ドムの頬を引っ叩いてしまった。

 だって、ひどい。何の為に、ビリーが……。

「この前、ビリーがこっちまで逃げてきたのは、あんた達を総元締めから庇っての事じゃないの?」

「なんで、それを……って、あんた、あの騒ぎの時にいた女か」

 叩かれた頬に手を当てながら、ドムが言う。

 あれだけ騎士団やエド。王妃様のお守りの魔法まで発動させたのだもの。

 港町とは言わず、あの騒ぎを知らない者は領地内にいない。

 

 ただ、トム・エフィンジャーどころか、総元締めが関わっていることを知っているのは、逮捕された元締めと、取り押さえた私たち、そして、それにかかわっていたストリートキッズでも年長者のみだものね。


「ビリーはね。あなた達が二度と犯罪を犯さなくても生きていけるように、私たちに跪いたの。ストリートキッズのみんなが牢屋ではなく孤児院に保護されているのは、そういう事なのよ」

 ドムが驚いた顔をして私を見ている。

「だからね。私たちはともかく。ビリーを困らせないで」

 私の言葉を聞いて、チッと舌打ちはしたけど、枝から飛び降りて建物に入って行く。

 そのドムを、私は追いかけるようにして建物に入った。


「ちゃんと並べ。ビリーを困らせるな」

 ドムが大声で叫ぶと、子ども達の動きが止まった。

 私はエドの横に並び

「ありがとう。ドム」

 にこやかにそうお礼を言う。

 それに応えるようにフンと鼻を鳴らし、自分も子供たちと一緒に整列した。


「大変失礼を致しました。領主様。奥様。ようこそお越しくださいました」

 ビリーは、何事も無かったかのように礼を執り挨拶をしている。

「いや。楽しかったよ。子どもたちが元気なのは良いことだ」

 エドは、少し笑いながら答えていた。

「この場を収めたのも、マリーだし。これからも困った事があったら、マリーに相談するが良い」

 そう言うエドにビリーは何とも言えない顔をした。

「かしこまりました。奥様、先ほどはありがとうございました」

「あら、わたくしは何もしてないわよ」

 ビリーからお礼を言われたけど、私はシレッと何もしてないふりをした。

 そう……、私はエドの奥方だもの。ええ。木登りなんてするはずも無いわ。

 ケイシーとビリーからの視線が痛いわ。

 なんだろう? 感謝されてるハズなのに、非難の目を浴びてるようだわ。

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