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20.ようこそ、救世軍へ


 昔、カミラは父から聞かされたことがある。

 なんてことはない、父の若かりし頃の武勇伝……というか自慢話だ。

 (いわ)く、カミラの母はルエダ・デラ・ラソ列侯国(れっこうこく)の貴族の出で、それはそれは美しい人だったのだとか。父はクィンヌムの儀の最中に傭兵として列侯国へ渡り、そこでカミラの母と出会った。ひと目惚れだった、と彼は照れくさそうにそう言った。

 だから彼女を奪ったのだと。

 まあ、早い話が略奪婚だ。ふたりは列侯国で出会って恋に落ち、身を焦がすほどに愛し合って結ばれた。母は父のためなら貴族としての身分など簡単に捨ててしまえるような人だった。と言ってもカミラは直接母と会ったことがないから、彼女がどれほど美しい人だったのかは分からない。父曰く〝奪いたくて気が狂いそうになるほどの美人〟だったそうだが、果たしてそんな人間がこの世にいるのかと、カミラはその母から生まれた子ながらずっと半信半疑だった。ゆえに思う。


 ──ごめん、お父さん。お父さんの話は本当だったわ。


 この世にはそんな女性が確かにいる。

 たとえば今、カミラの目の前にいるフィロメーナ・オーロリーがそうだ。

 かつて黄都(こうと)ソルレカランテで貴族として暮らしていたという若き令嬢。その栗色の髪は(つや)めきながら腰まで伸び、唇は淡い桃色をしている。

 白皙(はくせき)の小顔に収まったパーツはどれも神の創造物みたいに整っていて、くりっとした青灰色(せいかいしょく)の瞳を飾る睫毛(まつげ)は美しく反り返っていた。歳は確かイークの二個上だと言っていたか。いや、この際年齢なんてどうでもいい。たとえ彼女が(よわい)六十を数える老女だったとしても、カミラはきっと同じように美しいと思っただろう。


 ごくり、と無言のままで生唾を飲む。同性のカミラですら彼女のまとう清楚な色香にここまで当てられるのだから、そりゃあ男のイークなんてイチコロだろう。

 この衝撃はちょっと筆舌に尽くしがたい。何故って白状してしまえば、カミラは〝革命軍総帥〟といういかにもいかつい肩書きから、フィロメーナという人はきっと女だてらに(たくま)しく、睨まれたら泣く子も黙る、みたいな容姿なんじゃないかと予想していた。しかしその予想と現実のギャップたるや。

 カミラは自分のひどすぎる想像力を呪いたかった。

 腰には細身の剣こそ()いているものの、戦士らしさなど微塵も感じられないフィロメーナの立ち姿はいっそ神々しいほどだ。これが女神です、と言われたらカミラはきっと手放しに信じるだろう。もっともかつて世界を支配していた神々には、男とか女とかいう性別は存在していなかったというけれど。


「詳しい話は先に戻った兵たちから聞いたわ。作戦は上手くいったみたいね」

「おう、そりゃもう面白いくらいに大当たりだったぜ。命令書が偽造だってこともまったく気づかれなかったし、さすがはオーロリー家のご深謀ってとこだな」

「やめてちょうだい、ウォルド。褒めたって何も出ないんだから。だけどこれでオディオ支部発足のための地固めはできたわね。あとは資金さえ集まれば……」

「トラジェディア支部からの鉄鉱石はいつ届く?」

「予定どおりにいけば来月末。ただスミッツから、今回は水路を取ると連絡が来ているから……」

「問題は湖賊か」

「ええ。タリア湖ではライリー一味の略奪行為が活性化してると言うし、何事もなければいいのだけれど」

「そいつが無事に届いたとして、あとは根回しした豪族や商人からの献金次第ってとこか」


 右頬に走った古傷を撫でながらウォルドが言い、フィロメーナがそれに頷いた。

 そんな三人の会話はカミラの頭上をビュンビュンと飛び交うだけで、まったく耳に入ってこない。端的に言えばカミラはフィロメーナに見とれていた。見とれすぎて何も考えられなかった。彼女が何か口を開くたび、その艶やかな唇からは言葉じゃなくて珠が零れているかのようだ。それでいて同じ女として悔しいとか、自信を失くすとか、そういう感情が一切生まれてこないのが不思議だった。

 たぶんこの麗しき救世軍のリーダーは、そういう次元を超越してしまっているのだろう。だからカミラの凡俗な思考力では存在を捉えきれない。

 同じ人間の女だと認識できていない、ということだ。


「ところで、その子がアルドの言ってた……」


 と、そのときイークの陰に隠れるように突っ立っていたカミラをフィロメーナが覗き込んできて、一瞬心臓が止まるかと思った。というか口から出そうだった。

 だって目、が、合った。二重でパッチリしているけれど、それでいて愛らしいという感じではなく、大人びた知性と品格を備えた瞳と。


「ああ、こいつがカミラだ。色々あってジェッソでも一緒に戦った。本人の希望でどうしても俺たちの仲間に入りたいって言うんでな」

「思ったより若いのね。イークの幼馴染みだって聞いたけど?」

「腐れ縁の間違いだ。ほら、カミラ。自分でも何か挨拶しろ」

「まっ……」


 と、カミラはとっさに意味不明な言葉を発してしまった。

 何故ならイークが問答無用でカミラをフィロメーナの前へ引き出したからだ。

 彼女と正面から差し向かうことになったカミラはその場に固まり、何か言わなければと口を開いた。が、頭の中は真っ白で、ここまで来る間に考えていたあれやこれやは完全に吹っ飛んでしまっている。


「あ、あの、えっと、は、はじめまして……! ほ、本日はお日柄もよく……!」


 ──お日柄もよくってなんだ。言ってから内心自分でつっこみ、カミラは早くも身を翻して逃げ出したい衝動に駆られた。案の定フィロメーナはカミラの向かいで首を傾げている。違う、違う違う、そんなことが言いたかったわけじゃなくて、ああでも何を言おうとしてたかまるで思い出せない!


「え、えっと、その、ごっ、ご紹介に(あずか)りました? か、カミラ、です……出逢いを(テオ・キン)神に感謝します(・レゾ・カマーティ)

「まあ。それ、もしかしてルミジャフタ語?」

「は、はい……今のは相手に最大の敬意を払うときの決まり文句で……」

「ありがとう。だけどそんな挨拶、イークには一度もされたことがないわ。つまり私にはちっとも敬意を払ってくれていないということかしら?」

「なっ、なんでそうなる! お、俺はルミジャフタ語なんて話したところで通じないと思って……!」


 いきなり自分に矛先を向けられ、イークは慌てたように弁解した。が、そんな彼の様子を見たフィロメーナは歌うように笑って「冗談よ」とイークを(なだ)めにかかる。そのときカミラは急に目が覚めたようになって、何だか無性にホッとした。

 ──なんだ、この人も冗談とか言うんだ。

 それはつまり、彼女もカミラたちと同じ人間だということ。

 ここにきてようやくそう思えた。


「ジェッソでは救世軍に力を貸してくれてありがとう。私はフィロメーナ。ここで一応総帥の真似事みたいなことをしているわ」

「ま、真似事っていうか立派な総帥ですよね……?」

「肩書きはね。だけど実際はまだまだ力不足で」

「おいフィロ、あんまりそういうことを人前で言うなよ。立場には権威ってモンが必要だ。それをわざわざ……」

「分かってるわよ、ウォルド。だけど女性の志願者なんて珍しいから、彼女には嘘をつきたくなくて」

「まあ、ここで立ち話も何だ。奥にギディオンもいるんだろ? 詳しい事情は向こうで話す。ジェッソでのことの顛末(てんまつ)もな」

「それもそうね」


 イークからの提案に頷いて、フィロメーナはカミラを導くように「こっちよ」と(きびす)を返した。途端に彼女の羽織る巻きマントの(すそ)(ひるがえ)り、白い布地と青い刺繍が薄闇の中でふわりと踊る。芸術品だな、とカミラは思った。

 彼女のまとうマントが、ではない。彼女の存在そのものがだ。けれど最初の印象よりは、カミラは彼女を近しい存在として認識できるようになっていた。

 だって、嘘はつきたくない、と言ってくれたから。さりげない言葉つきだったけれど、思い返すとカミラの胸は初恋を知った少年みたいに高鳴っていく。


「ギディオン。イークたちが戻ったわ」

「それは重畳(ちょうじょう)


 と、ときに先を歩くフィロメーナが奥の部屋へ入った頃、入り口の向こうから低い男の声が聞こえた。しかつめらしい口調だけれどちょっと(しわが)れているような。

 カミラの感じたその印象は間違いではなかった。入り口をくぐるとその先には二十人くらいならすっぽり収まりそうな部屋が広がっていて、そこにひとりの老人の姿があった。老人、といってもやや面長の顔に刻まれた(しわ)の数々からそう見て取れるだけで、居住まいはまったく老人らしくない。背筋はしゃんと伸び、座高があって、立てばウォルドと並びはせずともかなり背が高いような気がする。


 もともとそういう色なのか、それとも加齢に伴って色が抜けたのか、白に近い灰色の髪を後ろへ撫でつけたその老人は壁際に寄せた木の椅子に深く腰かけていた。

 それでいて鞘ごと剣を床につき、柄に両手を預けている。

 顔だけみれば年齢は六十がらみ。エマニュエルにおける人間の平均寿命は五十そこそこだから、もしもカミラの見立てが間違っていないとすれば長生きな方だと言っていいだろう。そんなことを考えながらまじまじと老人の様子を(うかが)っていると、その目が急にこちらを向いてカミラは「ひっ」と言いそうになった。

 何せその眼光があまりに鋭い。怖い。見た目もかなり厳格そうで、それこそ百戦錬磨の士、といった威圧感がある。けれどもその老人に向かって、


「よう、ギディオン。戻ったぜ」


 と、ウォルドがまったく物怖じせずに片手を挙げるものだから、カミラは度肝を抜かれた。いや、確かにウォルドは神経太そうだけど。


 でも、だからってちょっとフランクすぎない? 怒られない……?


「これは、イーク殿にウォルド殿。ご無沙汰しております」

「ジェッソはさすがに遠かったからな。長らくあんたひとりにここを任せちまって悪かった」

「何の。何もかも若人に任せてのんびりしていたのでは、体だけでなく剣まで老いてしまいますのでな。たまには儂のような老骨もお役に立ちませんと」

「ははっ、さすが剣鬼(けんき)殿は言うことが違えな」


 ……あれ? 意外と向こうも友好的? というか、かなり紳士的?

 カミラは老人──名はギディオンというらしい──の反応を意外に思った。

 見た目は怖そうだけど物腰は穏やかで、実はいい人なのかもしれない。

 笑うと思いのほか人懐っこいし。

 なんだ、それならやってけそうと胸を撫で下ろしたカミラの横をそのとき「ど、どうも」と会釈(えしゃく)しながらアルドが通り過ぎた。どうやら外の見張りに戻るようだ。

 そちらとも目が合ったカミラは、もう一度抜かりなくニコッとしておいた。

 その微笑みがアルドを一瞬で悩殺したことをカミラは知らない。

 アルドは走り去った。風のごとく。


「して、そちらが」

「ええ、彼女がカミラよ。カミラ、こちらはうちの斬り込み隊長で元軍人のギディオン・ゼンツィアーノ。彼とイーク、ウォルドの三人が今の本部を支える三幹部なの。他にも各地の支部をまとめてくれているメンバーがいるのだけれど、そっちはまた追々ね」

「よ、よろしくお願いします!」


 一瞬、何故か廊下を全力疾走していくアルドに気を取られていたカミラは慌てて向き直り、姿勢を正して声を上げた。それにしても元軍人ってことは、つまり軍から救世軍に寝返ったってこと? それとも軍を引退して……?

 などと疑問は次々湧いてきたが、初対面からいきなり穿鑿(せんさく)するわけにもいかない。何よりギディオンもカミラを向いて「こちらこそ」と口髭を綻ばせてくれたので、細かいことはどうでもよくなった。

 早速受け入れてもらえたみたいで素直に嬉しかったから。


「──そう……ジェッソでそんなことがあったのね。自分たちの自尊心を満たすために勇気ある行いをした女の子を罰しようとするなんて、相変わらず我が国の兵のご立派なこと」


 それからカミラは部屋の中央に設けられた大きな机の前に座って、フィロメーナにイークたちと共闘することになった経緯を説明した。

 普段は作戦会議などに使われているのだろう、八人くらいなら余裕で同席できそうな机の上には何やら難しい書類とか、びっしり書き込みのされた地図なんかが置かれていて、本当にここが救世軍の本部なんだ、という気がする。

 一方話を聞いたフィロメーナは向かいに腰を下ろしたまま、しばし顎に手をやって何か考え込んでいる様子だった。

 いや、というよりもこの国の現状を(うれ)えて物思いに(ふけ)っている、といったところか。そうして微かに眉を曇らせている姿まで絵になるような美しさだ。


「だけど事情を分かったわ。つまりあなたは救世軍の一員として働きながら、私たちの情報網を駆使して行方不明のお兄さんを探したい、ということね?」

「は、はい。あ、あの、でも、確かに私の旅の目的はお兄ちゃんを見つけることですけど、だからって救世軍の仕事は適当にやろうとかそんな風には思ってません。私はトラモント人じゃないし、はっきり言ってモンガイカン? ていうか、部外者だと思います。でも国がどうとかそんなの関係なくひとりの人間として、ジェッソの郷守(きょうしゅ)みたいなのがのさばってるのは許せません。だから……」

「私たちと一緒に戦いたい、と?」

「はい。私の力を人のために活かせるのなら」


 ──どうせ剣を振るうなら、自分のためじゃなく他人のために。

 ジェッソを出た直後の晩、カミラはイークから聞かされた父の言葉を思い出した。カミラはその遺訓(ことば)に従おうと思う。だって既に救世軍に味方して、カミラは黄皇国兵(ひと)を殺めた。その責任は取らなければならないと思う。カミラが今更何をしたところで、死んでしまった人間が甦るわけではないけれど。それでも、いや、だからこそ、カミラはこれからも救世軍のために剣を振るい、黄皇国軍(おうこうこくぐん)と戦うのが筋だと思った。人の死は「なりゆきでした」で片づけられるほど安くない。

 なりゆきではなく、彼らの死に意味を与えるためにはこうするのが一番だ。

 それがたぶん己の罪を背負うということ。それから逃げないということ。

 少なくともカミラはそう思う。


「カミラ。救世軍の代表としてあなたの気持ちはとても嬉しく思うわ。だけどあなたはまだ十六歳。ここで私たちの仲間になれば、この先長い人生を棒に振ることになるかもしれないの。仮定の話でもあまりこういうことは言いたくないけれど、もしも救世軍(わたしたち)が敗れたら……そのときはたとえ命があっても、日の当たる場所では生きられない」

「それは覚悟の上です」

「答えを急がないで。あなたにはまだ多くの選択肢が残されているし、もっと穏やかで満ち足りた時間を過ごすことも許されている。それらすべてをかなぐり捨てて多くの傷や責任を背負い込むにはあなたはまだ若すぎるわ。それでも?」

「はい。それでも戦うって決めたんです。その意思を翻すつもりはありません」


 カミラはきっぱりとためらいなくそう答えた。

 もとより兄の行方が分かるまでは郷に戻らないと決めた身だ。

 仮にこの先兄と再会することがあったとしても、事情を話せば兄だって一緒に戦ってくれる。むしろ今この場に兄がいないことが不思議なくらいなのだ。

 黄皇国の現状を知ったら、彼はきっと黙っていない。暴政に苦しむ人々のため、自分も剣を捧げることを選ぶだろう。だから、カミラも迷わなかった。

 そもそも迷う理由がない。カミラがそういう意思を視線に乗せて伝えると、フィロメーナはひとつため息を落とした。

 どうしたものか、と、カミラの処遇を決めかねているようだ。


「フィロ。こいつは一度こうなったら、絶対に自分の意思を曲げないぞ」


 と、ときに思わぬ助け船が出た。フィロメーナにそう助言したのは、カミラ側でもフィロメーナ側でもない中立の席に腰を下ろしたイークだ。ウォルドの方は何もない部屋の隅に突っ立って、腕組みしながらなりゆきを傍観している。


「俺だって散々説得したんだ。それでもこいつは結局ここまでついてきた。強情なんだよ、兄貴に似てな」

「それ、イークにだけは言われたくないんですけど」

「俺に似たって言いたいのか?」

「少なくとも半分は」

「確かにイークも相当強情だものね」

「おい、フィロ」


 ひくっと口もとを歪めながらイークが言い、フィロメーナは肩を竦めた。

 どうやら今回は「冗談」と取りなしたりしないようだ。


「ギディオン。どう思う?」

「儂はフィロメーナ様のご判断に従います」

「ウォルドは?」

「まあ、本人がそう言うなら別にいいんじゃねえか? そいつはそこそこ機転がきくし、そこそこ度胸もあるし、剣も神術もそこそこ使える。そこそこいい人材だと思うぜ」


 今度はカミラが口もとを歪ませる番だった。ウォルドはあくまで「そこそこ」を強調してきて、褒められてるんだかけなされてるんだか分からない。けれどもカミラは言い返したいのをぐっとこらえて、今はフィロメーナの答えを待った。

 しばしの沈黙。

 フィロメーナは改めて息をつくと、やがてまっすぐにカミラを見つめ、言う。


「分かったわ。カミラ、あなたの救世軍参入を認めます」

「ほっ……本当ですか!?」

「ええ。あなたのその強い心に敬意を払って」


 言って、フィロメーナは椅子から腰を上げた。

 そうして再度カミラを見据え、すっと右手を差し出してくる。


「改めまして、私は救世軍総帥のフィロメーナ。フィロメーナ・ジェニオ・プラータノ・ピラストロ・オーロリーよ」

「え?」

「長い名前でしょう? 本当は勘当された私に家名を名乗る資格はないのだけれど、これが私の真の名前。トラモント貴族の間では、本当に信頼の置ける相手にしか真実の名を教えないの。だからこれは私からのささやかなお返し」


 そう言ってフィロメーナはたおやかに微笑んだ。

 お返し。何の、とはカミラは()かない。訊かずとも分かる。彼女は先程カミラが払った最大の敬意に、最大の敬意を返してくれたのだ。

 ぶわっと胸が熱くなった。どうしよう。ちょっと泣きそうだ。

 カミラはその感情のままに立ち上がり、差し出された手を握り返した。

 細くてやわらかくて、温かな手だった。


「ようこそ救世軍へ。これからは志を同じくする仲間として、どうぞよろしく、カミラ」

「はい! こちらこそよろしくお願いします!」


 カミラの表情に歓喜が弾けた。

 それを見たフィロメーナも嬉しそうに笑い返してくれる。

 けれどもそのときカミラは気づくべきだった。


 やわらかな笑顔の裏で、彼女がじっと何かを探っていたことに。



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