34.お約束というものだ
会社と組合が出来て半年、スラムのほぼ全員が職に就いた。最近では市民からも働きたいと来ている。むしろ人が足りない。
カトレアも随分頑張っている。
大変だったのは教科書だった。紙無いし。いろいろな木や植物の繊維を集めて試行錯誤。和紙ね。
印刷は活版印刷で大量生産した。
すると商業ギルドから技術提供のお願いがきた。どうせやり方が分かれば誰でも出来るので、今のうちに恩を売っとく。
無償提供の代わりに組合と会社の干渉はなし。商業ギルドは他国に技術を売りつけウハウハ。
「カミス様、運動会とはなんですか?」
結婚するのに様は無いだろうと言ったのだが、カトレアは使徒様かカミス様。セリーナは最近やっとカミスさん。アイリスはカミス。
分かりやすくていいよ。いろいろと。
「子供の成長を親に見せる為のものかな。簡単に言うと走ったり、みんなで踊ったりする。親にも参加してもらう。孤児は見に来た観客から代わりに出てもらおう」
「勉強だけでは無いのですね」
「偶には息抜きも必要さ」
準備に一カ月、練習に一カ月費やした。
子供達の作ったポスターを街に貼ると問い合わせがガンガン来た。説明が面倒なので来れば分かると答えさせた。
最近ではスラムの激変に、この国の他の街からも視察が来る。もちろん運動会にも来た。
開会式ではカトレアが来賓の挨拶。準備運動のラジオ体操では、全員が一糸乱れない動きに観客から驚きの声が上がる。
まだ始まってないよ。
選手宣誓のあと短距離走から始まり、玉入れ、綱引き等定番です。
「カミス様、なんで最後の大玉転がしだけポイントが全然違うのですか?これでは今まで頑張って来た方が可哀想です」
「お約束というものだ」
「お約束ですか?」
「接戦ならいいが、最後の種目なのに逆転出来ないなら、見る方もやる方も面白く無いだろう。ギリギリ逆転出来るポイントを言うと、どっちも頑張るし、見てる方も熱狂する」
「良く考えてありますね」
俺の考えではないけど。
勝敗が決まり、初めてにしては成功だろう。
「カトレアお疲れ」
「私も楽しかったです」
「それは良かった」
「もう直ぐ、約束の一年も終わります」
「それは良かった」
そろそろ腹をくくるか。




