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ファイナ急行便  作者: 白石赤
2/2

another world

あれから時がたち、俺は二十六歳になっていた。ゲートの周りはすっかり整備されて、フライブルグ市は新しく生まれ変わった。


いろいろな人が夢を追いかけてゲートを渡った。世界中の企業が、異世界に進出し、貿易によって莫大な富を得た。というのも、異世界のほとんどには、まともな科学技術は存在していなかったからだ。単純な狩猟採集社会や、農耕社会しかないものがほとんどだった。動力は、家畜や水車場程度で

あとは、人間の筋肉である。それぞれの世界がどれくらいの文明の発達段階なのかを表す規格として、DSC

(development stage of civilivation)が作られた。未開、というのが最も原始的な社会だ。道具としては、火や陶器、弓矢程度。


その次が、野蛮である。家畜を使い、銅や青銅、鉄などの金属を加工する技術があることが条件。また、農耕が始まり、戦争なども起こることから渡航には細心の注意が必要とされた。

一番高度なのが、文明である。DSCによる区分には、批判的な意見が多い。というのは、この、文明という区分の範囲があまりに広すぎるのだ。産業革命程度の文明から、ようやく都市国家が形成されたような文明までをも含むからだ。


これだけだと、ゲートが現れたことはとてもいことのように思えるかもしれない。しかし、第一次異世界視察団が人々の熱狂的な歓声を浴びつつゲートの向こうに消えたとき、OWG(one world government)の首脳たちは、インターラーケンに集まりあまりにも異質なゲートという存在について延々議論を重ねていた。最初のうちは民間人の渡航は禁止されていたが、一部解禁になり、全面的に解禁になるまで2年もの歳月が費やされた。権力者たちは、第三次世界大戦後維持されてきた単一の支配体系にひびが入るのを恐れたのである。しかし、人々の好奇心をも押さえつけることはついにできなかった。30年もの戦争に心身ともに疲れ果てた人々たちは、事象を皮肉の目で見ることに嫌気がさしていたのだ。

 

 ゲートは”この世界”側からみると一つの大きな輪っかであるが、中に入ると中世ヨーロッパの城のような円筒状の建物になっていて、側面に無数のゲートが開いている。さらにその上には、大きく切り取られた採光窓があり、靄のかかった砂色の光が漠然と差し込んでいる。とても大きな建物である以上は何かしらの装飾の一つや二つでもありそうなものなのだが、塔の中央の椅子以外に人工物といえるものは一切ない。

 

椅子はいつからそこにあるのかはわからないが、それがあることによって人々はまるで自分がここにいてはいけないような、言いようのない気持ちを抱いた。座ってみても格別どうという事もない普通の椅子だ。

しかし、だれが過去に座ったのか。そもそも、この塔は人工的に作られたものなのか?という疑問は、人々の好奇心を刺激するには十分すぎる代物であることは間違いない。しかし、考えていても何もわからないのも事実だった。人々は、退廃的な雰囲気に飲み込まれている自分を感じながらも、まだ見ぬ別世界に胸を躍らせながら、一人、また一人とゲートの向こうに消えていくのだ。


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