スタートライン-6
入学式の翌日は、部活動紹介。
マンモス校だからこそ、部活動も多い。
1学年500人強の生徒が入ってもまだ余裕がある大きな体育館の舞台上で、持ち時間一杯にそれぞれが部員募集の声を上げていた。
私立丸川高校はサッカーを筆頭に、野球、テニス、柔道、剣道、卓球、バスケ、バレー、体操、バドミントンとかなりの数が全国レベルだ。
部員数はそれぞれ100を超えている。
だからこそ、花形の部活に入るのは勿論、マネージャーも入部するのは至難の業だったりする。
それぞれが真剣にやっている、それを影で支えることができないミーハー根性の持ち主は徹底的に除外されるのだ。
いかに全国一を取り続けるために3年間を捧げられるか、それだけ。
長く続いた部活動紹介の時間を終えれば、後はホームルームを終え、各々希望の部活に入部依頼届けを提出しに行く。
サッカー部の顧問である体育科主任の鬼頭先生を訪ねることにした。
名前からして怖そうだが、見た目も怖い。
竹刀片手に厳つい体で校門に立っているのを見ると、それだけで背筋が伸びるものだ。
野球部の総監督である体育科副主任の木山先生と並ばれると、山が聳え立っているようにも思える。
体育教官室のドアをノックし、「1年10組宮城香枝です。鬼頭先生に入部依頼届けを提出しに来ました」と、神谷先輩が教えてくれたことを忠実に守って、緊張しながらもハッキリとした声で告げる。
「入れ」
くぐもった声でも、その低い声は聞き慣れない。
恐れても仕方ない、とドアを開け、鬼頭先生の元へ向かった。
「なんだ、入部依頼か?」
「はい、宜しくお願いします。」
「準備は?」
「持ってきています」
「じゃ、今日から1週間な」
「はい、宜しくお願いします。」
頭を下げ、集合場所を再確認し、部屋を出た。
ちゃんと、言えただろうか。
中学の時の先生も厳しい人だったから、それなりに鍛えられてきてはいるけど。
今日から1週間。
マネージャーですらテスト期間を設けられる。
邪魔をせずに、いかに効率よく動けるか。
それを先生を含め、先輩マネージャーと部員達に判定を下されるのだ。
廊下を走らない程度に早歩きし、クラスに戻る。
荷物をまとめていると、間宮祐希こと祐ちゃんが声をかけてきた。
彼女と話をしたのは部活動紹介の時。
出席番号が前後していたので、挨拶はしていたけれど、ちゃんと話したのはついさっきだ。
野球部のマネージャーを志望している彼女も入部依頼届けを提出してきたらしい。
「どうだった?」
「緊張したよー。今日から1週間だって」
「今日から?!」
「祐ちゃんは?」
「私明日からでいいって言われた。今日は部活トレーニングだけだからって」
「そうなんだ、良かったじゃん」
「良かったのかな?でも宮ちゃん頑張ってね!」
「ありがと!じゃ、行ってくるね!」
「うん!また明日聞かせてね!」
数人の名前も覚えてないクラスメイトに手を振って別れを告げ、ロッカーへ向かう。
部活棟とは別に、各クラス男女別にロッカーが設置されており、そこで着替えを手早く行う。
持って行くものはポケットに入る小さなメモとペン。
たぶん、メモをする時間すら与えてもらえないと思うけど。
時計を確認して、ロッカールームを出る。
向かうは第2グラウンド。