緑のあいつ
時間が取れたので更新できました!
読んでくださる方がいる限りマイペースに頑張ります。
血の匂いに釣られて現れた緑の子鬼。
1匹見たら30匹と言われるほど繁殖力に優れ、どんな生き物とでも交配して増える魔物。人を拐う程度の知能もあり粗末な棍棒などの武器を持つ。上位種は更に知能が高く道具を使い群れを統べる。
1匹の力は大した事がなく、そのへんの村人でも簡単に討伐出来るのだが、群れのゴブリンを1匹殺すと群れに生存本能が働きその数を爆発的に増やすという厄介な魔物、そのため群れのゴブリンの場合は巣を見つけ一気に叩くという討伐方法が取られる。
カティアがまだ幼い頃に村の男たちが総出で近くの村に応援へ行っていたのを思い出す。1
「ひっ!!ニーク!ニーク!!あれ、あっちにあれがいる!」
小さな悲鳴と共に帰り支度をしているニークを呼ぶ。
「ん?ティアどうした?あっち?―――あれは・・・ゴブリンか!」
カティアに指さされた方にいるゴブリンに気づきすぐに弓矢を構える。
ゴブリンはまだこちらには気づいておらず鼻をヒクヒクさせて血の匂いのする方を探している、こちらに気付くのは時間の問題だろう。
「どうしようニーク・・。今は1匹しかいないけど、群れかはぐれか見ただけじゃわからないよ。」
群れに危機が及ばないかぎり普段はそこまで繁殖しないゴブリンであるが、その中には希に群れを離れ新たに群れを作ろうとするはぐれが出る事がある。
これは大抵1匹、多くても数匹なのでその場で討伐してしまうことが多いらしい。
しかし群れならば近場の村人を集め、巣を見つけ次第一気に叩くのが定石である。判断を誤れば30匹の群れが数日後には数百にまで膨れ上がることもある。
「1匹しかいないんだあれははぐれだろ、弓矢もあるし俺の『狙い撃ち』をティアに見せてやるよ。」
ニークはそういって弦を引いて集中しはじめた。
「あれは斥候だね、ティア彼を止めたほうがいいかなー、殺してしまうと面倒なことになるよー。」
「フィル!お願いだからそういう事はもっと早く言って!―――ニーク!!待って!待って!あれははぐれじゃないかもしれないわ!」
ニークに聞こえないように悪態をついてから、少し大きめな声でニークにストップをかける。
「そんなこと言われてもなー。ボクはもしもの時を考えて弓矢を用意させてとは言ったけど、射掛けろなんて言った覚えはないしなー、彼の勝手な先走りまでボクの責任にしてほしくないなー。」
「ティア、はくれじゃないってなぜ分かるんだ、さっき判断できてなかっただろ?一匹なんだからはぐれだろう。」
「はぐれは優秀な個体もしくは群れに新たに誕生した上位種が新しく群れを作るためにはぐれるからなー。あんなに弱そうな個体じゃはぐれたところで野生動物にも勝てやしないさー。」
「ニーク、はぐれって新しい群れを作る強い個体なんでしょう?あんなに弱そうなのに一匹で生きていけるなんておかしいと思わない?」
「言われてみればそうだな・・・。あれが群れの偵察役なら餌があるここを見つけたら仲間を呼ぶはずだ。離れて見張ってみるか。」
湖に浮かぶ腹を裂かれぷかぷか浮かんでいる数十匹のマダラカエルが目的であろうゴブリン発見して仲間を呼べば群れである証拠になる。
二人はまとめ終わった荷物を背負いその場を離れて草陰に身を潜めた。
やがて湖の方に匂いの発生源があることに気づいたのか、周囲の警戒すらせずにゴブリンは湖に近づきそれを発見すると奇声をあげだした。
「仲間を呼んでるな、群れの偵察役で決定だ。ティアが止めてくれなかったらとんでもない事になるところだった。」
「ううん、私も最初はわからなかったしお互い様。それより、どうするニーク?」
「群れの数と巣の位置が知りたい、俺はあいつらの後を追って調べて見るからティアは村のみんなにそれを伝えてもらえるか?」
「うん、わかった。ほかの村への伝令も出したほうがいいかな?」
「運良く早期発見できたんだ、まだ数がそんなにいないかもしれない。小さな群れなら村の狩人だけで十分だろ。俺がそれを見て来るからさ、伝令はそれまで待ってくれって言ってたって伝えて欲しい。」
「わかったわ。ニーク気をつけてね、あなたにもしもの事があったら、婚約者を失ったロビーナがブタオの所に行くことになるんだからね!」
「そりゃぞっとしないな。大丈夫あんな間抜けどもにみつかってたまるか。もし見つかったとしてもあんな奴らから逃げるのなんて朝飯前だ。」
手早くこのあとの動きを話し合っていく。ニーク一人で追跡してもらうのは心苦しいが村への伝令も必要な事なのでそんな事は言っていられないし、今は自分に出来ることをするしかない。
「これはフラグ立っちゃったかなー?」
「フラグって何よ?」
「お決まりのパターンって意味さー。この場合婚約者を残して男が事故死をする死亡フラグってやつだねー。」
「馬鹿なこと言わないで!」
「おい、どうしたんだよティアそんなにいきなり怒鳴って。」
「何でもない!ねぇニーク。本当に無理したらダメだからね?絶対に無事で戻るのよ?」
「お、おう。わかったよ。どうしたティアいつもより目に光が点っていないんだが?そんなに心配すんな無理はしねぇよ。」
「うん、わかった。じゃぁ私は戻るね。荷物はどうしよう・・・。」
「できれば持って帰って、作れるんならあれ作っといてくれよ。アレなら矢に塗ってもいいし食物に塗りこんで罠にしたっていいからな。」
「わかった。頑張って作っておくね。」
怒られて言ってはいけない事とわかったのか、フラグが成長してるなーとおもいつつ、今は肩や頭に乗せてくれそうにないなと思いつつ黙ってフィルは荷物の上に飛び乗った。
「それで?なんであんな事いうの?」
「いいかいティア。フラグを侮ってはいけないんだよー。言霊って言ってね、ある一定の実績を積んだ言葉は力を持つんだ。運命を捻じ曲げるまでは行かないにしてもそちらに差し向けやすくする程度の効力はあるんだからきをつけないといけないよー。」
足早に村に戻りながら、弁解を聞きましょうとばかりに問いただしてみると相変わらず抑揚のない声が帰ってきた。
それが本当なのか嘘なのか判断しにくいそれなりに説得力がある返答ではある。
「記憶にないかい?そうなるんじゃないかなーと思って良くない事を口にしたらそれが本当になってしまった事。」
「あるかも・・・。」
「それも一種の言霊さー。思い込むこと、それを口に出すことはそのまま力になる。事もある。それの最たる物がフラグっていうパターン化されたものなんだー。」
「うーん、わかった・・・。なんか納得できないけど私はそういうのわからないしまた気付いたら教えて。」
「まかせてよー。それとティア、そろそろ肩に乗せてくれると嬉しいかなー。」
「はいはい、こっちおいで。」
荷物は肩から背負っているのでその紐を器用に駆け上がって肩に乗るフィル。
フィルは別に嘘は付いていない。実際にそういう力は働くし、様々な人の想いや言葉の力で世の中が捻じ曲がることなんてそのへんにありふれているほど溢れている。
けしてカティアがちょろい訳では無い。
「そうだ、帰り道でゴワの実いくつかとって帰らないと・・・。」
寄り道はすべきではないのだろうが、痺れ薬の材料になる実をいくつか採って帰る為に少しだけ寄り道をする。
少しして村にたどり着くとすぐに見かけた人全員に、すぐに広場に集まって貰うようみんなに広げてと伝えながら自宅へ戻る。小さい村なのであっという間に全員に伝わるだろう。
「はぁ・・・。はぁ・・・。かあさん、ただいま!」
「おや、おかえりティア。どうしたのそんなに息を切らして・・・。」
「かぁさん、あいつが、緑のあいつが出た!今ニークが巣を見つけるって後を付けてるわ。数は少ないかも知れないから、自分が戻るまで他の村への伝令は待ってくれって。」
「そう、ゴブリンが出たのね。村のみんなにいろいろ頑張って貰うことになりそうね・・・。」
ゴブリンの出現を知って、ステラリアの村長でもあるステラは母の顔から指導者の顔になる。
「みんなには声を掛け合ってもらって広場に集まるように言ってあるわ。」
「わかったわ、そうしたら皆に指示を出しに行こうかね。」
ステラはそう言うと昨日カティアが倒れた時とは比べ物にならないほど冷静に、扉を開けて広場へと歩いて行った。
新たに2件のブクマ頂きました!ありがたい!
ゴブリン討伐の戦闘シーンどうしようかなと悩み中・・・。




