レシピについて
読んでくださっている方が少しでもいる限りはマイペースに更新していきます。
レシピを読み出して、気が付けば数時間は経過している。
文字だけで書いてあるそれを読み解いていくほどに、そのレシピのすごさが身に沁みてわかる。
調合の配分の細かさもさることながら、その手順や調合方法の細かさには思わず舌を巻くほどである。
カティアとて痺れ薬を調合した事があるが渡されたレシピに比べたらその製法なんて、子供が砂を丸めてお団子出来たー!と同レベルと言って良いほど拙いものになってしまう。
「ふぅ・・・。これは本当にすごいのね・・・。こんなに細かく配分から調合方法まで記載されているなんてとても真似出来そうに無いわ。」
「そうかなー、独力で9等級の調薬まで成功してるんだ才能はあると思うけどなー。」
そんな軽い感じで言われるけれど、その製法はまず材料の加工からかなり違ってきている。
カティアの作る痺れ薬は、マダラガエルの舌が主な原材料で自分なりのアレンジで舌の奥についている袋状の臓器を水に混ぜてそこにゴワという草に実る赤い実の絞り汁を足し、ある程度煮詰めたら完成というわりかしいい加減な製法であるのだが、もらったレシピではマダラガエルの舌は使わず袋状の臓器を主に使用する。
実はこれが毒袋らしいのだが単一では効果が無く、舌に付いている粘液に反応して毒性を出すらしいそれをスポイトと言う器具を使って採取して取り出し混ぜる、もちろん混ぜる配分は細かく決められている。
粘液を取り出す際に舌に張っている毒腺から、すでに粘液と混ざってしまっている毒を採取すると効果が落ちるなどの注意書きもばっちり書かれている。
更に水は蒸留して不純物を取り除き、ゴワは実を使わずその種を数日、天日に干した後に粉状に粉砕して薬匙をつかい正確に量り蒸留水と混ぜ加熱した後に、密度の高い布を使い漉す。
その薬品のを赤色融和剤と言うらしく、この薬品をいい加減に作ると品質の低下を招くらしい。
マダラガエルは水生生物なので青の属性が強く、攻撃性を持つ赤の属性との融和製が悪いのでそれを高める際には、赤色の融和剤を使用するらしく、もちろんこれもスポイト単位で分量が決められていて、きちんと守らないと品質に影響が出るらしい。
素材のほぼすべてが天然素材であるために、最高品質が97という低い品質になってしまい知識にのみ残すと締めくくられているそれは、材料がかすっている程度の自分の薬とは根本的に違うものであった。
しかも97は低い品質であり納得していないという追い討ちまで付いている、製作者にとっては汚点のような失敗作なのかもしれないが、カティアに再現して作れと言われてもまったく不可能な話でまずは設備や道具が全く無い。
「フィルには私の作り方を説明して無かったわね。いい、私は材料を混ぜて煮ただけなの。きっちり量ってもいないし融和剤なんてはじめて聞いたわ。」
「何行ってるんだい?そりゃぁ、ティアがカルディナと同じ様に作れるわけは無いさー。いいかい?僕の与えるレシピは本来は師匠である魔女からほとんど引き継げるものなんだよ?製作者はもちろん材料から設備までそろった所で作るに決まっているじゃないかー。」
フィルにカルディナと呼ばれたのは前の主と言っていた魔女の事なのだろうか。それならば優秀だと言っていた彼女のレシピを私はどうしたらいいのだろうか。再現出来ない物は役には立たない。
「それで、今ティアはカルディナのレシピから赤の融和剤というものを知ったわけだ。どうだい?融和剤になりそうなレシピを思いついたりはしていないかい?」
唐突にそう問いてきたフィルに言われて考えてみる。不思議な事に何となくこんな感じならどうだろうかというレシピのようなものが思いが浮かんできた。
まず、水生生物は青の属性らしい。
ならば青の融和剤は水生の何かから作れそうな気はする、生き物は何か違うような気がするから植物でぱっと思い浮かぶものが無いか探してみる。
近くの湖に咲く紫色のきれいな花をつけるツバタソウがぱっと思い浮かんだ、あの花弁を磨り潰して出た液を溶かしてみたらどうだろうか。
そう思った瞬間グルモアの表紙がポワァっと青白く光った。
「やったね、ティア成功だよーやっぱり君は才能がある!」
「フィルきちんと説明してくれないとわからないわ、一体何が起きたの?」
本を手にとってフィルに確認する。事柄が起きてからじゃないとなかなか説明してくれない白い獣を睨み付けながら問いただす。
「まぁまぁ、開いてごらんよー。今ティアが考えた事が浮かんでるはずさ。」
そんな事はお構い無しと私を促すフィルにしぶしぶ確認してみると、数ページ進んだところに『青の融和剤』と記載されていて、何となく想像したツバタソウの花弁を使用した製作法が書き記されている。
「そこに書かれているレシピは魔女のレシピの原案になるんだ。正確に言うと魔女のレシピなんてものは決まった製作法が無いんだよ、こんなので作れそうじゃないか?こうなったらよく効きそうとか、こうしたらもっと効果が上がりそう。それで原案は出来ちゃうんだ。もちろん品質を上げたりするには材料を足したりする必要があるんだけれどね。」
なんだか今サラッとすごい事を言われた気がする、フィルの言う事が決まった製作法がないのなら土を黄金に変える製作法を得る事も可能と言う事になる。
これはもしかしたら、何の苦労も無く左団扇で暮らしていけるんじゃないかなんていう邪念がうまれて口の端が上ずってしまったのを意地悪な白い獣が見逃すはずは無かった。
「ティアが何を考えているかが手に取るようにわかるよ、まったく君は人族のお手本のような想像をするんだねー。もちろん制約はあるよー。何でもかんでも出来る訳じゃない。ベースはあくまでも師匠から受け継いだレシピになるんだ。まぁティアの場合はそれが無いからねー、その分だけ自由度はがるかなー?でもその代わりにお手本はほとんど無いから才能が必要になるわけさー。閃かないものはもちろん作れないよー。」
土から黄金が出来るという様子も想像が出来ない。どうやら思い浮かばない、イメージの出来ない物はグルモアには浮かんでこないし作れないみたいだ。逆に言えば思いついたものならば、私のレベルに合わせてくれるので大体は作れるって事になる。
「仕方ないじゃない、私の今の第一目標は何とか村を出て生活を出来るようにする事なの!どうやったら暮らしていけるかに思考が行ってしまうのは当然じゃない!もしかしたら金なんか作れるかと思ってしまうのも仕方の無いことだわ。」
「金?金くらいなら作れると思うよー、錬金術ってカテゴリーなんかもあるんだ。それを学んでひらめけば間違いなく作れるねー。カルディナのレシピにも多分あると思う。でってくるといいねー。」
尻尾を振ってご機嫌にそういったフィルを見つめる。なんと、金は作れるらしい。
カルディナさんのレシピを再現できるわけは無いけれどヒントくらいにはなりそうだ。後一回何かランダムでもらえるんだしもしかしたら出てこないかななんて思ってみたりする。
これは私が強欲と言うわけではけしてない、誰だって私と同じ反応になるに決まっている、まだ早く出せないのかとしがみつかなかっただけ理性的だ、そうに違いない。
魔女なんていいことが無いなんて思ったけれど、本当にフィルの言うとおりにすごいのかもしれない。現金な話だけれど、俄然やる気が出てくる。
「フィル、私頑張るわ!頑張って金を作るの!そして安定した人生を送るわ!さぁこのあとは何をしたらいいのおしえて?」
「そうだねー、やっぱりせっかく思い浮かんだレシピがあるんだ。まずはそれを作ってみたらどうだい?」
それもそうだ、この季節ならばツバタソウは湖いっぱいに咲き誇っているはずだ。
どの位加工したら品質が上がるのかとか、新しい閃きはフィルから貰うカルディナさんのレシピを参考にしよう。
「今の季節ならすぐ手に入る材料だわ、朝ごはん食べたら出かけましょう。」
「それなら僕も一緒に行こう、ティアの肩の上ででも見えないようになって丸まっておくさ。」
「はいはい、その時は頭でも肩でも好きなとこに乗っていたらいいわ。でも今から着替えるのだから少し出て行ってくれないかしら?」
いくらもふもふの動物でも、知能がある生物でおそらくオスであるフィルに着替えを見られるのは恥ずかしい。
「どうしてだい?」
「どうしてって、フィルは男の子でしょう?女性の着替えを覗いたりしたらダメよ。」
何となくそう返ってくる予想は付いたので、当たり前に当たり前の返答をするのだがフィルは更に首をかしげて全く理解できなさそうにしている
過去の主様であるカルディナさんは嫌がったりしなかったのだろうか。
「ティア、魔女の使い魔には生物的に雌雄は無いよー。」
「え、でも僕って言うじゃない?」
「それはただの口癖みたいなものさ、付け加えるならば僕ら使い魔は魔女の傍をなるべく離れないようにするために、メスの固体になる事も可能なんだよ。今の僕もそうなっているはずだよ。何でそんな事を気にするのかは全く理解が出来ないのだけれどねー。」
動物の雌雄なんかはぱっと見で判断など出来はしないのですっかり男の子だと思っていたのに、本人が言うにはフィル君ではなくフィルちゃんのようだ。
「うーん、見た目じゃわからないし・・・。いいわ、フィルが嘘吐きじゃないって信じる。それに私の着替えなんて見てもきっと何も楽しくないだろうしね・・・。」
私は自虐的になりながらも、フィル女の子説を信じて着替える。
少し遠出になるし腰巻と首飾りは付けていこう、厚手の革で出来た7分丈のズボンと綿のチュニックにベストを羽織って毛皮の腰巻を巻いたら、膝まであるなめし革のブーツに履き替えて、腰の裏に護身用の短剣を差し準備は完了だ。
その間フィルはまったく興味が無さそうにベッドの上で丸まっていた、それでいいのだけれど、いいのだけれど。
仮にフィルが本当は男の子で、それなのにこれだけ興味無さそうにしていたのならば、それはそれでなにか負けたような気もするのだが、そんな事は気にしたら負けなのである。
「よし、準備できたよ。きっともうすぐご飯も出来るし食べて出かけよう!」
そう言って私は、フィルに手を伸ばしその手を駆け上がって肩に乗ったのを確認してから部屋を出た。
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