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第8話 領地でのお魚釣り

「きゃっ。すごい! 大きな魚。これ、食べられますの?」

 大きいと言っても川魚だから、手軽に食べれるサイズなのだけど。

 私は、先ほどからツンツンって手ごたえはあるのに、全く釣れてないから。

「ニジマス……だな。ってこんなものまで、放流しているのか?」

 自分の釣った魚を見て、エドが呆れているわ。

 なんで?

「なんで、呆れてますの?」

 確かに名前が付いている魚自体が高級なのだけど……。

 

 昨日、やっとたどり着いたレナルド様の領地内に流れる少し大きな川で、エドと私は釣りをしていた。

 ここは、貸衣装屋さんがあるのよね。

 当たり前だけど、川遊びや釣りなんかを普段着ているドレスで出来るわけがない。

 だから、貴族でもだれでも、ラフな格好で遊べるようにしているのだとか。

 遊び終わったら、濡れても汚れてもそのまま返却できるからみんな利用しているみたい。

 他の観光客の方々も、私たちと同じような格好をしているから。


「観光客向けに、魚をある程度、放流しているんだよ。あそこにある露天に持って行ったら、食べれるようにして焼いてくれる。有料でだけど」

「まぁ。でも、流れている川なのだから、逃げません? お魚」

「両端に、網が張ってあって逃げれないようにしているからな」

 なるほど、考えてますのね。

 って、なんだか、エドがげんなりしているわ。


「あの。逃がしても……」

 私はエドが、釣ったものを買ってまで……と思っているのかと思い。そう提案してみる。

 エドがチラッと私の方を見た。

「いや。焼いてもらおう。食べてみたいだろう? マリー」

「ええ。それは、もう。うちの領地のお魚も美味しかったけど。川のお魚もとても美味しいんでしょうね」

 多分、今の私は最高の笑顔をしていると思う。


 だって、お屋敷で食べるお魚より、数倍も美味しかったんですもの。

 露店で、塩を振って焼いただけのお魚。

 ああ。ごめんなさい。料理長のお魚料理がまずいっていう訳じゃ無いのよ。

 凝った味付けのお魚も、それはそれで美味しいものだけど……。


「じゃあ。もう少し釣るか。一匹だけというのも何だしな」

 そう言って、エサを付けてまた川の中に糸を垂らす。

「それにしても、すごいですわ。わたくしなんて、全然釣れないのに」

「マリーは、もう少しのんびりと魚を待った方が良い」

 へ? 私ってせっかちなのかしら。

 でも、同じくらいエドと川に糸を垂らしているのに……。

「魚がちゃんとエサに、喰いついてから竿をあげるんだよ」

 エドがこちらを見て、笑ってそう言った。


 ……なんだか、エドが格好良く見える。

 いえ、怖いとか何とか、ご令嬢たちに言われていた頃から、素敵だと思っていたけど。

 なんだろう。こんなに穏やかに過ごしていると……。


「あっ、マリー。引いてる。引いてる。竿を」

「え? あっ。ええ~、どうすれば」

 やだ、結構ぐんぐん引いている。上がらない。

 私が焦っていると、エドが後ろから一緒に竿を持って引き上げてくれた。


 釣れたのは、エドが釣ったのと同じくらいのニジマス。

「おお。これで二人分釣れたな。マリー、やれば出来るじゃないか」

 ぐりぐりと頭を撫でてくれている。

 エドに褒められて私は嬉しくなっていた。

「だけど、魚って力強いのですねぇ。エドが釣り上げた時は軽々とって感じでしたのに」

 やっぱり。男の人って、力が強いのねぇ。 


 露店に持っていて、串刺しにして焼いてもらったお魚は、やっぱりお屋敷で食べるお魚より美味しく感じた。

 不思議よね。

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