347.星のみる夢
カミラが医務室を訪ねたとき、運び込まれたコラードの傷はもうほとんど癒えていた。彼はシャムシール砂王国からの逃亡奴隷としてファリドにひどく殴られたようだが、事情を聞いて駆けつけたトビアスが、光刻の力で打ち身も擦り傷もたちどころに治していってくれたらしい。
「何でもトビアス殿やロクサーナも二十年前、ルエダ・デラ・ラソ列侯国でグニドナトスという竜人と交流があったようでね。ぜひ彼の子孫に会ってみたいと言って、私の治療が済むや否やまた飛び出していかれてしまった。おかげで落ち着いてお礼を言う暇もなかったよ」
とは、寝台の上で苦笑したコラードの言だ。傍らには彼が医務室に運び込まれたときから付き添っているメイベルの姿もあって、コラードのことがよほど心配だったのか、カミラがやってきたときにもまだ半ベソをかいていた。
ラファレイ曰く、トビアスが治してくれた傷の他には骨折などの所見も見られないため、コラードはもう持ち場に戻っても問題ないらしい。が、厄介なのは城内にまだファリドがいることだ。彼の処遇が決まるまでの間は、いつまた鉢合わせるとも知れない以上、念のため身を隠しておいた方が安全だろう。
「だけどほんとにどうなることかと思ったよ……やっとのことでジェロくんを見つけて戻ってみたら、コラードは殴り倒されてるし、カミラもいきなり攫われそうになるし、もう何が何だかって感じで……あのファリドって男、マジで何様のつもりなの? 信じらんない!」
「いや、まあ、何様かと言われればまぎれもなく王子様だが……しかし王子の目的がまさか救世軍に加わることだったとはな。ファリド王子に関しては、私も砂王国にいた頃からいい噂を聞いたことがない。だから正直、彼をコルノ島に迎え入れることには賛成できないが、日暮れまでに結論を出さないと島に危害が及ぶかもしれないとなるとな……」
「うん……一応テレルたちの希石を使って、ターシャがさっきこっそりコルノ島に戻ったけど、どのみちいま島にいる戦力だけじゃ竜人を相手にするのは難しいわ。たとえ撃退できたとしても、きっと少なくない数の犠牲が出るはず……」
「だが竜人たちはひとまずファリド王子の要請に従っているだけで、救世軍と戦うことを望んでいるわけではないんだろう? だとすれば例のグニクという竜人さえ説得できれば、彼らの侵攻を止められるかも……」
「そ、そうなの?」
「ああ……私も確証があるわけではないが、グニクは自らを〝ドラウグ族の戦士〟だと言っていた。竜人は死の谷のあちらこちらに部族ごとの縄張りを築いて暮らしていて、ドラウグ族はその中でも特に力を持つ一族なんだ。そして王子との関係性やハノーク語を話せることから考えても、グニクはドラウグ族の中でもかなり高位の竜人……つまり一族の長か、長の側近の地位にいる者のはず。竜人の中でハノーク語を学ぶのは、一族の代表として人間と交渉するような立場にいる者だけだと聞くからな」
というコラードの話を聞いて、そういうものなのかとカミラはいささか面食らった。何せ竜人と言えば野蛮で危険な──どちらかと言えば人類よりも魔物に近い生物だと思っていたから、彼らもまた人間のような社会や文化を持ち、独自の生活を営んでいる事実が衝撃的だったのだ。
(てっきりあいつらも魔物と同じで、知性なんてない生き物だと思ってたのに……そう聞くと何だか人間の方が悪者みたい。あのグニクって竜人もさっき、自分たちは人間の敵じゃないって言ってたけど……)
──おれたちが人間を襲うのは、生きるため。
そう言っていたグニクの言葉の意味が、コラードの話を聞いてようやく腑に落ちた気がした。食糧の乏しい砂漠で肉食の彼らが生き抜くためには、どんな生き物よりも数が多く狙いやすい人間を獲物とするのは自然の流れだ。だから彼らは人間が兎や鹿を狩るように人間を狩り、糧として喰らってきた。ならば人間もまた自分たちが〝肉〟として喰らう生き物に憎まれ、非難されて然るべきなのに、竜人だけを残忍で無知性な生き物だと断ずるのはあまりに傲慢な行いだと言えるだろう。
「じ、じゃあ、グニクを説得すれば本当に何とかなるのかな? さっきもカミラを助けてくれたし、話せば分かってくれそうな感じはあるけど……」
「……どうかしら。私もグニクからは敵意を感じないけど、トリエステさんは慎重に検討しないといけないって言ってたわ。だって竜人は、砂王国にとってかなり重要な戦力のはずでしょ? 単純に人間の何倍も強いってだけじゃなくて、動員するのにお金がかからないって意味で」
「え? そ、そうなの?」
「まあ、竜人と砂王国の同盟は、金ではなく食糧……つまり彼らに奴隷を供給することを条件に結ばれたものだからな。そもそも竜人の間には〝金〟という概念が存在していないんだ。彼らの経済は基本、原始的な物々交換で成り立っている」
「うん。だから砂王国は竜人との同盟を手放したくないはずで、なのにファリドが彼らと救世軍の間を取り持とうとするのはおかしいって……だってもし竜人がシャムシール人以外の人間とも友好的になっちゃったら、砂王国に協力する理由がなくなるじゃない? わざわざやつらから食糧を恵んでもらわなくたって、砂漠の外の人間と取り引きできるようになるんだから」
「あ……い、言われてみれば、確かに……」
「……とするとファリド王子は、本気で竜人と人間の架け橋になるつもりなどない可能性が高い、ということか。なら王子の真の狙いはむしろ、竜人同士の対立を煽ることかもしれないな」
「竜人同士の対立?」
「ああ。これは以前……その、エリク殿が教えて下さったんだが、竜人たちは今、人間との共存を目指す穏健派と、それを拒む好戦派の二勢力に分断されつつあるらしい。人間が竜人を憎むように、やはり竜人の中にも人間を拒絶する者が一定数いるそうなんだ。けれどそうした部族間の対立を治めるために奔走しているのがドラウグ族だと……エリク殿は砂漠で出会った竜人からそう聞いたと言っていたから、恐らくはグニクから教わったんだろう」
ところがそのとき、コラードが遠慮がちに告げた兄の名を聞いて、カミラはまたも胸を衝かれた。ああ、今日は本当に兄の名をよく聞く日だ。
しかも皆が口々に語るのは、カミラがまるで知らない兄の姿。エリクが郷を発つまでの十二年間、カミラは片時も離れることなく共に暮らし、兄のことなら何でも知っていると思っていたのに、実は彼が竜人の言葉を話せたことも、砂王国の王子と因縁を抱えていたことも、そして彼の真の名さえ知らなかった。
(エリク・ビルト・バルサミナ・セル・デル・シエロ……ファリドはさっきお兄ちゃんをそう呼んでた。バルサミナっていうのが貴族時代のお母さんの姓なのは知ってたけど、お兄ちゃんにも苗字があったなんて……)
少なくともカミラの知るエリクは、そんな仰々しい姓など持たないただのエリクで、彼がそれ以外の名を名乗ったことなど一度もなかった。そもそも郷民全員が聖祖タリアクリの子孫を自認するルミジャフタには姓という概念がなく、ゆえにカミラも兄がただのエリクであることに何の疑問も抱かず生きてきたのだ。
されどファリドから聞かされた兄の名を心の中で唱えてみると、まるで知らない他人の名前のように思えてぞっとする。ポンテ・ピアット城で束の間の再会を果たしたときには、やはり兄は兄のままだったと少なからず安堵したのに──ここに来て彼がまた、自分の知る兄ではなくなってしまったような気がして。
「ま、まあ、けどさ! とりあえず竜父様がご無事でよかったよね! ファリドと竜人の件も、竜父様が協力してくれるなら案外何とかなるかもしれないし……」
「……そのことなんだけどね、メイベル」
「うん?」
「実はさっき……竜父様にも言われたの。〝ソルレカランテで君のお兄さんに会ったよ〟って」
「えっ……」
「竜父様が黄都から無事に脱出できたのも、シグムンド将軍とお兄ちゃんのおかげだ、って言われた。刺客に襲われて重傷を負ったところを、ふたりに助けられたんだって……」
カミラが足もとに視線を落としながらそう言うと、メイベルとコラードが揃って息を飲むのが分かった。兄の名前が出たのを聞いてとっさに話題を変えようとしたメイベルの心遣いは有り難かったが、カミラがそもそもここへ来たのは、他でもないコラードと兄の話をするためなのだ。
「……コラードさん。コラードさんも黄皇国軍にいた頃、お兄ちゃんと面識があったんですよね。だけど、みんなも当然お兄ちゃんのことを知ってて、私のために敢えて話題に上げないんだと思って、黄都守護隊と鉢合わせるまでずっと黙ってたんだって聞きました」
「あ、ああ……あのときはすまなかった。私がもっと早くにエリク殿のことを伝えていれば、あんな形での再会は避けられたかもしれないのに……」
「いえ、いいんです。コラードさんがそんな風に思い込んだのも《天の繰り糸》のせいでしょうし……」
「……? イェハ……何だって?」
「ああ、すみません、こっちの話です。ただ私、今日のことがあって、郷を出たあとのお兄ちゃんのこと、ほんとに何も知らないんだなって思って……思い切ってガルテリオ将軍の部下だったウィルやリナルドって人にも聞いてみようとしたんですけど、会ってもらえなかったし……」
と、なおも顔を上げられないままカミラが言えば、コラードはまた小さく息を飲んだようだった。
されど刹那、カミラの脳裏に響いたのは、先刻応接室で聞いた竜父の言葉だ。
『カミラ。君のお兄さんは私の命の恩人だよ。オルランドが彼とシグムンドを傍に置いてくれなければ、私は間違いなく殺されていただろう』
『命を救ってもらったお礼にと、別れ際、君への言伝があれば伝えておくと彼に提案したのだけれどね。残念ながら頑なに固辞されてしまったよ。自分は君たちに対して何を言う資格も持たないと……自分のことは、黄皇国の一士官として忘れてほしいと言われただけだった』
『あれほど強くまばゆい魂を持っていながら、彼はやはりシグムンドと共に、あの汚泥の底のような場所に留まることを選んだんだよ。そんな場所だからこそ、自分には軍人として成さねばならない大切な使命があると言ってね』
『だから……カミラ。私がこんなことを言うのは痴がましいかもしれないが、どうか──』
悲しさとも寂しさともつかない感情を瞳に宿してそう話していた竜父の眼差しを思い出し、カミラは膝の上に置いた両手を握り締めた。
──どうか、彼を憎まないでやってほしい。
竜父は最後に、祈るようにそう言ったのだ。けれど彼に頼まれるまでもない。
あんなに優しかった兄を──世界中の誰よりもカミラを愛し、守り続けてくれた兄を、憎むことなどできるわけがない。ただ、だからこそ恐ろしくてたまらないのだ。カミラの知らない兄の姿に目を瞑ったまま、彼と剣戈を交えることが。
「だからもし、コラードさんさえよければ……軍でのお兄ちゃんはどんなだったのかなって、この機会にちゃんと知っておきたくて……」
「……そうか。生憎私は、ウィル殿やリナルド殿ほど彼と親しかったわけではないんだが……しかしお互い歳も近く、一軍の副将という立場を担う異邦人同士ということで、色々とよくしていただいたよ。私の知る限り、彼が君の兄だと言われて納得しない者はいないのではないかな。赤い髪という外見的特徴を差し引いても、聡明で正義感が強く、常に弱き者を助けようとする心のありようも、君はエリク殿にそっくりだから」
そう告げたコラードの言葉つきは、波立つカミラの心をそっと撫でやるように優しかった。おかげで視界が滲みそうになるのをぐっと堪えて、カミラは彼の次の言葉を待つ。
「さっきファリド王子が言っていたことを気にしているなら心配しなくていい。エリク殿が王子を斬ったのは、納められなかった税の形に身売りされたトラモント人の女性を助けるためだったと聞いている。エリク殿は黄皇国が人身売買を固く禁じているにもかかわらず、裏では平然と奴隷取引が行われていると知り、どうしても放っておけなかったんだそうだ。で、そうした祖国の実態について『護国の英雄』殿はどう考えておられるのだろうと、疑問に思ってグランサッソ城へ乗り込んだのがすべての始まりだったらしい」
「えっ……ぐ、グランサッソ城に乗り込んだ、って、つまりジェロくんのお父さんを直接問い質しに行ったってこと? 相手は一国の大将軍なのに……!?」
「ああ。そういうところもカミラにそっくりだろう?」
「た、確かに無謀というか後先考えないというか怖いもの知らずというか……!」
「メイベル……あなた、私のことそんな風に思ってたのね?」
「ははっ。まあ、もちろん直談判だけが目的で乗り込んだわけじゃなく、砂王国が黄皇国に進攻しようとしていると知って、ガルテリオ将軍に警告しなければと思ったのも一因だったそうだけどな。どちらにせよ、並の胆力じゃないことは事実だ」
「じ、じゃあ、そのあとほんとに砂王国軍の襲撃があって、そこでガルテリオ将軍の目に留まったってことですか?」
「ああ。だが将軍は、実を言うと戦の前からエリク殿のことが気になっていたようでね。さらに戦場でも類稀なる働きをしてくれたものだから、どうしても〝この人材を手放したくない〟と思ってしまったのだとおっしゃっていたよ」
「え……い、戦の前から気になってた、って……そ……それはお兄ちゃんが、部外者のくせにわざわざ城まで乗り込んできて、身内の不正を追及してくるような変わり者だったからですか……?」
「ふふっ……いや、もちろんそういう剛胆さを見込んだ部分もあったんだろうが、そもそも君たちのお父上──ヒーゼル殿がな。ガルテリオ将軍やシグムンド将軍と浅からぬ縁で結ばれた御仁だったからだよ」
「……え?」
「残念ながら私も詳しい経緯までは知らないのだが、何でもおふたりはかつて戦場で、通りすがりのヒーゼル殿に命を救われたことがあったらしい。おかげで彼と同じ赤髪のエリク殿を見て、ひと目でヒーゼル殿のご子息だと分かったそうだ。だからエリク殿を黄都へ招いて、当時の恩返しがしたいとお考えになったのさ。そこからさらに紆余曲折あって、将軍方のお人柄に惚れ込んだエリク殿も黄皇国に仕官することを決意したんだと言っていたよ」
コラードが聞かせてくれた兄が軍人となるまでの経緯は、カミラにとって驚きの連続だった。中でも特に面食らったのが、父とふたりの将軍が過去に接点を持っていたということだ。
(ってことは、私とティノくんは親同士も顔見知りだったってこと? お父さんの口からガルテリオ将軍の名前が出たことなんて、一度もなかったのに……)
それだけではない。刹那、カミラの脳裏には去年の春先、当時まだブレナンと名乗っていたトリエステに会いにいくべく通過したスッドスクード城でシグムンドと邂逅したときの記憶が甦った。というのもあのとき、カミラたちを旧救世軍の残党と知りながら逃がしてくれたシグムンドにヴィルヘルムが「本当にいいのか」と尋ねたとき、彼はこう答えたのだ。
『私は過日の恩をお返しするだけです』
(当時は私、まだ何も知らなくて……だから〝恩を返す〟っていうのも昔、真帝軍を助けたヴィルに対する言葉だと思ってた。だけど……)
もしかしたらあの日、シグムンドが自分たちを見逃してくれたのは、ガルテリオやエリクへの義理立てだけが理由ではなく。
本当に〝恩返し〟だったのだろうか。過日、戦場で出会った父への──
『ミレーナ』
瞬間、カミラの頭の中で不意に響いた声がある。
『ミレーナ。私には君のお父上に生涯をかけて返さねばならん恩がある。ゆえにいつでも頼りなさい。父性などというものとはまるで縁のない私には、ヒーゼル殿の代わりは務まらんだろうが──しかし君はもう、ひとりではないのだから』
分からない。誰だろう。……自分は一体誰だろう?
救世軍のカミラ?
いいや、違う。違ったはずだ。だって、私は──
「……シグ様……」
そのときカミラの唇は、まったくの無意識に彼の名前を呼んでいた。
分からない。何も分からないのにただ、ただ、胸が張り裂けそうな想いがする。
──会いたい。
今すぐ会いにいきたいです、シグ様。だって私は、黄都守護隊の、
「──ラ──ねえ──てよ──ミラってば──カミラ!」
ところが直後、にわかに肩を揺すぶられ、カミラははっと我に返った。
顔を上げれば目の前にはひどく狼狽した様子のメイベルがいる。
否、彼女だけではない。
寝台の上からこちらを見つめたコラードも、何かひどく動揺しているようだ。
「ちょっとカミラ、大丈夫……!? そんなに泣くほどつらいなら、やっぱりお兄さんの話を聞くのはまた今度にした方が……」
「え……? あれ……私……」
言われて初めて気がついた。どうやら自分は泣いているらしい。
試しにふと頬に触れてみると、思った以上に濡れている。けれども刹那、そうして自身の左手を見やった際に、さらなる異変が目についた。
「えっ、なんで……星刻が……」
革の手套の隙間から漏れ出す光に気がついて、カミラは手の甲が露出するように指口を引き下ろしてみる。するとやはり星刻が瞬き、チカチカと不規則に明滅していた。特に力を使ったわけでもないのに何故だろう?
まるで星刻に宿る自我が、何かを訴えかけようとしているみたいに──
「──カミラ!」
かと思えば今度は突然背後から呼びかけられて、カミラはぎょっとしながら振り向いた。が、まるで起き抜けのようにぼやけた思考が誰に呼ばれたのか理解するよりも早く、いきなり伸びてきた腕にガッと左手を捕まれる。
驚いて目をやれば、そこにいたのはひと際険しい表情をした、イークだ。
「い……イーク? どうしてここに……」
「お前、星刻は気安く使うなとあれほど言ったろ! 何やってんだ!」
「え……あ、いや、誤解よ誤解! 別に力を使ったわけじゃなくて、気づいたら星刻が光ってて……メイベル、コラードさん、私ほんとに何もしてないわよね?」
「あ、ああ……確かに星刻を使った素振りはなかったが……」
と、コラードはカミラの主張を擁護してくれたものの妙に歯切れが悪く、依然として当惑している様子だった。見ればメイベルも同じ状態で、先程からカミラに戸惑いと不安の入り混じった視線を注いでいる。
そんなふたりの反応を見て、さては自分から兄の話題を切り出しておきながら泣きじゃくってしまったせいかと思ったカミラは、慌ててごしごしと顔を拭った。
と同時にすっくと立ち上がり、仕切り直すためにイークへと向き直る。
「と、ところで何か用? ていうか、私がここにいるってよく分かったわね?」
「……ウォルドからだいたいの話は聞いた。砂王国の王子が竜人の大群を率いて乗り込んできたんだろ?」
「う、うん……だけどファリドと揉めてたところにちょうど竜父様が帰ってきて下さって、なんか話し合いの場がゴチャゴチャし出したから、一旦ティノくんとトリエステさんの方で状況を整理するってことになったの。それが済むまで私たちは待機だって……」
「……そうか。ならちょうどいい。お前、ちょっと面を貸せ」
「え?」
「大事な話があるんだ──今すぐ角人たちのところへ行くぞ」




