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第24話 ストリートキッドのビリーとわたくし

 私の家名を使った命令のほかに、エド様が改めて騎士団やジュートたちに他言無用の命令を出していた。

 実際、このことが漏れてしまったら。確実にウィンゲート公爵家は制裁を加えるだろうし、もしかしたら王室からの制裁も来るかもしれない。内乱を起こすきっかけを与えた者として。

 それくらい重大な国家的な秘密だ。


 そして、その事はエド様も知っていた。

 戦場とは言え、王妃の元で何年も仕えてきた彼もまた、『トム・エフィンジャー』の名と実情を知っているのかも知れない。


 私たちは、エド様の執務室に戻っていた。

 先程見ていた、帳簿がテーブルの上に散乱している。それを片付けて、今度は人払いをした。

 私たちは、ソファーに座りなおした。

「マリーは、『トム・エフィンジャー』を知っているのだな」

「ええ。代々同じ名前を名乗っている悪党の総元締めで、国家的犯罪者として、指名手配されているということくらいですが」

 私の答えにエド様は、頭を抱えて溜息を吐く。

「そうだな。捨て置かれたと言っても、マリーはウィンゲート公爵家の人間だったのだな」

 知らないはずはないか……と、ブツブツ言っている。

 なんだか嫌な気がする、今までウィンゲート公爵家は散々私を失敗作扱いして放っていたのに、家名が私の肩にのしかかってきてるようで。

 だって、緊急事態とは言え、私も先程自分で家名を使っての命令をしていた。


「マリー?」

 気付いたら、エド様が前に来て座って私を覗き込んでいた。

「エ……エド様。どうかソファーに……」

 そうだな……と言って、私のすぐ横に座った。

「さっきはありがとう。命令を出してくれて……あれで俺も冷静になった」

「そんな……わたくし、エド様まで跪かせてしまって……」

 気が付いたら、エド様に肩を抱かれていた。その手が頭にまわされエド様の方に倒れ掛かるようにされている。

「大丈夫だからな。領地を戦場になんかさせないさ」

 エド様は、私に、と言うよりは、自分に言い聞かせるように言っていた。




 ビリーはもう逃げだそうとしていない。怪我の完治を目指すのと、現実が見えてそんな気が無くなったのかしら。

 使用人の服を着て部屋に詰めている騎士団の人たちも、彼の監視と言うより、護衛で詰めているという感じだった。

「どう? 少しは元気になった?」

 私は、ビリーにご飯を運んでいる。この前この部屋にいたのは、ビリー以外みんな守秘義務のある立場の貴族だった。


 この部屋に、普通の侍女を近づける訳にはいかない。入れるのは、元々私の侍女で『トム・エフィンジャー』の事を知っているケイシーとリンド夫人くらいだけど、他の侍女を入れてない手前、入れるわけにはいかなかった。


「ああ。ありがとう」

 ビリーは大人しく、食事をとっている。

 あれから、半月以上たっていて、もう一番深い傷も癒えてしまっていた。

「だけど、お前……いや、お嬢はよくトム・エフィンジャーを知ってたな」

 こっちも見ずにビリーは話しかけてきた。

「だてにね、捨て置かれたわけじゃ無いのよ。田舎と言っても、実家の領地はここより遙かに王都に近いしね」

「捨て置かれたって……お嬢。飢えた事なんて無いだろ」

 ふと、ビリーを見たら私を睨み付けていた。


「カビた一欠片のパンのために、乱闘したり、腹が減って腐った魚食べて死んだ子どももいるんだぜ」

「……そうね、悪かったわ。でも貴族の子どもだっていつそんな立場になるか、分からないのよ。たまたま、わたくしはお父様にとって利用価値があっただけだわ」

 ビリーはもう、私を睨み付けていない。


「ここへは、エド様への報奨品として来たの。わたくしは、運が良いだけ。本当はどんな扱いでも、文句は言えないのに、婚約者として奥様として、扱って貰えてるわ。だからね。ちゃんと認めて貰わないといけないの。優しい人を、失望させないように」

 私は、つい皆に言えない本音を言ってしまった。

 貴族じゃ無い、裏の世界を知っているビリーにだから言えたのかも知れないけれど。

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