スタートライン-7
神谷先輩のアドバイスによって、今の自分がいる。
集まった入部希望のマネージャーたちを見て、神谷先輩に感謝した。
だって、すぐ動ける準備をしてるのは私だけだったから。
30人は居るだろう、マネージャー希望者。
自分以外は全員真新しい制服姿だ。
若干のざわめきの中、教員棟から出てきた鬼頭先生が腕を上げる。
それだけで、部員全員が集まる。
鳥肌が立つほどの感覚だ。
「今日からマネージャーテストも入る。2、3年は分かってるな。1年は全員テスト該当者だ。以上」
【はい!宜しくお願いします!】
総勢200人近く居る人間の声は凄い。
勿論、自分も含めて。
新入部員の何人かは既に春休みから練習に参加している特待生組みも居て、学校指定ジャージの坊主頭と、サッカー部から渡されている練習着の坊主頭が混じっている。
サッカー部と野球部、バスケ部、バレー部、体操部男子は暗黙の了解で1年生は全員坊主だ。
入部できようが、できなかろうが関係なく、意欲のあるものは全員坊主にして入部テストを受ける。
女子もその各部によって暗黙の了解として定められてる髪形をしている。
サッカー部のマネージャーもまた然り。
短髪もしくは一つしばりだ。
茶髪なんて言語道断。化粧なんてありえない次元だというのに、何人かしてきてるからあきれてしまう。
まぁ一発で落とされるんだろうな、なんて思ってしまった。
チームが分けられているのだろう、それぞれにマネージャーとコーチらしき人がついているようだ。
その様子を見ていると、鬼頭先生に声をかけられる。
「宮城だったな」
「はい」
「お前だけしか動けなさそうだから、とりあえず原田に着け。おい、原田」
「はい、分かりました。」
そういって、駆け寄ってきた先輩は長い栗色の髪をびしっと1つに結い上げているとてもキレイな先輩だった。
「宮城香枝です、宜しくお願いします」
「はい、宮城さんね。私は原田朋子です。AチームとBチームのマネージャー兼任してます。今日はとりあえず私の動きを見てもらって、補佐してもらいたいんだけど…マネージャーとかの経験ってある?」
「中学でサッカー部のマネージャーしてました。」
「経験者なのね。心強い。じゃぁ大体分かると思う。あとはタイミングかな。」
「足を引っ張らないように頑張ります。」
「うん、宜しくね。じゃぁ行きましょう。」
前を小走りで行く原田先輩に付いていく。
後ろでは早速注意されている生徒が居たらしく、鬼頭先生にガミガミ怒られていた。
目的地には若い男性が立っていて、周りを部員30名くらいが座って話を聞いていた。
「お、原田。このボードの流れでやるから。で?」
ボードを原田先輩に手渡しながらもこちらに目線をよこす男性に、原田先輩も苦笑を浮かべ「マネージャー志望ですよ」と話す。
「1年10組宮城香枝です。宜しくお願いします。」
集まっていた全員の視線は頭を下げて直視しているわけではないのに結構怖い。
「コーチの島田だ。頑張れよ」
「はい」
「聞いたな、お前ら。恥ずかしい練習するんじゃねーぞ。じゃ、始める!」
【はい!】
方々に散った部員達を横目に、すぐ近くのベンチに向かう原田先輩を追いかける。
「大体、練習は各チームといってもウチはAからEまでチームがあるんだけどね。大体AとBは一緒に練習するの。で、島田コーチが組み立てるプランにそってこなすイメージ。」
「はい」
「私たちは、このボードにある赤丸があるでしょ?それ以外はドリンク作ったり、次の練習の準備したりする感じかな」
「赤丸は笛吹きとかですか?」
「そう、話が早くて助かる!さすがに今日笛吹きはないけど、大体練習内容わかる?」
そういって渡されたボードを確認する。
何点か分からないところを上げ、どんな練習なのかを教えてもらうと、言い方が違うだけで中学でやっていた基礎練習と同じ内容だったのですぐ理解できた。
「やっぱ経験者ってでかいわ…。ということで、今日Bチーム側の練習準備してもらっていいかな?」
「え、はい!頑張ります。」
「もちろん分からないことは早めに確認してね。今日のプランだとあまり違う内容ではないから大丈夫だと思うけど。」
そういって、ビブスの場所やドリンクの作り方、本数、救急箱の場所などを教えてもらった。
「基本的にウチは自分たちのことは自分たちでやる、っていうのを徹底させられてるから、作っておいておけば大丈夫よ。」
なるほど、でも分かるように置いておかないと意味がないってことか…。
「ふふふ。意味が分かった?」
「ふふ、はい。」
【用語】
ビブス…ゼッケンの国際的競技における呼称。ここでは紅白戦などを行う際に練習着の上から着用する、あらかじめ数字が印刷されたメッシュ状のタンクトップ型を指す。