夏の木立-6
「まぁちょっとしんみりしちゃったけど、だからこそ春山君には無理をしてほしくないんだ。自分を大事にしてあげてほしい。怪我と向き合ってほしいって思うの」
よっこいしょ、と声をかけて立ち上がると、春山君の顔も自然と上を向く。
「宮マネ…あのさ、お願いがあるんだけど…」
「ん?」
「お兄さんに会わせてもらえないか…?」
「へ?うちの兄と?」
「聞きたいことがある」
春山君の目線は真剣そのもので、目を離すことができなかった。
その真剣さに、卑怯にも交換条件を提示する。
「じゃぁ、約束してくれる?」
「ん…?」
「もう、オーバートレーニングしないって。怪我と向き合うって。」
「…ん」
こくりと頷く頭をみて、思わず手を伸ばし、ワシワシと乱暴に撫でてしまった。
「よし、いつって約束は出来ないけど、兄に連絡取ってみるね」
「ん」
「じゃ、今日はトレーニング終わり。よくストレッチして、アフターケア忘れないでね?少しでも腫れるとか痛むとかあったら速攻で言うこと!いい?」
「わかった」
春山君の返事が、得意の「ダイジョウブ」ではなかったことに安心し、グラウンドに戻ることにした。
「宮城、どうだった?」
島田コーチはなんとなく分かってたんだろう。
若干面白そうな顔をしている。
この人のこういうところが面白いというかなんというか。
「ご想像のとおり、でしたよ」
「やっぱりか。で、お前が喝入れてきたんだろ?」
「どこまでお見通しなんですかー」
脱力しつつも、手は動かす。
部員達はグラウンドの整備をし、私たちマネージャーもそれぞれの日誌を記載していた。
「で、どんなかんじなんだ?」
「まぁ、大分重めのお灸を据えておいたので、たぶんダイジョウブだとおもいますよ」
「なるほどな、春山流"ダイジョウブ"にならなきゃいいが」
島田コーチはガハハと大笑いをしている。
確かに、春山君の"ダイジョウブ"は部内でも信用ならないと評判(?)だ。
「あ、そうだコーチ」
「んぁ?なんだ?」
「部外者、というか経験者というか、うち兄なんですけど、春山君が会いたがってて、呼んでも問題ないでしょうか?」
「なんでまた」
「お灸の元なんで」
「…なるほどな。監督には俺から言っとくから、いつになるか決まったら連絡しろ。どうせ部活棟だろ?」
「まぁそうなると思います。分かり次第、お知らせしますね」
「あぁそうしてくれ」
コーチのOKもでた。
あとは兄を説得するだけだけど、なんとなく、あの兄のことだ。
面白がって来そうな気がする。
脳裏に浮かんだ兄の笑い顔にくすりとし、日誌に意識を戻した。
まだ夏休みは始まったばかり。
高校1年の夏、そこで何を経験できるのか。
小さなワクワクがとまらなかった。
若干短めですが、キリがいいのでここまでー。




