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ここで、ハッと目が覚めた。
「……ん」
窓辺から差し込んでくる日光が思いのほか眩しくて、自然と声が漏れる。視界が少し歪んでいるのが気持ち悪く、感覚を書きかけるかのように何度もまばたきを繰り返した。徐々に明瞭になっていく。昼前のようだ。頬を撫でる少しぬるめの風は、春の陽気をはらんでいる。どうやら私は時間も忘れてぐっすり眠っていたらしく、身体は床に転がされていた。
――なるほど、あれはやはり夢だったのか。
当たり前だ、と深く納得する。あれが現実であるはずもない。いや、現実であってもらっては困る。しかし思い起こしてみれば、とんでもない悪夢である。熱、傷み、風景――その全てがリアルで、とてもではないが夢とは思えない。今さらながら恐怖が膨れ上がってきて、心臓がバクバクと音をたてる。つられるように速まる呼吸。
もう忘れよう、と自分に言い聞かせてみたけれど、しっかり記憶に刻み付けられていて振り払うことが出来ない。……いや、どうせ夢など時間が経てば薄れていくものなのだ。あえて気にしない方がいい。
鼻をくすぐるのはい草の香り。目の前に広がるのは畳の緑――畳? 確か私の部屋は洋室で、寝具はベッドではなかっただろうか。何はともあれ身体を起こしてみよう――そう思い直し力を入れてみて、私はようやく現在の状況を理解する。手足は布できつく縛られていた。
「む、ぐ……!?」
おまけに口には猿轡。声を出すことすらできない。何を言おうとしても、全て『もがもが』に変換されてしまう。生まれてこの方15年と少し、長く生きているわけではないけれど、ここまで酷い仕打ちは人生初であった。体験したくはない人生初だった。反射的に身体を捻って抵抗する。
「むぐ、う……っ!」
改めて断言するが――ここは私の部屋ではない。和室と洋室、畳とフローリング。合致する点は皆無にも関わらず、なかなか気づくことができなかったのは、思考が霞みがかっているせいだ。寝起きとはいえ、やけに頭が働かない。
――ぼんやりと霞んでいる脳裏に浮かぶのは、しかし“誘拐”という2文字であった。
浅くなっていく呼吸。せめて冷静さだけでも取り戻そうと努力する。この状態で落ち着ける方が不思議だが、自分だけが頼りなのだから、無闇に焦っているわけにもいかない。無駄に体力を使うのをやめて、客観的に自分の状態を観察する。身体は乱雑に転がされている。手足は縛られていて動かす余裕もない。その上口までご丁寧に塞がれている。
――明らかに、監禁だ。