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第25話 サマンサの事情

 ふと見ると、テーブルの端に子ども達の服と、今まで使ってましたという感じの裁縫道具が置いてあった。

「仕事をしながらで、かまわないわよ。お茶もいらないから」

 私がそう言うと、奥に入ろうとしていたサマンサがテーブルに着いて繕い物の続きを始めた。

「子ども達の、行き先はもう決まっているのかしら」

 私もテーブルの椅子に座って訊く。

「はい。だいたいは、元の場所へ戻る事が決まっています。親が所有していた場所に帰る子ども達は、今まで通りしばらくは補佐が付くので難なくやっていけるでしょう。あと……」

「あと?」

 私はサマンサの語尾を引き取って後を促した。


「5人のうちの2人は、王都の学園を受験する為に旦那様の騎士団の訓練に参加させて頂いています」

 下を向いて繕い物をしているので、表情は分からないけど、その口調から何だか不満があるようだわね。

「そうなの。港側からも来週から訓練に参加するから、その子どもたちに、よろしく言ってくれるかしら」

「…………かしこまりました」

 少し間が空いて、サマンサが返事をした。何だかなぁ~、嫌われているのは分かるけど。

「何か心配事でもあるのかしら?」

「ええ、まぁ。訓練とは言えケガをして帰らないとも限りませんから」

 この間の様に、私を無視することは無いけど、淡々と話している気がする。

「騎士団の訓練と言っても、子ども用に指導者も付いているでしょう? えっとボブ騎士様が」

 ボブの名前を出した途端、サマンサはバッと顔を上げた。


「ええ。ええ、そうですわ。戦場で敵兵を斬るのをためらって、足に重傷を負って戻って来たボブですわ」

 おっと、そうだったの。って言うか、なんなの?

「普通に歩いているように見えたけど」

「ええ。日常生活は出来ます。だけどもう、戦場に出て武勲は立てられない。子どもの指導をすると言う条件で、お情けで騎士団においてもらっているだけの」

 そこで、サマンサは一旦言葉を区切り

「ただの厄介者です」

 最後の言葉はなるべく感情を出さずに言う感じたった。


 戦争での負傷で戦場に出られなくなったら、除隊するのが一般的だ。 

 厄介者として騎士爵にしがみ付くより、退職金を貰って平民に戻った方がボブは幸せだと思う。

 普通ならまだしも、負傷しての除隊だったら一生遊んで、とまではいかなくても、普通に暮らせるだけの額の退職金が貰えるはずだから。


 う~ん。さっきのサマンサの変な憤りと言い、その後の感情の殺し方と言い。何か、見えてきた気がする。

 するけど、憶測と言うか、私の妄想と言うか……。


「……そ、それで子ども達の進路は決まっているとして、サマンサはどうするの? ここが閉鎖されたら」

 エドから聞いた特殊事情はこの際無視する。

「それは、ご領主様のご意向通りに致します」

「……そう」

 港側ばかり行っているから変な噂が立つんだわと思って、こちらにも来て見れば……。


 何だか変な話になっちゃったわね。だけど

「あなたはそれで良いの?」

 良いも悪いも、彼女の意志は関係無い。そんな事は、分かっているけど思わず訊いてしまった。

 その問いに答える事も無く、サマンサは、微妙な顔をして私を見ていた。

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