表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼の舞姫  作者: 月花
第1章
3/104



□ □ □



 ここで、ハッと目が覚めた。


「……ん」


 窓辺から差し込んでくる日光が思いのほか眩しくて、自然と声が漏れる。視界が少し歪んでいるのが気持ち悪く、感覚を書きかけるかのように何度もまばたきを繰り返した。徐々に明瞭になっていく。昼前のようだ。頬を撫でる少しぬるめの風は、春の陽気をはらんでいる。どうやら私は時間も忘れてぐっすり眠っていたらしく、身体は床に転がされていた。


 ――なるほど、あれはやはり夢だったのか。


 当たり前だ、と深く納得する。あれが現実であるはずもない。いや、現実であってもらっては困る。しかし思い起こしてみれば、とんでもない悪夢である。熱、傷み、風景――その全てがリアルで、とてもではないが夢とは思えない。今さらながら恐怖が膨れ上がってきて、心臓がバクバクと音をたてる。つられるように速まる呼吸。

 もう忘れよう、と自分に言い聞かせてみたけれど、しっかり記憶に刻み付けられていて振り払うことが出来ない。……いや、どうせ夢など時間が経てば薄れていくものなのだ。あえて気にしない方がいい。


 鼻をくすぐるのはい草の香り。目の前に広がるのは畳の緑――畳? 確か私の部屋は洋室で、寝具はベッドではなかっただろうか。何はともあれ身体を起こしてみよう――そう思い直し力を入れてみて、私はようやく現在の状況を理解する。手足は布できつく縛られていた。


「む、ぐ……!?」


 おまけに口には猿轡。声を出すことすらできない。何を言おうとしても、全て『もがもが』に変換されてしまう。生まれてこの方15年と少し、長く生きているわけではないけれど、ここまで酷い仕打ちは人生初であった。体験したくはない人生初だった。反射的に身体を捻って抵抗する。


「むぐ、う……っ!」


 改めて断言するが――ここは私の部屋ではない。和室と洋室、畳とフローリング。合致する点は皆無にも関わらず、なかなか気づくことができなかったのは、思考が霞みがかっているせいだ。寝起きとはいえ、やけに頭が働かない。

 ――ぼんやりと霞んでいる脳裏に浮かぶのは、しかし“誘拐”という2文字であった。


 浅くなっていく呼吸。せめて冷静さだけでも取り戻そうと努力する。この状態で落ち着ける方が不思議だが、自分だけが頼りなのだから、無闇に焦っているわけにもいかない。無駄に体力を使うのをやめて、客観的に自分の状態を観察する。身体は乱雑に転がされている。手足は縛られていて動かす余裕もない。その上口までご丁寧に塞がれている。


 ――明らかに、監禁だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ