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見習い魔女の受難  作者: あろん*
小さな魔女の誕生
9/12

最初のレシピ

 まだ夜も明けきらないうちに私は目を覚ました。もうすぐ日の出なのか窓からはうっすら明かりがさしてきている。

 昨日はやはりかなり消耗していたのだろう、結局あのまま眠ってしまった私のお腹の虫何か食べさせろとキューキュー意思表示をして来る。



「んー、お腹減った・・・。何かないかな。」


 台所に行けば籠の中にパンはあるだろうとそう思ってベットから這い出そうとすると枕の横に丸まっているフィルの体が規則正しく上下していた。

 私は気が付いてしまった、これはまさに寝込みを襲うチャンスなのではないか思う存分もふれるんではないかと。



「フィルー?寝てますかー、寝てますねー?ぐっすりですねー?その尻尾のもふもふ少し触ってみてもいいですかー?――――いいですよー。」


 そんな一人芝居をしてそーっと手を伸ばして尻尾に触れるか、触れないかの所で―――。



「ティアはそんなに尻尾が触りたかったのかい?そんなこといちいちことわらなくてもいいよ、ほら触りなよ。何なら櫛かなにかで梳いてくれても良いんだよー?」


「うひゃぁ!お、起きてたのフィル!?」


「起きていたか寝ていたかの答えなら寝ていたよ。ただしティアがおかしな一人芝居をはじめるまでだけどねー。」



 尻尾だけ器用にパタパタと振って体は先ほどの規則正しい上下運動のままのフィルが答える。

 本来使い魔であるフィルには特段睡眠は必要ないのだが、必要無い事と眠らない事はイコールではないのでフィルはわりと眠る方だ。


「うー、だったらすぐに声を掛けてくれたらいいのに。いじわる。あ、そうそう尻尾を梳くのね。私の髪のやつでもいいかな?」


 不意打ちで要求をして来る彼はきっとそうすれば要求がのみこまれるとわかっている確信犯だ、そんなことしなくってもいくらでもしてあげるのに何て思いつつ、とりあえずベッドから出て引出しに入っていた櫛を取り出して問いかける。

 一応持ってはいるのだが私の髪は癖もほとんど付かないほど細く絡まないので櫛があまり必要無い、髪を洗う時に梳くのに使う程度である。



「なに?本当にしてくれるの?うーん、なんだか悪いなぁー。」


「気にしなくて良いわよ別に、その代わりにフィルのもふもふを思う存分堪能させてもらうわ!」


「さっきも言ってたけどなにそれ、まぁいいよ尻尾くらい、いくらでも触りなよ。」


 そう言ってベッドサイドに腰かけた私の膝の上にグデーッっと体を乗せて伸びるフィルの、その真っ白で毛並みの良いふわふわした尻尾を何度か手で撫でてからゆっくり櫛を通す。

 気持ち良さそうに目を閉じるフィルの体をもう片方の手で撫でながら、私はお腹の虫の意思表示をまるっと無視してたっぷり一時間ほどもふもふを堪能するのだった。











「それで、グルモアには何が出たんだい?」


「ふもっ?」



 フィルの毛繕いを終えて、さすがに無視できなくなっている意思表示を黙らせる為に台所の籠のから拝借したパンを頬張っている私は、口に食べ物がつまっているので一言だけ返事をしてに本の白紙の最初の一枚を捲る。

 次のページも白紙・・・。これは良い事なんだと思い聞かせ、めげずにもう一枚捲る。

 ページの右側になにか書いてある、喜んでそこに目を移せば。


『痺れ薬:等級7 品質97』


「もふっ!?」


 そこには薬品名と材料そして詳細な制作方法が細かい文字のみでびっちりと書いてある。


「なんて書いてあったんだい?あーまぁランダムだからねー。ひとまず薬で良かったよー。しかも等級が7かーティアは痺れ薬を作れるんじゃない?」


 ひょいと覗きこんでそう言ってくるフィルを横目に、私はまずパンを飲み込むことに専念する。ぼそぼそする、飲み物が欲しい。贅沢をいうならロイドさんの所のミルクがいい。そんな事を考えながらやっとの思いで飲みこんだ。




「うん、等級はわからないけど、痺れ薬なら私作れるわ。ここに出ているレシピとは材料も全然違うけれど。そこにかかってる腰巻の毛皮の材料になった熊を弱らせた罠に仕掛けた痺れ薬も私が改良したものを使ったのよ。」


 村で狩りに罠を掛ける時によく使われている罠用の痺れ薬をカティアが改良して、それは大型の獣に効きが強く出るようになった。


「ふんふん、それで今その薬は手元にあるのかい?」


「もちろんあるわ、待ってて今持ってくる。」


 好き好んで部屋に毒物を置く人間はあまりいないだろう、玄関に纏めておいてある狩り用のボックスの中から薬を取り出してそれをフィルのもとに持っていき、きつく閉じられた蓋をあけて見せる。


「これよ、効き目がすっごく強いから気を付けて。フィルみたいな大きさじゃちょっと舐めたらきっともう目が覚めなくなってしまうわ。」


「僕が死ぬ?大丈夫さティア、僕を殺したかったらこの一万倍は強い毒薬に100年は漬物にしないと無理だね。なんなら少し舐めてみようか。」


 さらりととんでもない事を言い、いまにも舌を出して舐めてしまいそうなフィルの目の前からダメと薬を遠ざける。本人が大丈夫と言っていても、カティアはフィルよりかなり大きいサイズの野ウサギがこれをひと舐めしてすぐに痙攣して動かなくなってしまったのを見て知っている。

 実際の所、小瓶を全て飲みほしても本当にフィルは死んだりはしないし痺れもしない。自分で言っている毒薬に浸かっても死にはしないだろう。フィルにとっての最悪は契約した魔女、つまりカティアからの供給が途絶えてしまう事で、それ以外は些事なのである。



「残念だなー。せっかくのティアの手作りだっていうのにー。」


「手作りってこれ毒なのよ・・・。」


「へーき、へーき。ポイズンクッキングなんていうカテゴリーもあるくらいだカティアの作った物ならどんとこいだー。」


「ぽいずんくっきんぐ?それが何か分からないけれど、私の作ったものが食べたいなら別に用意するからこれはダメ。」


 先ほどの毛繕いといい、本当にフィルはうまく自分の要求を通してくる。カティアは別に奇抜な材料を鍋に放り込んでみたり、味見もせずに美味しそうでしょうと食卓に並べたりはしないので料理下手には該当しないと思っている、喜んで毒物を口にされるくらいなら料理くらいはしてあげようと思う。



 もちろん世の中になぜか存在する紫色のボコボコ泡を立てる汁を作ったり、鍋を爆発させたり、材料が天井まで飛んだり、皮を剥いたら実がなかったり、硫酸や硝酸を鍋に入れたりもしないので安心してほしい。




「約束したからねー。よし、じゃぁ僕は舐めないから、グルモアの表紙にそれを一滴垂らしてごらん。」


「フィル?そんなことしたら、きれいな表紙が汚れてしまうわ。」


「大丈夫、グルモアの機能の一つに制作した物を吸収してレシピに置き換えてくれるっていうのがあるんだ。その薬はティアのオリジナルみたいだし問題無いよ。それにグルモアは劣化や破損しないからもし吸収されなかったとしても汚れたりはしないさ。」


 聞けば聞くほど高性能な本だ、本当に本なのか疑いたくなるそれだが、実際レシピを浮かび上っているしそれをしたフィルが言うのだから間違いないだろうと、ほんの少し薬を表紙に垂らす。


 その瞬間フィルがポンポン跳ねた時と同じように本の隙間がうっすらと光って垂らしたはずの薬は痕跡も無く消えていた。


「おっけー。本を開いて確認してみて。」


「わ、わかったわ・・・。」


 白紙のトラウマがカティアの思考にふとよぎって思わず口ごもりつつ本のページをひらくと2枚目の右側に『痺れ薬:等級9 改良型 品質68』と書いてあり、その下に使っている材料そして製作方法が先ほどの文字だけとは違い図入りで丁寧に書きこまれてた。


「すごいわ・・・。まるで図鑑ね。」


「グルモアのデフォルトの形式だね。これでも十分見やすいけれど、不足分を足したりわかりやすいように自分で書く魔女の方が多いんだよ?細かい所まではこれでは表示されないからねー。」


「そうなの?これでも十分だとおもうのだけれど・・・さっきのよりはよっぽど・・・。それとこの品質っていうのはどういうことなの?」


「品質ていうのはねー。50が真ん中で最高が100になるんだ、ほかにもいろいろあるけれど薬で言うならば一番大きな変化は薬効かなー、等級10の品質100が等級9の品質50と同程度の効果が出るって事なんだ。ティアの薬だと『痺れ薬:等級8』のダメな感じのやつと効果が同じくらい出るって事になるかなー。材料は同じでも細かい所で差がでるからね、さっき僕が言った自分で書く魔女が多いって言うのはそういうことなんだ。」



 フィルからもらったレシピの品質は97だった。文字しかなくて細かくて読むだけでもあれは一仕事になりそうで気が滅入るレベルの書き込みだった、カティアは文字の読み書きは出来るがそこまで得意と言う訳ではなくあれを読み解くのには相当な時間がかかりそうだ。しかしその品質を見る限りはすごく洗練された薬品なのだろう。



 これからもフィルにはレシピを貰うのだろうが、形式が全部あれなのだと思うとあまり喜べないと深くため息を落とすカティアなのだった。

ブクマ、PVに感謝。

全体的に手直ししました。

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