4日目ー赤ずきんとおおかみー
今回でこのお話は終わりとなります。今回はかなり長くなっておりますので紅茶でも片手にお読み下さい。
ザァァー…「…今日は…森が騒がしいな…」
森が騒ぐ。それは森に脅威が迫っているか、あるいは「誰かが死ぬ時…か」スンスン。おおかみは何かを嗅ぎつけました。
むかしむかし、あるところに赤ずきんちゃんと呼ばれる少しおてんばな女の子がおおかみととても仲良く遊んでいました。そう。もう50年も前の話です。「もう、50年くらい経つのね…」赤ずきんちゃんと呼ばれていた女の子は今は歳をとり1人で森の中の家に暮らしていました。娘と孫娘がおつかいに来てくれるので1人で暮らしていても寂しくはありませんでした。それともう1人、いやもう1匹。大事な大事な親友がいたから寂しくなんてありませんでした。コンコン。「どうぞー」扉が開くとそこには「あら。おおかみさん。いらっしゃい。」「おう」おおかみがいました。「あら。今日はリンゴを持ってきてくれないの?あ、今日は森が騒がしいから心配して見に来てくれたのかしら?嬉しいわ〜。」歳をとってもなお赤ずきんちゃんのおてんばはなおっていません。「あぁ、森が騒がしいのもある。が、ほんとは違ぇ。」「あら。じゃあなんで来たの?あ、とうとう私を食べる気ね?(笑)」「ばか言うな。ヨボヨボのばーさんなんか食うもんか。今日来たのは……赤ずきん…お前が…お前の涙を流した気がしてな。」「…ふ。なにそれ」「あぁ、来て損したぜ。相変わらずおてんばなやつだ。」「………おおかみさん。」「なんだ」「おおかみさんすっっごい長生きよね。」「…」「おおかみさん。私気付いちゃったの。」「何にだ」「私のおばあちゃんがずっと話てた森は生きている、森はみんなを見守っているって話。ずっとわからなかったの。どういうことか。でも分かっちゃった。」「…」「おおかみさん。あなただったのね。あなたが森を見守っている者の正体なんでしょ?」「…オレはまだ20年前に継いだだけの新米だ。」「やっぱり!おおかみさんだったのね!でもあなたの前の方はどうしたの?私会ったことないわ。」「あいつは人が苦手なんだ。」「そうなのね。でもやっぱりおおかみさん達がこの森の守り主だったのね!ずっと不思議だったの。人の言葉を話すし、すっごい長生きだし。」「そんなんなんで今更聞くんだよ。」「………」「どうした?急に黙って」場に急にしんみりした空気が流れました。「おおかみさん。実はね。私おおかみさんの姿がもうハッキリ見えないの。」「……!!」そう、赤ずきんちゃんはもう目が悪くなっていました。「おおかみさん。私の孫娘がね。むかしの私にそっくりなの。それでね。孫娘に私が死んだらどうする?って質問してみたの。」「…くだらねぇ」「孫娘がね。死んじゃやだ!おばあちゃんの死んだ姿なんて絶対見たくない!って言ったの。」「大したガキだな。さすがお前の孫だ。」「うふふ。そうね。私それ聞いてこう思ったの。例え死んでしまっても、死んだ姿を見なければ死んだって実感もわかないし、悲しみが…減るんかなって。」「…またくだらねぇこと言いやがって。」「…おおかみさん。私ね…。」おおかみの背筋に寒気が走る。「…やめろ」おおかみの口から思わず言葉が出た。「…私。もう目もろくに見えないし、体も上手く動かないの。」「…やめろ…」「私…多分ね…もうすぐ…」「…だから…やめろってんだろ…」おおかみが震えながら話す。「私。もうすぐね。………死んでしまうわ。」「やめろっつってんだろッ!!!」おおかみはこのとき初めて赤ずきんに怒鳴りました。「……ふふふ。そんなムキにならないでよ。」赤ずきんはにこりと応えます。「ムキにもなるだろ!お前が…お前が自分から死ぬなんて言ったらよ!!」「待って。おおかみさん。まだ話の続きがあるの。」「…?」「私はね。孫娘にね。私がおばあちゃんが死んだときみたいに悲しんでほしくないの。孫娘も言ってたとおり、私の遺体を見て欲しくない。」「だから…だから何だってんだ。」「だから、おおかみさんにお願いがあるの。」「…なんだ」「おおかみさん。私が死んだらね。私を………」「私を………?」「フー……」赤ずきんはゆっくりと深呼吸をしてから言いました。「私を…食べて。」「…!!!!」おおかみはゾッとしました。50年もの間。ずっと遊んで。喋って。喧嘩したり、仲直りして。長い時を共に生きてきた親友が。死に際に。最後の願いと言って。自分に。「食べて」と、願ったのだから。………「……お前今日おかしぞ…死ぬなんて言ったあげく…オレに……お前を食べろ、だと……?ふざけんなよ!」おおかみは再び怒鳴りました。「おおかみさん…わかっているわ。親友に。それもあなたに私を食べて、なんて。おかしいわよね。……でも。あなただからお願いするの。何も私を殺せなんて言ってないのよ?私が死んだら死体をあなたのお腹のなかに隠してってお願いなの。」「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!!そんなそん…」「…おおかみさん。」「そんなこと。できるわけ…」「おおかみさん!」「!」「……おたべ♪」赤ずきんは満面の笑みで言いました。「…!!」その時の赤ずきんはおおかみが初めて赤ずきんと出会った時。あのときのリンゴをくれた姿。おおかみにはそのときの赤ずきんちゃんと今の赤ずきんの姿がかぶっていました。「…分かった……」「…ありがとう。おおかみさん…」「…ホントにいいんだな…」「うん。いいよ。」「ほ、ほんとに食っちまうぞ。そうだ!リンゴはあるか?リンゴくれたら食わないでやる!」「ふふっ♪おおかみさん…………」「さ、さぁ!早くリンゴだしな!無いならオレを楽しませろ!オレとずっと話をしろ!だからだから…………!」「………」おおかみの前には幸せそに微笑んで動かないおばあさんの姿がありました。「……!だから……死ぬんじゃ………ねぇ………ょぉ……ぐぅ………」おおかみは涙を流しました。かつて赤ずきんちゃんと呼ばれていたおばあさんを目の前にして。「……約束……仮にも森の守り主のオレが……破るわけにはいかねぇよな……」ガブッ………「ちくしょう………こんなんじゃ満たされねぇよ…」
あるところに。赤ずきんと呼ばれる女の子がいました。赤ずきんちゃんがおばあちゃんの家におつかいにいくと────
コンコン。「おばあちゃん!入るよ!」「…おはいり」赤ずきんちゃんがおばあちゃんの家にはいると「おばあちゃん。なんでそんなにお鼻が大きいの?」「…それはね赤ずきんちゃんの臭いを嗅ぐだめだよ。」「おばあちゃんなんでそんなにお腹が大きいの?」「……」「おばあちゃん?」「…それはね。赤ずきん……おばあちゃんを食べたからだよ…」「え?お、おばあちゃんを?おばあちゃんが??え、あ、おばあちゃん…その牙…」「……あぁ、これかい。これはね。お前を!!」………!?(あのバカ…ほんとそっくりじゃねぇか…ちくしょう……)「お、お…お前を食べるためだーーー!!!!」「きゃ、きゃぁーーー!!」おばあちゃんはおおかみでした。赤ずきんちゃんは逃げていきました。そしておおかみは赤ずきんちゃんを追いかけました。(かけっこ……みたいだな…)「きゃあーー!!助けてー!!」「待てぇ!!!」赤ずきんちゃんを追いかけるおおかみ。パァーーン!!!突然銃声が鳴り響きます。「かっ……」「大丈夫かい!赤ずきんちゃん!」「猟師さん!」猟師さんがおおかみを撃ちました。そして赤ずきんちゃんは助かりました。…………(あぁ……オレも死んじまうのか…いや、それでもいいか…ごめんなお嬢ちゃんよ。怖いおもいさせたな…まったく…赤ずきんによく似てやがる…あぁ…赤ずきんよぉ……また…会えるのかなぁ………せめて……あいつが生きているときに言ってやりたかった……お前のこと大好きだったぜ……ありが……と………ょ………)
「猟師さんありがとう。」「いやー赤ずきんちゃんが助かってよかった!」「あ、おおかみさんが…」「ん?おいおいコイツ涙流してやがるぜ。そんなに死ぬのがいやだったのか?ハッハッハ!」すると赤ずきんちゃんが「このおおかみさん…おばあちゃんの香りがする…」「ん?あぁそうだろうな。この!憎いおおかみが君のおばあちゃんを食って殺したんだ!!だから…」「違う」「え?赤ずきんちゃんなんだって?」「血の臭いじゃない。もっと暖かい…。おばあちゃんの。香り………このおおかみさん…おばあちゃんみたい」「赤ずきんちゃん…何を言って……あ…」森に射し込んだ陽の光がおおかみと赤ずきんちゃんを照らす。すると猟師には一瞬おおかみと死んだはずの赤ずきんちゃんのおばあちゃんの姿が見えた。それはまるで、愛する2人が抱き合うかのごとく。優しく、そして、暖かい。
暖かな陽の光が森を包む。それは赤ずきんとおおかみのあの笑顔のように。
爽やかな風が森を駆け抜ける。それは赤ずきんとおおかみの響き渡る笑い声のように。
むかしむかし、あるところにおおかみと心を通わせた赤ずきんちゃんと呼ばれる女の子がいました。1人と1匹はずっと一緒でした。ずっと幸せでした。死んでしまった今でも………
最後までお読みいただきありがとうございました!「赤ずきんちゃんとおおかみさん」は終わりですが次回後日譚のような短いものを出します。そちらもお読みいただけたら嬉しいです。