スタートライン-1
国立競技場で高校サッカーを終える。
それは全国各地でサッカーをしている高校生が夢見るもの。
ただ、その場に立てるのは4チーム。
4チームといえども、決勝戦か、3位決定戦かの違いは大きい。
学校のマイクロバスから選手控え室へ移動する彼らを一番後ろから眺める。
一人ひとり引き締まった顔。
今まで見たことがないほどの、緊張感。
ただ、その緊張感は悪い方へは行かないだろうということだけは見て取れた。
マネージャーはベンチに入らない。
入ってはいけない規則は大会にはない。
ただ、学校独自の独特の風習に近いためか、女子マネージャーはほとんど見ない。
勿論、男子のマネージャーがいる学校は男子マネージャーがベンチに居ることが多い。
そう、聖地に女子は踏み込めないのだ。
分かってはいた、けどやはりどこか寂しい。
高校生活を全てサッカーに捧げていた身としては、同じ場所で同じ景色を見たかった。
手元に目をやる。
一人ひとりの背番号をつけた手製のお守り。
決勝で渡すってどうなんだと思ったけど、なんとなく、これは決勝に渡したいと思ったのだ。
他のマネージャーで作った別のお守りは県予選の時に渡してある。
「佐川」
「お、宮マネどした?」
丁度ロッカーから出てきた佐川彼方に手に持っていた紙袋を渡す。
「これ、皆に渡して」
「ん?…お前これ…」
「いまさら感半端ないでしょ?でも、なんとなく今日このタイミングな気がしたの。」
「わかった、ちゃんと一人ひとりに渡す。俺が責任持って。」
「宜しく。じゃ、上にいるから」
「あぁ」
最後に大きくハイタッチをして、背番号10の背中を叩いた。
「走って来いよ!」
「あぁ!ありがと!」
頑張れとは言わない。
佐川だけではなく、メンバー入りした選手は勿論、今スタンドにいる部員全員が頑張ってきたから。
だから、みんなの分、縦横無尽に走って来い、走り回って来いと背中を押す。
ざわざわと騒がしいスタンドは、「寒い寒い」と騒ぐ応援の女子に、機材や順番の確認を行う応援団長の声などでどこか浮き足立っている。
スタンド中ほどに立って、あたりを見回す。
この景色をここで見るのは今年が最後。
「宮マネ先輩こっちです!」
「あーごめんね、荷物大丈夫だった?」
2年生のマネージャーに声をかけられ、部員が集まっているあたりに向かった。