63.始まりの神話
パキン、と、耳元で音がした。
それに気づいたペレスエラはふと、音のした方へ目を向ける。
だがそこには何もない。
あるのは青々とした海とそそり立つ岩壁。
崖下で砕ける波の音と、遠く見える白亜の神殿……。
けれど高みからそれを見下ろして、ペレスエラは微笑んだ。
静かに瞼を下ろし、かつての同胞たちに語りかける。
「……終わったのですね。あなた方の役目が」
そう囁いたペレスエラの背後には、長い髪を潮風に嬲られ、不機嫌そうな顔をしたターシャがいた。
同じように赤い長衣ごと髪を煽られながら、それを押さえて小さく祈る。
「どうか安らかに」
ペレスエラの額で、額冠に嵌められた赤い宝石が瞬いた。
彼女には視えている。この先に待ち受けている未来が。運命が。
だからペレスエラは微笑する。
悲願の成就まで、あと少し。
◯ ● ◯
う、と短く呻いたケリーが、形のいい眉をわずかに寄せた。
それに気づいたジェロディたちは、彼女の顔を一斉に覗き込む。
ゴーレムとの戦闘からおよそ半刻(三十分)。ケリーが目を覚ましたのはマリステアによる怪我の治療が終わり、しばらくが過ぎた頃だ。
「ケリー!」
「……ティノ様? 私、は……」
「大丈夫かい? 覚えてるかどうか分からないけど、君はさっき、ゴーレムに吹き飛ばされて……」
「ああ……」
気怠そうな声を上げ、しかしケリーはゆっくりと体を起こした。それを横からマリステアが支え、オーウェンも珍しく気遣わしげな顔をしている。
そこでケリーは額に手を当て、軽く頭を振ってみせた。その仕草は痛みを散らしているというよりも、埋もれた記憶を揺り起こそうとしているように見える。
「そうか……そうでしたね。申し訳ありません。私としたことが、戦いの最中に気を失うなど……」
「バカ言うな、気を失うだけで済んで儲けモンだ。お前、あの岩人形に正面から殴られたんだぞ。はっきり言って、生きてる方が不思議なくらいだ」
「私はあんたみたいなヤワな鍛え方はしてないからね、オーウェン。だけど、そのゴーレムは?」
「あいつなら僕たちで何とか倒したよ。憲兵隊の人たちは救えなかったけど……でも、もう大丈夫。あとはここから脱出する方法を探すだけだ」
「そうですか。ですがよくあの化け物を倒せましたね」
「それもこれもティノさまのおかげです。あのゴーレムを倒すために、ティノさまがとってもすごい作戦を立てて下さったんです。ケリーさんにも見ていてほしかったですよ、ティノさまの華麗なるご活躍を!」
マリステアが興奮気味にそう話すのを聞いて、ジェロディはちょっと苦笑した。華麗なる……なんて言われると恥ずかしいというか、そもそも自分じゃゴーレムに届かなくてオーウェンに投げ飛ばしてもらったり、最後も爆発に巻き込まれて吹っ飛んだりと散々な結果だったのだが、そのあたりのことについて、マリステアの中では何か妙な補正がかかっているらしい。
――まあ、でも無事にケリーが目を覚ましたんだから、今はそれでいいか。
ジェロディはそう思い直して、無粋な口を挟むのはやめておいた。
ケリーも見たところ具合はだいぶ良さそうだし、マリステアがいつになく饒舌なのもそれが嬉しくてたまらないからだ。ならば今は二人の会話に水を差すまいと立ち上がったところで、隣に佇んだオーウェンが言う。
「しかしゴーレムを倒したはいいが、問題はどうやってこの部屋を出るか、ですよね……。あいつを倒したからと言って特に出口が現れるわけでもなし、収穫は宝石一つだけ……」
「あー、それなんだがよ」
と、声を上げたのは、ジェロディたちから少し離れたところで葉巻を吹かしたジェイクだった。彼は先程までゴーレムが収まっていた壁の窪みに腰を下ろし、咥えた葉巻の先を赤く明滅させている。
「オーウェン。あんた、身長いくつある?」
「は? 何で今そんなこと……」
「いいから」
「チッ……何だよ。最後にした軍の身体検査では、確か三十七葉(一八五センチ)とちょっとだったが?」
「ふむ。じゃあギリギリ届くかな」
「届くって、何に?」
「――〝愛神の剣〟だよ」
言って、ジェイクは自分の頭上を指差した。
――〝エハヴの剣〟。
それは博愛の神エハヴにまつわる有名な神話だ。どんな悪人であろうとも、その胸に宿る小さな善性を愛し赦した慈悲深きエハヴ。
かの神は神話の時代、悪行の限りを尽くした大悪党にある日一振りの剣を恵んだ。極悪人でありながら、病床に臥せった老母のために奔走していた悪党へ〝この剣で東の魔物を倒したならば、お前の母を救ってやろう〟と贖罪を促したのだ。
結果悪党はエハヴとの約束を果たし、母を死の淵から救うことに成功した。その神話から〝エハヴの剣〟とは苦しいときに与えられる神の慈悲を意味するのだが、ジェイクが示したのはまさにそれだ。
何しろ彼の頭上――先程までゴーレムが鎮座していた窪みの上部には、地上へと続く縦穴が開いていた。
しかもただ穴が開いているだけでなく、木製の梯子まである。真下から覗かないと見えないように下端が引き上げられているが、それも下から引っ張れば簡単に下ろせそうだ。
「こ、これは……」
「お、おおっ……! 梯子だ、梯子があるではないかっ! こ、これで地上へ出られるのだなっ!? そうなのだなっ!?」
「まあ、出られると決まったわけじゃあありませんが。上に出た途端、また新たな罠がないとも言い切れませんし」
「よし、オーウェン! きさまが梯子を下ろして先に行け! 上まで行って安全を確かめてくるのだ!」
「はあ? 俺は人身御供かよ……」
ランドールの命令に舌打ちしながら、しかしオーウェンは渋々といった様子で頭上の梯子に手をかけた。ジェロディでは跳んでも届かない高さだが、オーウェンはちょっと爪先立ちをしただけで軽々と梯子を掴み、それを一気に引き下ろす。
「それじゃ、先に上の様子を見てきます。俺が合図するまでティノ様はここにいて下さい」
「ああ、ありがとう。気をつけて」
ジェロディは長身のオーウェンがいたことに感謝しながら、梯子を上っていく彼を見送った。そうしてその姿が次第に遠くなっていくのを眺めつつ、もしオーウェンがいなかったら梯子一つ下ろすのも一苦労だったな、と考える。
今、この場で彼の次に上背があるのはジェイクだ。しかし彼の身長はケリーよりちょっと高い程度で、オーウェンとは二葉(十センチ)も違う。
それではあの梯子に手が届いたかどうか。下手をすればジェロディがジェイクに肩車をしてもらって……なんてことになりかねなかったし、更に言えばジェイクが一緒に落ちてこなければそれも不可能だった。
――〝運命の審判を受けよ〟。
そのときジェロディの脳裏に、ゴーレムを呼び覚ましたあの呪文が甦る。
〝運命の審判〟。それをあの日記の考古学者は〝裁き〟という意味で捉えていたようだが、実は違ったのではないだろうか?
〝審判〟とは本来〝物事の正否を決めること〟だ。つまり正しいか正しくないか、勝つか負けるかを決めるということ――。
(古代ハノーク人は、ここに落ちてきた人たちを試したかったんだろうか?)
ジェロディたちが、この梯子の先へ進むに値するかどうか。
その知恵と勇気、運と機転をゴーレムで試した……?
何故だかそんな推測に至って、ジェロディはそっと腰の物入れに触れた。そこには先刻ジェイクから預かったゴーレムの心臓がある。
心臓は既に光を失ってしまったが、あのとき頭に響いた声をジェロディははっきりと覚えていた。
〝我々はお前を待っていた〟――。
「――うおっ!? 何だ……!?」
瞬間、遥か頭上からオーウェンの驚く声が聞こえて、ジェロディははっと我に返った。彼の身に何かあったのかと思い、慌てて縦穴を覗き込む。
「オーウェン、大丈夫かい!?」
「ええと、たぶん大丈夫です! 部屋の明かりが勝手についたんでビビりましたが、それ以外は異常ありません! これも常灯燭ってやつですかね……?」
人の出入りを感知して勝手に火がついたというのなら、間違いなく常灯燭だろう。多くの考古学者が残した文献の中にも、同じような仕掛けの記述はたくさんある。
ひとまず上が安全と分かると、ジェロディたちは次々梯子を上り始めた。数百年も前のものとなれば腐食しているのではないかと心配だったが、防腐剤でも塗られているのだろうか、梯子はかなりしっかりしている。
やがて四角い穴の出口に手をかけると、オーウェンがすぐに引き上げてくれた。上がった先は地下室の半分ほどしかない小部屋で、正面に出口と思しい扉が見える。
「お、おお……! やったぞ、出口だ! おいジェイク、あの扉には妙な仕掛けなどついていないだろうな!?」
「……」
「おいっ、ジェイク!? 聞いてるのか!?」
先に部屋へ上がっていたジェイクに無視されて、梯子を上ってきたランドールが地団駄を踏んだ。だがジェイクはそれが聞こえているのかいないのか、こちらに背を向けてじっと天井を見上げている。
――一体何を見てるんだ?
気になって自分も顔を上げたところで、ジェロディは絶句した。
そこには、壁画。
円形に造られた部屋の天井にびっしりと、古代の絵画が描かれていたのだ。
「う、うわ……!? これは……!?」
すぐ傍でマリステアの声がしたが、ジェロディはそちらを振り向くこともできなかった。視線は天井へ釘づけになり、圧倒的な色彩と緻密な構図、そして膨大な量の壁画に息を飲む。
その絵は単なる模様ではなかった。円の外側――ちょうど扉の真上には白と黒の翼を持つ鷺に似た鳥が描かれていて、鳥は長い嘴の先に小さな種を咥えている。
あれは神鳥ネス。
この世界の誕生に立ち会った《始まりの鳥》。
昼には白い翼で、夜には黒い翼で空を飛ぶと言われている《無垢なる者》――。
『遥かな昔、エマニュエルは見渡す限り何もない〝無〟の世界でした』
刹那、ジェロディの脳裏で響いたのは、幼い頃、母に何度も聞かせてもらった〝始まりの神話〟の一節だった。
教会の聖典で言うところの『エマニュエル創世記』。まったくの無であったこの世界に、神鳥が一粒の種を蒔いたところから始まる物語……。
『ある日そこへ一羽の鳥がやってきて、嘴に咥えていた種を落としました。すると種から芽が生えて、すくすくと育ちました。やがてそれは一本の立派な大樹となり、鳥は樹の上に巣を作りました。こうして何もなかった世界に、天樹エッツァードと神鳥ネスが生まれたのです――』
――天樹エッツァードは、神の血と同じ青の葉を茂らせる巨大な樹。
エマニュエルの空が青いのはその天樹の枝葉が世界を覆っているから、夜に星がきらめくのは天樹がその実に死者の魂を宿して輝くから、と言われている。
ネスはそんな樹の上で卵を産んだが、産卵から九日目、どこからともなく飛んできた流れ矢に当たり血を流した。その血から最初の二つ神である《白きもの》と《黒きもの》が生まれ、割れた卵が腐って魔物が生まれた。
そうしてそれを悲しんだネスの涙から、もうひとりの神が生まれた。
《大いなるイマ》――のちに《白きもの》《黒きもの》と交わり、天界の二十二大神を産み落とす〝母なる神〟である。
「けれどやがてイマを取り合って《白きもの》と《黒きもの》は争い始め、それぞれの子供たちが体を二つに引き裂かれた。それによって月が生まれ、太陽が生まれた。朝が生まれ、夜が生まれた。光が生まれ、闇が生まれた。天界から降ったイマの子らの血は海となり、肉は大地を形作った……」
その神話を諳んじながら、天井を見上げてジェロディは歩く。視線の先には太陽と月。朝と夜。光と闇――争う《白きもの》と《黒きもの》。それを嘆き悲しむ《母なるイマ》。
間違いない。この天井の壁画は円の中心に向かって渦を巻きながら、創世の神話をなぞっている。
少し先には二つ神の争いを止めるため、地上へ身を投げるイマの姿。
母の死を悲しみ、怒り、武器を取った二十二大神。
彼らと争う《白きもの》と《黒きもの》。
のちに《神々の眠り》をもたらす神界戦争の始まり――。
「す、すごい……これ、『エマニュエル創世記』の内容が全部描かれているんですか……?」
「うん……いや、だけどそれだけじゃない。あれをごらん。神界戦争の終わり、《嘆きの雨》が降ったあとに、獅子と鷲の紋章を掲げた人々の絵が描かれている。あれはハノーク大帝国のシンボルだ。そこから先はハノーク大帝国の歴史……それがずっと、円の中心に向かって――」
マリステアに説明しながら天井を指差し、ジェロディはゆっくりと絵画の渦をなぞった。ところがその指が渦の中心へ至ったところではっとする。
すぐ隣には、水晶に似た大きな石の前でひれ伏し祈るハノーク人たち。
そして渦の終着点には――真っ黒に塗り潰された〝無〟のような丸があるだけ。
「あの丸は……もしかして、ハノーク大帝国の滅亡を意味しているのでしょうか?」
「さて、どうだかな。これまでこんな壁画が見つかった例はない。過去、この遺跡に入った調査隊の記録にもこれの記述はなかったし、ここまで辿り着いた人間はたぶん俺たちが初めてだろう」
「つ、つまりこれは世期の発見ということか!?」
「恐らくは」
たちまち鼻息を荒くしたランドールを適当にあしらい、ジェイクはやはり壁画に見入っていた。その視線は渦の中心にあるあの黒丸へ向かっている。……あれがもし、大帝国の滅亡を意味しているのだとしたら。
(古代ハノーク人たちは、自分たちの帝国が滅亡することを知っていた――?)
不意にそんな考えがよぎって、ぞっとする。確かに母の遺した文献の中には、古代ハノーク人たちは当時非常に発達した未来予知の技術を持っていた、とするものがあった。
だがもしその話が事実なら、彼らは何故滅亡を防げなかった?
帝国が滅ぶことを事前に知っていたのなら、《大穿界》が訪れる前に何らかの対策を立て、崩壊を免れていたはず……。
彼らがそうしなかったのは、何か理由があったから?
それとも、できなかったから?
「まあけど、ここには壁画があるだけで特に目ぼしいもんはないですね。こいつが異変の原因ってことはないでしょうし、まずは扉を開けてみましょう。もしかしたらあのターシャってガキが待ってるかもしれません」
「……え? あ、ああ、うん」
と、オーウェンに声をかけられて、ジェロディはようやく我に返った。そう言えばすっかり忘れていたが、自分は古代の謎の調査に来たのではなく、この遺跡で起きているという異変を調べに来たのだ。
オーウェンの一言でやっとそれを思い出したジェロディは、恥じ入りつつも扉へ向かった。そこでは既にオーウェンが把手に手をかけているが、鍵でもかかっているのかどうも簡単に開きそうにない。
「ぐっ、くそ……この扉、固いな……!」
「僕も手伝うよ、オーウェン。一緒に体当たりして破ろう」
太古の遺産を破壊するのは本意ではないが、今は出口がここしかないのだから仕方がない。ジェロディはオーウェンと呼吸を合わせ、「せーの」で同時に床を蹴った。
そのまま左肩から突っ込み、扉にぶつかる。一度では破れそうになかったが、確かに手応えがあった。
そこから二度、三度と同じことを繰り返し――四度目。
ついにバキッと何かの折れる音がして、扉が開いた。
最後の手応えは思ったより軽く、勢い余った二人は扉の向こうへと転がり込む。
しかし慌てて踏み留まった。何故ならジェロディたちが飛び込んだ先には、底の見えない深い穴がぽっかりと口を開けていたからだ。
「うわっ……!?」
床の縁ギリギリのところで足を止め、尻餅をつきそうになったところでオーウェンに腕を引かれた。どうやら彼の方が一瞬早く後ろへ下がったらしく、ついでにジェロディの体も引き戻してくれる。
「ティノさま、大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……ありがとうオーウェン、助かったよ」
「い、いえ、今のはさすがの俺も肝が冷えました……にしても何だってこんなところにこんな穴、が――」
言いかけて、ときにオーウェンが口を噤んだ。彼の視線は穴の向こう、その更に先へ向けられている。
ジェロディもつられてそちらを向いた。そしてまず気づいたのは、穴はただの穴ではなく――巨大な溝だったということ。
扉を潜ってきたジェロディたちの目の前には、巨大な円形の溝が彫られていた。溝の幅はおよそ一枝(五メートル)ほどもあり、中心には床がある。
ジェロディたちの視線を釘づけにしたのは、その床の上。
そこに大きな台座があった。一見すると祭壇にも見えそうなそれはやはり円形で、中央の床の真ん中に備えつけられている。
「何だこれ……」
一同は揃って絶句した。理由は台座の上にあった。
そこで緑色の宝石が浮いている。並べば恐らくジェロディの身長ともそう変わらないであろう、あまりにも巨大な宝石が。
――あれは何だ? そもそも何故浮いている?
見れば石は淡い光を放っていて、円形の広間を緑色に照らし出している。そこには明り取りの窓もなく、光源は壁の常灯燭と宝石だけだ。
石自体が光っているということは、あれも緑光石だろうか? けれどあんなに大きな緑光石なんて、ジェロディは見たことも聞いたこともない。
「あ……あ、あ、あああああああっ!? あっ、あれは……!?」
刹那、背後から聞こえたランドールの大声に、ジェロディは肩を震わせた。かと思えば何事かと振り向くより早く、ランドールが目を剥いて突進してくる。
その勢いに危うく跳ね飛ばされそうになり、ジェロディは慌てて横へ避けた。が、当のランドールはそんなものなどまるで目に入っていないという様子で、床の縁から身を乗り出している。
「ら、ランドール隊長……? どうかしたんですか?」
「馬鹿者、どうしたもこうしたもあるか!! きさまら、あれが見えんのか!?」
「〝あれ〟って……あの宝石のことですよね?」
「違う、その中身だ!! あれは、あの輝きは紛れもなく……!!」
――宝石の中身、だって?
ランドールの言葉を受けて、ジェロディはもう一度宝石へ視線を投げた。
そこでじっと目を凝らす。チカチカと内側から光を放つ巨大な石。
その光に紛れて――何かある。それは石の中に浮いている。
あれは頭に円を戴いた……十字架?
その円の中には星。魂を意味する五芒星――。
瞬間、ジェロディははっとした。
いや、まさか。
そんなことは有り得ない。
だけど。
「あ、あれは、命神ハイムの神璽《星樹》……それじゃあ、まさか……!?」
「ああ、そのまさかだ! ついに、ついに見つけた……!」
ジェロディは悪寒がした。
すぐ隣で手をつき、目を見開き、脂ぎった頬に裂けるような笑みを刻んだランドールの横顔。それはどこからどう見ても、欲望を剥き出しにした人間の顔……。
その醜悪な笑みを緑色の光に照らされながら、ランドールが叫ぶ。
「探したぞ、《命神刻》……!!」
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