第2話 少女の名前
「僕の名前は、カルム
君の名前を教えてくれるかな?」
自分の名前。カルム。見たことも会ったこともない親がつけた名前。貴族ではないから、姓もない。
「私の、名前...それならわかるわ。メイスィア...だったはず...よ」
メイスィア。聞いたことのない名前だった。しかし自然と耳に馴染む名前だ。
「あ、あの、君はさっきなんでここにいるか分からない、って言ったよね?それってつまり、記憶が無い、ってこと?」
「そうね。自分の名前以外何も覚えてないわ。これからどうするべきかも分からない。でも、私がなにをしようとあなたには関係ないわ」
確かにそうだ。少し待てば記憶が戻るかもしれない。そうすれば帰る場所だって思い出せるかもしれない。しかし、このままほっとくなんてことは僕には出来ない。やはり、1度村に連れていこう。何もわからないかもしれないが、彼女をここに置いていくことなんて出来ないから。
「僕には君をここに置いていくなんてことは出来ないよ。村にいる大人の人ならなにかを知っているかもしれないし、人と話すことで思い出すことがあるかもしれない。何をするにしても、ひとりじゃ何も出来ないよ」
そう、人はひとりじゃ何も出来ない。あの村も人と人とが助け合っている内に自然と出来たものだって、村の人に聞いた。
「そう...。そういうことなら、連れて行って貰えるかしら?」
「うん。もちろん」
そうして、彼女の手を取ろうと手を伸ばした。それに気づき、メイスィアも手を伸ばし、手を握ろうとしたそのとき…
「わっ!?」
「きゃあっ!?」
手に強烈な電気が走ったような衝撃を感じた。
その衝撃は一瞬だけだったが、余韻として手にはまだヒリヒリとした感覚が残っている。
「い、今のは...?」
「わからないわ。あの衝撃は私の記憶と関係があったりするのかしらね。」
さすがに初めてあった人の手を握るだけで記憶が戻るなどとは思えないが、そんなことは言わなかった。これは僕の勘だが、このメイスィアという女の子は怒らすと怖そうな、そんなイメージが子供ながらに綺麗な容姿と記憶がなくても取り乱さぬ性格から予想してしまった。そうでないことを祈りつつ。
「あはは……。まあ、とりあえず村へ行こう。今度はあんなことは起きないよね?」
僕はもう1度手を伸ばす。
メイスィアも手を取ろうとする。
手のひら同士がふれあい、握る。
衝撃は起きなかった。
「ええと……メイスィア…って呼べばいいかな?」
「呼び捨てにするのならメイでいいわ」
「わかった。じゃあメイ、行こう」
2人の小さな子供は大樹の下を後にし、村へ目指す。