首都高速湾岸戦
東京高速湾岸線・・。
平日なのか弾丸のように下っていく自動車が少なく、車内から流れる内陸側のビル郡を横目で眺めていた。
8月の事もあって車内クーラーは非常に効いてて涼しい。
川崎の好きなアニメソングを耳に彼女はそれにノリながら鼻歌を歌っている。
彼女の三菱ランサーの後部座席に座りただ呆然と景色を見ていた。
日本政府からの依頼や大企業の契約もあって私たちは私兵数百名を日本国内に送り、テロ対策や警護の仕事を行っている。
最近では"ドイツ赤軍"、"日本赤軍"を名乗る大規模テロ組織が頻繁に要人襲撃をしているらしいが・・。
「そういえば日本赤軍とドイツ赤軍って爆破テロとかしなくなったね」
私は暇だったので運転中の川崎に話かける。
「そうね。あれもあなたと同じ民間派遣軍だから、信頼性とか大事にしてるんでしょうね。やるだけお金が入って活動できるし」
「ふーん・・」
まあまだいい方か・・いろんな意味で。
「私も休暇取れたから、このまま湾岸線突っ走って新宿まで遊びに行こうかしら。一緒にどう?」
「いいよ。一緒だからさ」
私はサイドミラーをチラっと覗いてみる。
シルバープリウスや日産製のセダンにシルバー4tトラックが私たちの後ろについてきている。
すると突然、背後の追い越し車線から1台の黒いセンチュリーがエンジンを鳴らして抜いて前方を塞ぐ様に斜線を変更した。
「むっ、何なんだこいつ・・」
川崎は腹が立ち車線を変え、エンジンフルにランエボの速度を増さセンチュリーを抜こうとするので私はその車両に視界を入れた。
だが曇りガラスで中の人間が目視できずにそのまま見る見るうちに小さく遠ざかっていく。
「あの車両達ずっとついてきてない・・?」
思い当たる事に川崎がつぶやいた。
その時、金属音が二回響いて車両が揺れる。後に微かに聞こえる火薬の炸裂音に状況がわかった。
尾行されていたんだと。
「あのセンチュリーとプリウスから撃ってきてる!」
「追いつかれる!」
開いたガラス窓に上半身だけを出して、ホルスターから取ったM1911A1拳銃で私は応戦する。
4tトラックの背後に見えるだけでも何台ものプリウス、そして日産セダンが列を組み、挑めるものから外れて急接近する。
そのセンチュリーとプリウスがそうだろう。
「民間かと思えば尾行者か!数が多いぞ」
こちらとの距離が縮まる。
センチュリーのルーフガラスからバラクラに、青いチャックのシャツの上から防弾ベストを着用した男が、AK47と思われる小銃をこちらに構えてきた。
胸元のワッペンから鎌とハンマーの赤印、JRAと書かれた表記が眼に入っる。
「くそ、日本赤軍の連中だ!」
敵の車両と私たちの乗るランサーとぴったり真横にくっつき、敵との顔はしっかり見えていた。
3人乗っている・・。
拳銃をルーフガラスから顔を出す敵に一発撃ち込む。顔面を撃ち抜き、噴水のように血が吹き出る。
その後運転席に銃を乱射した。
だが貫通もせず右フロントガラスにヒビが出来ただけで、センチュリーはランサーむけて体当たりした。
その弾みで私は柔らかい後部座席に倒れスライドオープンしたM1911A1拳銃を見てリリースボタンを右親指で押す。
自重で空のマガジンが勝手に落下。
7発の弾丸が詰まった予備マガジンを装填、金光する弾がエジェクトポーションから顔をだし、スライドストップを倒す、
スライドは弾と共に隠れ、薬室に送り込まれた。
もう弾がない・・。
流れる冷や汗に、再びセンチュリーの車体へ何発も弾丸をぶち込む。
やった!
敵がひるんだ!
手応えはあった!
幸いにドアは防弾仕様ではなく、運転席にたっぷり銃弾を送ると運転する男はぐったりとハンドル前に倒れ、センチュリーはガードレールに衝突。タイヤの甲高い音と共に横転した。
「言い忘れた!座席にライフルがあるから使ってちょうだい!」
「それを早く言え!!」
って座席って・・!
急いで座席下に屈んで仕掛けをさがした。
そうしている間にもタタタ・・、バチバチと遠くの銃声を耳に座席下の不自然なレバーを押した。
座席は開いた。
私は口を開いた。
「おいおい冗談だろ!お前んちの所はまだベトナム戦争やってるのか!?」
ブラック色のライフル銃。
M16の初期型。
ケースに20発マガジンが10個。
ずいぶんマニアックな予備銃と、敵が使うAKを見て敗北感をしみじみ感じていると「嫌なら使わないで」と言われる始末。
ないだけましだよねえ・・。
贅沢言ってられない。
M16を手に、20発マガジンを装填。引いたコッキングレバーから軽い金属の音がなる。
右手で持ち、親指から安全装置を倒し、発射できる状態でFULL(連発)に切り替えた。
後方から近づくシルバープリウスに構えた。ピープサイトはぼやけ、照準のツマと車体がくっきり見えた。
恐らく相手も防弾仕様だから視界を奪えば・・。
飛翔する7.62mm弾丸は空気を切る音を耳に、乱れて飛ぶ。
私が倒した引き金に、鋭い銃声が3回連続。
プリウスには変化がなかったけど、フロントガラスに丸いヒビが作られた。
「川崎、オートバイ部隊だ!」
私は叫んだ。
「トンネルに入る!撃ちまくって!」
ああ、軽機関銃が欲しい!
フランカ達の部隊さえ来てくれれば・・。
ゴウッとエンジンの音が反響し、オレンジの光が照らす長トンネルへ進入。
自動車部隊を次々抜かし、次第に近づくバイクのエンジン音。
警察の白バイ隊が使うバイクと同じ形をしている。
これにもランサーは逃げられずに追いつかれてしまう。
それに窓から上半身出すのちょっと大変だ・・。
彼女には申し訳ないけどランサーの後部ドアとルーフを壊して撃ちやすくしよう。
「川崎、悪いけどドアはずすよ!」
「ちょっと待って!私の車・・」
左後部ドアを蹴り破る。開閉器を銃で撃ち、それをストックで叩いた。
ドアは背後に流れるように吹き飛ばされ、オートバイに乗る敵に衝突するのを目に、次はルーフという天井に発砲した。
直径数センチcmほどの弾痕で円を作り、それも一緒にストックで何度も叩き破った。
川崎は自分の車が壊されるところを見て「なんて事してくれるんだ」と大騒ぎ。
きっと初めての新車なんだろうかなあ・・。
なんだか悪い事をした。
「すまない。弁償するから」
穴の開いたルーフからルーフなら自由に撃てるぞ!
続々とオートバイ部隊が襲撃する。
相手らは二人乗りなので短機関銃を乱射して迫ってくる。
強烈な連射とその威嚇に私は怯みながらも、負けずにとにかくM16を撃ちまくった。
と、一台のオートバイが私の銃撃を潜り抜け、ランサーの死角に入り込んだ!
足元を撃たれる!
すぐさましゃがんだ。
敵との距離は2m未満だろうか。手を伸ばせばちょうど敵に触れられるくらいに。
そして大きなオートバイ用の黒いヘルメットの男が銃を構えて睨む。
私の頭は白くなりつつあった。だが車内に銃声が響き、男が持った短機関銃は弾かれ、私はM16をその場に置き、銃を持った男を連れ込むように車内に引っ張った。
尋問調べにちょうどいい!
「暴れるとぶっ殺すぞぉ!」
と脅し、座席上でブロック。でかいヘルメットを車道に投げ捨て、顔を出した男はまだ若い青年だ。
運転席でオートバイを操る男を射殺した川崎の手に、南部十四年式拳銃が握られている。
しかし泣きながら必死に抵抗するので川崎から渡されたスタンガンで首元を撃つ。
魚が陸に揚げられたようにピチピチと痙攣し気絶した。
敵も多ければ火力も多い。
三菱ランサーはフルパワーで走るも、バックプレートは風穴だらけで座席の中身が露になる現状に私はより焦りを感じる。
それに私たちを襲撃するのにずいぶん多い大部隊に不自然を感じ、私達を恨む者が依頼し、抹殺しようとしているのだろうか。
後部ガラスが割れ、座席一面に透明な霰がぶちまけられ、サイトを覗く余地もなく、座席からとにかくM16を発砲し続けた。
「どうだ!?車は持ちそうか!?」
空のマガジンを抜きながら必死に運転する川崎に問いかけた。
「わからないよ!トンネルを抜けたらエリアチェンジして都内に入る、そこで何とか持久戦をするしかない!」
「今の現在地は!?」
「首都高速湾岸線の湾内トンネル、北上して台場の方面に向ってるわ!インターチェンジしてレインボーブリッジに入る!」
「了解!頼んだぞ!」
乾いた銃声が続いてる。短機関銃だからしばらくは持ちそう・・、いや持って欲しいところだ。
冷静に・・!
サイトを覗いて、3台のバイク部隊を視認、照準を合わせ一発づつ弾丸を撃ち放つ。
1台目が勢いよく転倒し、2台目も同様に、そして最後はガードレールに衝突と上手い具合に仕留めるとバイク部隊の後続は来なくなり、残るは4tトラックと待機していた、プリウス、セダン部隊である。
「日産セダンとプリウスだけで6台は見える・・。4tトラックが1台・・」
またルーフガラスから男が現れる・・!まったくきりがない。
トンネルを抜けたか、白い日差しが降り注ぎ湾岸線を挟んで聳え立ち、後方へと倍速したフィルムのように流れていく。
「民間車両を追い抜くよ!横揺れに注意して!」
と言われ、急に体が右に揺れて、姿勢を崩す。追い越し車線に大型バスがちんたら走っていた。
「うかつに撃てないな・・」
「まあね。民間人には悪いけど、このまま振り切ってレインボーブリッジに入るわね」
セダンとプリウス、4tトラック部隊は見えなくなる。
ふう・・、もう来なくていいから・・。
だが1台だけ民間車両を強引に追い抜く、黒塗りのレクサスが接近している。
改造ルーフガラスからまたしても銃を持ったでかい男が現れる。
一発で仕留めてやろう。
「新手よ!」
言われなくても!
再び照準を敵にあわせ射撃する。
しかしどういうことか、怯みもせず、黙々と二脚らしきものを銃に装着。凄まじい火薬の炸裂と発火煙に危機を感じる。
「軽機関銃だ!一方的に撃たれたらおしまいだぞ!」
発炎を受けながら川崎に言う。民間車の両も増え、左右と揺れながら自動車下から衝撃が走り、鉄塔に掲げられる緑の標識にはレインボーブリッジと書かれ縮んでいく。
プロの走り屋が運転してるのだろうか。
レクサスは速度が落ちないばかりか増している。
およそ40mほど近づくレクサスのタイヤを精密に狙いを定め、引き金を引いた。
「あれっ?」
パンクしない・・、防弾タイヤか?
男の防具もずいぶんとがっちりしている。まるでパワードスーツに近い爆弾処理用着のような形で図体が大きくその分、狙いやすい。
しかしM16のショートマガジンも残り一つ。
やけくそになった私は無言で弾をぶちまけた途端、男の頭が突然消えて上半身だけになっている。
レクサスのフロントには何時の間に穴が開けられ、炎と共に爆砕。微かに匂うガソリンと硝煙が鼻に残る。
そしてランサーは緩やかに停車した。
何かと思い正面を見ると、道路封鎖した警視庁の部隊とP.D.M社の社員達が駆けつけてきたのだ。
私はほっと一息。
川崎もなんだか運転に必死だったようで運転席で前倒れ。とにかく緊張しながら走ったんだろう・・。
「うわ、酷い姿だ」
オレンジ髪のメガネの白人女が私を見て言う。
「ああ、フランカか・・」
「ミトちゃんずいぶん無理したねー。病院いく?」
気づかずに私は負傷をしていた。
プレートやらバックガラスが粉々に、蜂の巣だらけにされながら私の私服は血まみれに。
戦闘に必死だったので気づいていなかったのだろう。
この後救急車に乗せられ、都内の病院で治療をすることになったと同時に、確保した日本赤軍の男は金で雇われた一般のバイカーであり、我々を襲撃した依頼人と理由も不明であった。