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とある月が綺麗な夜だった。
ゆるくカーブした路地がずっと向こうまで続いている。ブロック屏に囲まれた細い裏道だ。何の変哲もない、しかしあえて言うならば時代遅れな古臭い町並みであった。
冷ややかなコンクリートを、剥き出しになった足裏で感じる。小石が刺さってズキリと痛む。
私は寝巻のまま――付け加えるなら裸足で――道の真ん中でぽつんと寂しく佇んでいた。柔らかな月光を浴びながら、チカチカ点滅する電灯の側で、たった1人。
数秒の空白の後。理解する、これは夢だ。
何と言っても状況が不自然極まりない。確かに私は布団に入った。記憶はやけに鮮明だ。電気を消してもらって、おやすみなさいと声をかけられて、遠ざかっていく足音を聞いた。だからこんな真夜中に出歩いているはずがなかった。
一瞬寝ぼけて家を出た可能性も考えたが、冷静に観察すると全く見覚えのない場所である。
――そして何より、手足から頭までピクリとも動かなかった。
(これが噂に聞く金縛りか……)
声まで出ない。足の指先まで硬直している。脳からの司令が次々に却下されていく。呼吸だけはしっかりできるのに、何だか息苦しくて、心臓の鼓動が速まった。
ドクドクと血が流れるのが分かる。血管を押し広げながら全身を巡っていく。身体が温まる。いや、むしろ暑い。全力疾走をした直後と変わらないくらいに熱を溜め込んでいるし、息が上がる。
自分の意思とは無関係に、身体が緊張を帯びた。まるで何かの準備のように勝手に進められていく。着々と完成に近づいていく。視線は相変わらず前に向いていた。路地の先を見据えている。ずっと向こうまで続く道の、行き着く先を。
――やがてその時がきた。ドクンと心臓が高鳴った。