327.白き闇を泳いで
その瞬間、頭の中が真っ白になり、茫然と立ち尽くすことしかできなかった自分を、ジェロディはのちに激しく責めることになる。
「そ……そんな……か、カミラが……」
と、彼女が呑み込まれた白い闇を見つめて呻いたのは、オーウェンだっただろうか。刹那、思考も体も凍りついたジェロディの視界の端で何かが動いた。が、辛うじて目だけを動かしそちらを見やった直後、ジェロディはさらに絶句した。
何故ならジェロディの視界の端を走り抜けたイークが、一瞬の迷いも感じさせない足取りで、吹雪の中へ飛び込むのが見えたから。
「待て、イーク!」
寸前で気づいたヴィルヘルムが声を荒らげたが無駄だった。
イークは崖から転落したカミラを追って、空中へ身を投げた。
それを見てようやく我に返ったジェロディも、とっさに彼に続こうとする。
ところが岩の地面を蹴るや否や、腕を掴まれてがくんと引き戻された。
見ればすんでのところでジェロディを捕まえたのは、ジェイクだ。
「ジェイク、何を……!」
「馬鹿な真似はやめろ、ジェロディ。あんたまであの崖に飛び込んだりしたら、何のための決死隊か分からなくなるぞ!」
「だけど、カミラが……カミラとイークが……!」
「今あんたが飛び降りたところで助からねえよ! ここまで登ってきたときに見えただろ、こっから地面まで何枝あると思ってる!」
「じゃあふたりを見捨てるって言うのか!?」
「お、落ち着けジェロディ殿、ふたりももちろん気がかりだが、今は……!」
と、そこへ割って入ってきたゲヴラーが切迫した様子で見やった先には、喉を押さえてのたうち回るひとりの諜務隊士の姿があった。
先刻、邪螂蜘蛛の奇襲からジェロディをかばって毒針を受けたあの隊士だ。
地面に倒れたまま激しく痙攣し、白眼を剥いて苦しむ彼の名をシズネが必死に叫んでいる。その様子を見て我に返ったジェロディも助けなければと思ったが、すぐに術がないことに気づいて愕然とした。そうだ。今のジェロディたちには彼を救う手立てがない。何せ傷や毒を癒やせる神術の使い手はひとりもなく、唯一時戻しの術でそれが可能だったカミラも今は白魔に呑まれてしまったのだから。
ほどなくシズネの呼びかけも虚しく、口から大量の泡を吹いた諜務隊士は苦悶の表情を浮かべて動かなくなった。彼の全身を覆っていた痙攣も止まり、ジェロディの視界の真ん中で真っ黒に揺らめいていた死影がふっと掻き消える。
彼の呻きとシズネの呼び声が止むと、あたりはしんと静まり返った。
聞こえるのは轟々と吹き荒ぶ吹雪の叫びのみ。
「そ……そんな……こ、ここまで、あんなに順調に来れたってのに……ひ、ひと晩に、三人も……?」
と、やがてへなへなと腰を抜かしたパオロが目に涙を溜めながら声を震わせた。
違う。カミラやイークはまだ死んでいない。
そう反論したいのに、何かひどく冷たいものが喉に閊えて、声が出ない。
「……シズネ、すまない。魔物の残党がいることに気づけなかった俺の落ち度だ」
ほどなく死んだ仲間の傍らに座り込み、うなだれているシズネにそう声をかけたのは、剣を鞘に収めたヴィルヘルムだった。されどシズネはうつむいたまま首を振り、彼を責めるつもりはないことを無言で示す。確かに魔物はすべて片づけたと思い込み、油断してしまったのはここにいる全員の責任だ。
ならばヴィルヘルムひとりを責めるわけにはいかない。魔物の不意討ちに反応が遅れ、仲間をひとり身代わりにしてしまったジェロディは、なおさら。
「……で、どうする、ヴィルヘルム。イーク殿と嬢ちゃんは……」
「あのふたりを探すのは、夜が明けて吹雪が止んだあとだ。今、俺たちが捜索に出たところで犠牲者が増えるだけなのは目に見えている」
「け、けどよ、旦那……仮にふたりがまだ生きてたとしても、この吹雪じゃ……助けるなら、今すぐ探しに行くべきなんじゃ……」
「そうしたくとも、どのみちカミラの案内なしに山を下るのは無理だ。ふたりが落ちた地点へ辿り着くには、登りとは別の道を探す必要がある。そこへ行くまでの間にふたりが移動してしまう可能性もあるしな」
「ちょ……ちょ、ちょいと待って下せえ……ヴィルヘルムの旦那は、どうしてそう落ち着いていられるんです? ほ、他でもないカミラの嬢ちゃんが崖から落ちたんですぜ? 今までのあんたなら、イークの旦那と一緒に飛び降りてたっておかしくねえってのに……」
「確かに以前までの俺は、カミラの護衛として雇われた傭兵だったからな。だが今の俺は救世軍の将のひとりだ。だとすれば、味方にとって最善と思われる行動を取るのは当然だろう。第一、カミラはこの山では死なん。あいつの傍にいる限りは、イークもな」
と、震えるパオロに返されたヴィルヘルムの答えに、ジェロディは強烈な違和感を覚えた。カミラはこの山では死なない、だって?
けれど先刻、ヴィルヘルムは確かに言っていた。
彼女の左手に刻まれた星刻は宿主の死を望んでいるのだと。
だとしたらヴィルヘルムの発言には矛盾がある。
こんな状況でカミラがひとり、吹雪の山中へ放り出されたと知ったなら、星刻はここぞとばかりに彼女を死へ誘おうとするはず……。
「……ヴィルヘルムさん、教えて下さい。あなたは本当にカミラが無事だと思っていますか?」
「……」
「さっきあなたは言ってましたよね。星刻の望みはカミラを操って死へ向かわせ、彼女という器から解放されることだと」
「は? な……何の話です、ジェロディ様?」
「だとしたら、カミラが無事でいる保証なんてない。今すぐ彼女を助けに行かないと、きっと取り返しのつかないことに……!」
「……ああ、そうだ。だがジェロディ、お前は疑問に思わなかったか? 星刻がカミラを殺す機会など、これまでにも無数にあったはずだ。だのに何故やつらは今もカミラを生かしていると思う?」
「そ……それは……」
やはり取り乱す様子もないヴィルヘルムから反問され、ジェロディは当惑した。
しかし言われてみれば確かにそうだ。ジェロディが知る限りでも、星刻がカミラに宿ってから彼女に訪れた命の危機は一度や二度なんてものじゃない。
たとえばフォルテッツァ大監獄で遺跡の罠に落ちたとき。オヴェスト城で魔族に襲われたとき。ソルン城でハクリルートに殺されかけたとき。
そしてオーウェンを救うべく、たったひとり、父へと立ち向かったとき……。
「た……確かにカミラは何度も危険な目に遭ってきましたけど……今まで無事でいられたのは、星刻がまだカミラと同化し切れていなかったから、とか……」
「いいや、違うな。より正確にはやつらの目的は、単にカミラを殺すことではないからだ」
「ど……どういうことです?」
確信に満ちたヴィルヘルムの返答に、ジェロディは思わず固唾を飲んで聞き返した。ふたりのやりとりを傍観しているしかない他の仲間たちはみな困惑した様子でいるものの、今のジェロディには彼らのことまで気にかけている余裕がない。
「覚えておけ、ジェロディ。やつらの……星刻の望みはただひとつ──カミラがエリクに殺される未来、それだけだ」
やがてヴィルヘルムが紡いだ言葉は、ジェロディの思考を再び真っ白にした。
白い闇が頭の中にまで浸蝕し、すべてを凍らせてしまうかのようだ。
そう、いつかエリクのことを「世界で一番優しい人だ」と言って笑っていた、あの日のカミラの横顔さえも。
◯ ● ◯
絶壁の縁から身を投げた瞬間、イークは腰に提げていた氷鉞を引き抜いた。
落ちてゆく先の地面は見えない。この断崖の正確な高さも、先に転落したカミラの行方も、吹雪と夜闇に覆われて何も見えない。されどイークに恐怖はなかった。
あるのはただ、カミラを追わなければという強烈な焦りのみ。
ゆえに迷わず崖から飛び降り、凍てつくような寒さを伴う浮遊感に全身を嬲られながら、岩壁に思い切り氷鉞の刺先を叩き込んだ。
すると硬質な手応えののち、氷鉞を握った両腕にすさまじい衝撃が走る。
下手をすれば氷鉞が手からすっぽ抜けてどこかへ飛んでいってしまいそうな振動に、イークは歯を食い縛りながら両足も岩壁へ押しつけた。そうして長靴の底に打ち込まれた鋲を岩肌に噛ませ、さらに落下の勢いを殺そうとする。
こんなことなら鉄樏も履いたままでいればよかったが、あれは横になる際に邪魔だからと、はずして洞穴に置いてきてしまった。
おかげで思ったよりも減速しない。あまりの衝撃で靴底からはずれたいくつもの鋲が、甲高い悲鳴を上げながらあちこちへ飛んでいくのが分かった。
もうどれくらいの距離を落ちたのか。地面はまだか。目の前の岩壁すらもろくに見えない暗闇の中、イークは眼下の様子を窺おうと振り向いた。
が、その瞬間ひと際大きな衝撃が両手に走り、耳のすぐ横を何かが掠めていく。
同時にイークの全身は再び情け容赦のない浮遊感に包まれた。氷鉞の頭部が落下の勢いとイークの体重に耐え切れず、柄からはずれて飛んでいってしまったのだ。
──ああ、くそ。ここまでか。
そんな思考が一瞬脳裏をよぎったが、すぐにまだだと思い直した。
何故なら諦めかけた頭の片隅で、不意に自らを呼ぶ声を聞いたからだ。
『俺はもうあの子と同じ道を歩めない。だから、イーク──カミラを頼む』
エリク。
袂を分かったはずの親友の名を呼び返すと、途端に魂が燃え上がった。落下の勢いで舞い上がる外套の下に手を突っ込み、腰に回した鞘から短剣を引き抜く。
真白い闇の中にあってなお白い、大蛟の骨から削り出されたエリクの短剣だ。
それをもう一度、力の限り岩壁へ突き立てた。一刹那ののち、ほんのわずか減速したかと思われたところに、またしても両手へ衝撃が走る。
「おっ……わっ!?」
イークはそのまま宙空へと投げ出され、直後、寸前まで感じていたのとはまた別種の衝撃が総身を打った。と同時に耳もとでズボボボボと音がして、体が沈み込むのを感じる。そこに至ってようやくイークを嬲り続けていた浮遊感は消え去った。
代わりに体中が痛い。おまけにひどく冷たい。どうやらイークはついに断崖の終着点へ辿り着き、落下の勢いで雪の中へと埋まったようだ。
「う……くそっ……何も見えねえ……」
と、寒さと痛みで軋む体をどうにか起こし、イークは雪上へと這い出した。
骨の一本や二本折れるのは覚悟の上で飛び降りたつもりだったが、手足は問題なく動く。全身を強く打ちつけた痛みこそあれど、幸い雪が緩衝材の役割を果たしてくれたおかげで骨折は免れたようだ。
「……っ、カミラ……」
その事実を確かめたイークは、先に落下したカミラを探さなければと体を起こした。が、やはり周囲にあるのは闇ばかりだ。
月明かりすらない夜で、視界は一葉(五センチ)もきかない。瞼を開けていれば必ず目に入るはずの自分の鼻さえ見えない状況に、イークは束の間立ち尽くす。
(明かりになりそうなものは何も持ってこなかった。となると方法は一つか……)
そう判断したイークは迷わず右手の手套をはずし、そこに刻まれた雷刻に神力を込めた。すると稲妻の姿をした神刻が光を帯び始め、さらにバチバチとわずかな雷気がほとばしる。
おかげでほんのわずかではあるものの、周囲がいくらか明るくなった。よし、と頷いたイークはまず、自分を救ってくれた蛇骨の短剣を鞘へ戻そうと目を落とす。
が、途端に思わず絶句した。
何故なら手の中の短剣は、白い刀身が半ばからぽっきりと折れていて、あんなに美しく反り返っていたはずの切っ先ごとなくなっていたからだ。
「や……やっちまった……」
少し冷静になって考えれば当然の結果ではあるのだが、親友からの借りものを壊してしまったという事実に、イークは少なからず慄然とした。
しかしこれもカミラを救うためには仕方なかったことだ。そう、すべてはお前の妹のためだったと言えば、エリクもきっと許してくれるはず……とどうにか思い直したところで、イークはようよう我に返った。そうだ。今は短剣を折ってしまった言い訳を考えている場合ではない。最優先すべきはカミラの捜索だ。
彼女は魔物と共に崖下へ転落した。ということは、イークのように雪が緩衝材となって助かったとしても、一緒に落ちてきた魔物に襲われている可能性がある。
しかも相手はよりにもよって、カミラがこの世で最も恐れている邪螂蜘蛛だ。
「カミラ……カミラ! いたら返事をしろ! カミラ……!」
周囲に視線を巡らせながら声の限りに呼びかけるも、応答はなかった。
というかそもそも吹雪のうなりがひどすぎて、どれだけ耳を澄ましてみても吹き荒れる風の音しか聞こえない。おまけに神気の明かりで照らしたところで、見えるのは横殴りの雪だけだ。こんな状況で果たしてカミラを見つけられるのだろうか?
いや、見つけなければならない。
イークはそう決意して、白い闇の中へと踏み出した。雪はイークの体が一度完全に埋まっただけはあり、腰の高さほどまで積もっている。
おかげでひどく歩きづらい。イークが黄皇国へ来てもうすぐ五年になるが、これほどの大雪を経験するのは初めてだ。まったく雪の降らないグアテマヤン半島で生まれ育ったイークには、この吹雪の中をどう進むのが正解なのか分からない。
「カミラ、どこだ! 聞こえたら返事しろ! ゲホッ……」
見渡す限り真っ白な世界で、雪を掻き分け掻き分けして前進しながら、イークは自分の吐く息までもがどこまでも白くたなびくのを見た。
少しでも声が通るようにと襟巻きで口もとを覆うのもやめているため、吹雪が口の中にまで吹き込んで喉を凍らせてしまいそうだ。全身は震えるほど寒いのに、熱い。何重にも重ね着した衣服の中に熱が籠もっているから、というのだけが理由ではない。恐らくは昨夜から続いている高熱のせいだろう。
熱自体はトラクア城を発つ前からあったのだが、ラファレイに処方された薬によってある程度治まっていた。それがここ数日の登山が祟ってぶり返したらしい。
(くそ……さっきヴィルヘルムに飲まされた薬は……まだ効かないか)
あるいはさっきの戦闘も含めてまた無理をしたせいで、症状が薬の効能を上回ってしまったのか。おかげでひどく息が弾む。心なしか目も霞んでいるようだ。
頭も引き続き割れるように痛い。唯一吐き気だけはだいぶマシになったものの、今のままでは自分もどれほど持つか分からない。
(カミラ……どこだ……)
ついには息が上がって声も出なくなり、イークは倒れそうになる体を、雪の中から突き出した岩に手をついて支えた。もはや暑いのか寒いのか自分でもよく分からない。手や顔など、露出した皮膚の感覚は既に痺れて無いに等しく、立っているだけで世界がぐるぐる回るようだ。このままではまずい。
カミラを見つけ出す前に自分も遭難し、二度と仲間のもとへ帰れなくなる……。
(……頼む、フィロ。あいつは……カミラだけは、まだ連れていかないでくれ)
やがて脳まで凍り始めたかのごとく朦朧とする意識の中で、イークは願った。
何せ自分は託されたのだ。恩師にも親友にも、カミラのことを。
何よりあの晩、イークは聞いた。
ガルテリオ率いる第三軍とぶつかった日から丸一日が過ぎた夜。夜中に病室でふと目を覚ますと、衝立の向こうからカミラとジェロディの声が聞こえた。
カミラは気づいていなかったようだが実は当夜、あそこにはイークやウォルドやリチャードも居合わせていたのだ。まあ、他のふたりもカミラたちの話し声に気づいていたのかどうかは定かではないものの、翌朝起床するなり隊務に復帰すると強硬に主張し出した事実から考えるに、恐らくは同じ会話を聞いたのだろう。
おかげで改めて誓った。
自分たちは必ずやカミラとジェロディを守り抜き、救世軍を勝利へ導くと。
血のつながった家族との絆を振り切ってまで救世軍のために戦うと告げたふたりの想いを、絶対に無駄にしたくない。守ってやりたい。そして願わくは彼らにも救世軍が築く新たな国で、今日までの痛みや苦しみが報われる余生を送ってほしい。
(俺は、あいつらが……カミラがもう一度、エリクと暮らせる未来を……星刻の思惑なんざ、知ったことか。だから、フィロ。頼む──)
お前を救えなかった罪は死ぬまで背負う。
お前が国のために抱え込んでいたものも、すべて代わりに引き受ける。
だから、どうか。どうかカミラを助けてくれ。連れていかないでくれ……。
イークがうなだれながらそう念じ、震える奥歯を噛み締めてもう一度顔を上げたそのときだった。
「……あ?」
と思わず声が出たのは、再び歩き出そうと力を込めた右手に妙な感触があったためだ。吹雪に晒された冷たい岩の感触とは違う、ぬるりとした液状の手触り。
それを手套をはずした指先に感じて、イークはふと我が手を見やった。
次いでひゅっと息を呑む。何故なら神気の明かりに照らされた指先には、この寒さでもまだ凍っていないほど新しい、人間の血が付着していたから。
「カミラ……カミラ、いるのか!? どこだ!?」
まさか。まさか、まさか、まさか、まさか。
信じたくない一心で、イークはもう一度声を張り上げた。岩に血がついているということは、もしやカミラは崖から落ちてここに叩きつけられたのか?
だとしたら恐らく無事ではない──いや、そんなはずはない。あってたまるか。
イークは寒さから来るのとは別の震えが足もとから全身を覆うのを感じた。
されどそれを振り切るように、なおも声を上げてカミラを呼ぶ。
そうして再び歩き出そうとした、刹那。
イークは白い闇の向こうで、何かがチカッと瞬いた気がした。
何だと思い目を凝らしてみると、さらに二、三度チカッ、チカッと一枝(五メートル)ほど離れたところで何かが不規則に光っている。
その光に吸い寄せられるように、イークは無心で歩き出した。さっきよりもさらに高さが増しているように思える雪を掻き分け、前へ、前へと押し進む。
そして見つけた。例の光は雪の下から発せられていた。目の前に一箇所だけ不自然な雪の窪みがあって、そこに新たに積もった雪の下で何かが光っているのだ。
そう気づいた瞬間、イークは取り憑かれたような勢いで雪を掘り出した。
予感はすぐに確信に変わる。
「カミラ──」
イークが掘り起こした薄い雪の下には、全身真っ白になって眠るカミラがいた。
頬も髪も身につけた着衣も、すべてが雪にまみれて白い。
イークはその体を支えて起こし、声もなく抱き寄せた。胸に聞こえる弱々しい鼓動に合わせて歌うように、手套の下の星刻が瞬いている。
 




