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第1話 オープニングは、かろやかに

 初めて見たわ。

 こんなに不機嫌そうに怖いお顔でダンスを踊る男性(ひと)

 なんて大きいのかしら、高いヒールの靴を履いていても、私の頭がこの男性(ひと)の顎の辺りだわ。

 胴も腕も何が詰まってるのかしらってくらい……私の倍以上あるの。

 手も大きくて、私の手なんかすぐに握り潰されてしまうのではないかしら。


 でも、私の手を壊れ物でも扱うかのように、そっと握り。

 リードも、こちらの歩幅に合わせるかのように優しいの。なにより、こんなに不機嫌そうに怖いお顔をしているのに、優しく私を気遣うような暖かさに包まれているのを感じるわ。


 決めた。

 わたくし、この男性(かた)がいいわ。

 どうせ、誰かと結婚することになるのなら、お相手はこの男性(かた)がいいわ。






「うわ~。久しぶり、王都なんて何年ぶりかしら」

 田舎で育った私は、本当に田舎者のお上りさんよろしく馬車の窓から身を乗り出して町並みを見ていた。


「マリーお嬢様。危のうございます。……って、いうか恥ずかしいのでおやめ下さい。どこのご令嬢がそんな真似するんですか?」

 アリシア・リンド夫人が慌てて私の身体を馬車の中に引きずり込む。

 目の前に座っているケイシー・オルコットはクスクス笑っているけれども。

「もうここは、ウィンゲート公爵家領地内ではないのです。デビュタント前とはいえ、ウィンゲート公爵家といえば準王家のお家柄。これから、ハーボルト王国挙げての行事の数々に参加しなければならないのです。公爵家ご令嬢として……」

 くどくどと説教に入りそうになったので、私はリンド夫人の言葉を遮った。


「今更よ。私の評判なんて、気にすることではないわ。どうせ『王妃候補のなり損ない、田舎に捨て置かれたご令嬢』って、言われているのだから」

 その言葉に、リンド夫人も、ケイシーも微妙に暗い顔になる。


 リンド夫人は夫を先の戦争で亡くしてしまった伯爵家の未亡人。リンド夫人というのは、愛称ね。

 少しふくよかだけど、少し癖のある金髪をキュッと結い上げてるの。体型は、子どもを産んだら皆そうなるのかしら。

 子どもと言ってももう成人して独立しているのだけど。教養の高さを買われ私の家庭教師をしてくれている。いくら田舎に捨て置いても、デビュタントはさせない訳にはいかないし、いつまでも未婚のままというのも外聞が悪い。

 だから、最低限でも私に社交界でやっていけるだけの教養を身に付けさせる為に雇われたの。


 ケイシーは私付きの侍女で、男爵家のご令嬢。20歳をとうに過ぎてるのに未婚なの。可愛らしい顔立ちだし、褐色の髪もケイシーには似合ってると思うのに、私にずっと使えるからって言って。

 ただ、下位貴族の三男女以降は原則要らない子扱いで、未婚で上位貴族や王族の使用人をしている事も多い。

 最も庶民じゃ、王族やうちのように準王族と言われる公爵家の人間の視界に入った時点で不敬罪になるので、とても侍女なんか出来ないのだけれども。


 そうして、私はマリー・ウィンゲート。

 自分で言うのも何だけど、容姿にはちょっと自信があるわ。お外で遊び回っているから、日焼けはしているし、肌は荒れているけど。

 ウィンゲート公爵家特有の明るい茶色の髪は、子どもだからまだ結い上げたことは無いけど、綺麗に結い上げたら、きっと大人っぽくなるわ。


 元々、生業の中に武器商人も入っているし、陰謀と策略にまみれているなんて、黒い噂もつきまとう公爵家だけど、私には関係無いわ。

 今の王太子殿下と同じ歳になるように、ウィンゲート公爵が正室に産ませた子どもがマリーこと、この私。

 女の子だったことを周囲が喜んだのもつかの間、王妃候補を選んでいると言う賢者様からのお声はついぞ掛からなかったんだって。

 それで、『王妃候補のなり損ない、田舎に捨て置かれたご令嬢』という異名が付いてしまったの。決して私のせいでは無いわ。


「そんなことより、久々の王都よ。都会よ。次は、いつ来れるか分からないのよ。大いに楽しまなきゃ損ってもんでしょう?」

 はしゃぐ私に釣られて、ケイシーの方は乗ってきた。

「そうですよね。マリーお嬢様。もう、来てしまったのですもの。色々、考えても仕方無いですわ。楽しみましょう」

 ……なんか、セリフの中に諦めが入っているのが気になるけど。

 リンド夫人の方は、頭が痛いって感じで溜息をついているのだった。

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