スタートライン-8
初めての場所で、選手の名前も何もかも分からない。
何人かAチームの人たちは去年の選手権に出てた人だから分かったけど、それ以外はほぼ同じ顔に見えてしまう。
Bチームには3人、坊主頭が居た。
1年で既にBチームにいるということは、それなりに結果を出して推薦で入った人たちなのだろう。
その中に同じクラスの春山くんもいたのには驚いた。
同じ1年、負けないように頑張らないと。
もう一度気合を入れなおして、仕事に没頭した。
次はビブスが必要な練習。
AチームとBチームのゲーム形式の練習だ。
「宮城さんはスコアつけたことある?」
「はい、中学の時につけてました」
「じゃぁ、このゲーム、付けてみてくれる?」
「わ、わかりました」
「といっても背番号ないから選手わからないか…」
「下から1番でつけて行って大丈夫ですか?」
「お、とりあえずそれでやってみて。」
下から1番、というのはゴールキーパーが1番ということ。
Aチームは4-3-2-1のフォーメーションをとるみたいだから、2番は右サイドバック、センターバックが3と4、左サイドバックが5…
そんな風に持ってきたメモ帳に形を描いて、番号を振っていると、上から影がかかった。
「へー、宮城はサッカー知ってるんだな?」
「島田さん、彼女中学の時マネージャーやってたんですって。」
「なるほどどうりで。」
「なかなかですよね」
「そうだな。あとは選手の名前と顔を一致させることだな」
そういって、頭をガシガシ撫でられた。
「が、頑張ります…」
「ちなみにBは3-4-3だ。まぁビブスの番号でつければいい」
「はい!」
「よし、じゃひとまず10分ハーフで始めるか。いいな、形にとらわれすぎるな。あとはラインコントロール忘れないように!はじめ!」
中学でやっていたといっても、さすが全国一を取ってるチームだ。
早い。何より流れも動きも全然違う。
追いついて行くだけで本当に大変だ。
当たり前だけれど、たった10分ハーフの練習でも全員が本気だ。
何よりゴール数がどちらも多い。
記録を残していくことが本当に大変で、メモ帳は波線や矢印でぐちゃぐちゃになってた。
「どう?」
丁度5分間の休憩中を見て、必死でスコアを埋めていた私に原田先輩が声をかけてきた。
「あ、すみません…ドリンク」
「あーいいのいいの、大丈夫よ、それよりスコアどう?かけた?」
「一応…。ただやっぱりスピードが全然ちがくて…」
「どれどれ…。あら、全然かけてるじゃない。」
原田先輩の声を聞いて、島田コーチもボードを覗き込む。
「おお、思ってた以上だ。あのゲームでよくかけたな」
ニヤリと笑った島田コーチを見て、私も合点が行った。
わざと得点が多く入るようにしていたのだ。
勿論、島田コーチの怒声はところどころ聞こえていたけど、その内容はほとんど頭に残っていない。
やられた…と眉毛をハの字にしたところで、島田コーチも原田先輩も笑い出した。
「後半はちゃんとかけるようになるから大丈夫だ。流石にあれを後半も続けたら、あいつらAチームじゃないだろ?」
「…はい。」
「ま、いい勉強になったわな?」
「島田コーチ、5分経ちましたよ」
原田先輩の助け舟(?)により、後半はさすがに前半のような怒涛のゴールラッシュは皆無だった。
【用語】
ポジション
・ゴールキーパー(GK)…ゴールを守る選手。唯一ペナルティエリア内で手でボールを扱うことができる。
・ディフェンダー(DF)…主に後方で守備を行う選手
サイドバック(SB)…DFの中で主に左右を守る選手(右SB、左SB)
センターバック(CB)…DFの中で主に中央を守る選手
・ミッドフィルダ-(MF)…主に中盤で守備と攻撃とをつなぐ選手
・フォワード(FW)…主に前線で攻撃を行う選手
フォーメーション
GKを除いたフィールドプレーヤー10人をDFから順に置いた数字。
・4-3-2-1… DFが4人、MFが3人、(もしくは4人)、FWが3人(もしくは2人)
・3-4-3 … DFが3人、MFが4人、FWが3人
ただし、DF以外のMF、FWの人数に関してはチームの戦略によって配置が異なる。
(攻撃的の場合はFWが多く、MF登録であってもFWの役割をする等)